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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 224

自分を褒め称えてくれるセイルにジェムは上機嫌であった。
なにしろ聖剣ルーナの勇者を支配下においたから愉快このうえなくジェムは笑い出した。
「はっはっは!こんなのはまだまだ序ノ口だよ。彼を越えるのが僕の夢だからね〜」
「閣下・・・彼とは誰の事ですか?」
彼が解らないセイルは誰なのかジェムに訊ねる。
ジェムは嬉々とした表情で言う。
「セイル〜この間、話したじゃないか〜大帝ディオンだよ。忘れたのかい?」
「すっすいません。遷都でゴタゴタしてましたから忘れてました(ジェムはディオン大帝に強いライバル心があるな?)」
意外なジェムの一面に驚きセイルは誤魔化すが、同時にディオン大帝にジェムが対して強い対抗心を持ってるのをセイルは気付く。

さて、再び旧王都イルシャ・マディーナである。
突如として人員を半分に減らされた衛士府。
そのうえ悪化する治安、増える犯罪。
休日返上で日々走り回る衛士達の中には、過労で倒れたり激務に耐えきれずに辞表を出す者が続出し、さらに現場は過酷になっていた。
中には哀れにも職務中に突然死した者もいる。
そのような者は“殉職”とされ、遺族には雀の涙ほどの慰弔金が渡された。
ちなみに自ら辞めた者には一切の保障は無く、仕事中に倒れた者は半ば強制的に“辞職”に追い込まれ、やはり同じ扱いであった。

もともと王都市内には衛士の詰め所(つまり交番)が点在しており、常に2〜3人が常駐していた。
今では殆どの詰め所が空となり、無人の詰め所の目の前で平然と強盗、強姦、殺人が起きた。

ここまで治安が悪くなった原因だが、どうも各地の犯罪者や盗賊などが王都に流入しているらしい。
人口の半分を新都へ持っていかれたといっても王都は未だイルシャ国内有数の大都市である。
王都機能が新都へ移ってしまって事実上権力の空白地帯と化したこの大都会は、ならず者達にとっては魅力的だった。

ならず者達は次第に群れ始め、集団化していき、やがて大規模な犯罪者集団が形成されていった。
それも複数。
それらは互いのナワバリを争い、市内各所で抗争が起きるようになった。
力を失い弱体化した衛士府は広い王都の全域を維持する事を諦め、王宮と貴族居住区だけを重点的に警護するようになっていった。
その間、ならず者共の各勢力は激しい抗争、内部分裂、合併統合を繰り返す。
やがてそれらの中から主だった者達が台頭して来て、王都を割拠する各集団の勢力図がほぼ固まるまで、約ひと月だった。
かつては王都を守護していた天下の衛士府も、今やその中の一勢力に成り下がっていた。

そんな中、アブ・シルはまだ衛士府に残っていた。
もっとも青息吐息であったが…。
彼はやつれ果て、顔色は病人のように悪く、必要な時以外には口をきかず、ジッと黙り込んでいる事が多くなった。
もっとも最後だけは他の衛士達にも共通していた。
黙っていたからって何か考えている訳ではない。
何も考えていない。
もう頭が良く働かないのだ。

そんなある日、中隊長がこんな事を言った。
「皆、ちょっと聞いて欲しい。我が第三中隊に特別任務が与えられた。ただし全員ではない。よって志願者を募る。5名だ」
「特別任務?」
「そりゃ一体どんな仕事なんですか中隊長殿?」
「それはまだ言えんな。まあ別にキツくもないし危険も無い。ただ任務終了後、二日の休暇を与えると副総監(旧都に残った衛士隊のトップ)が約束してくださった」
「「「…っ!!!!」」」
二日の休みと聞いた瞬間、皆の目の色が変わった。
「わ…私がやります!!」
「いいえ!!ぜひ僕に…!!」
「いや俺が…!!」
「なんの!!自分を置いて他には…!!」
皆が先を争って志願する中、アブラハムが叫んだ。
「あの!その任務、僕はアブ・シル先輩を推薦します!」
「……俺?」
我先にと志願する連中の輪から少し離れて黙っていた当のアブ・シルはキョトンとした顔をする。
中隊長は言った。
「アブ・シル君か……解った。良いだろう。5名の内1名はアブ・シル君とします。残り4名は公平にくじ引きね。恨みっこ無しだよ」
「くそ…アブ・シルか…」
「まあ仕方ない…今ウチで一番ヤバそうだしな…」
皆も渋々ながら納得した。
アブラハムはアブ・シルに言った。
「アブ・シル先輩!良かったですね!そんなにキツい任務じゃないみたいだし、終わったら二日間ゆっくり体を休めてください!」
「アブラハム君……お前じつはメチャクチャいいヤツだったんだぁ…やべ、なんか涙出て来た俺…」
…などと言っていたらアブラハムもクジに当たった。
中隊長はアブラハムの肩をポンと叩いて言う。
「人に優しくしたら良い事あるなぁ、アブラハム君」
「はい♪」
ちなみにナーセルも一緒になった。

その後、クジに当たった5人は別室で任務の内容を聞かされた。
「え〜、君達には“さるやんごとなき御方”の警護をしてもらう」
「だ…誰なんですか…?」
「勿体ぶらないで教えてくださいよ」
「うむ、先王アフメト4世陛下の弟君であらせられるアル=アッディーン・イルシャ殿下だ」
「ああ、あの…」
その名を聞いたアブ・シルは少し昔を懐かしむような口調で言った。

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