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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 223

「解る…良く解るよ…だけどそれは大声で叫んだからって解決する事ではないと思うぜ」
「じゃあどうすれば良かったんだ…?」
「俺にも分からん。とりあえず今はゆっくり休んで頭を冷やせ。お前は懲罰房入り一週間だそうだ」
「そうさせて貰うよ…図らずも貰えた休暇だ。有意義に使わせて貰うさ…牢屋の中だけどね」

アブラハムは一週間、暗く狭い房の中で色々な事に頭を巡らせた。
王侯貴族や金持ちや要領の良い人間だけが良い目を見る今の世の中や衛士府の仕組みとか、なぜ自分はシャフィーク・アブラハムなのだろうかとか、正確に半分こするにはどうしたら良いかとか、象の墓場はどこにあるのかとか、アブ・シルを助ける方法などなど…。
ほとんどはいくら考えても答えが見つからなかったが、たった一つ…アブ・シルを助ける方法だけは何となく思い付いた。
「アイツに頼んでみよう…アイツなら先輩を救えるかも知れない…!」

一週間後、房から出されたアブラハムを見たナーセルは言った。
「久しぶりだな、アブラハム。どうやら何か悟った所があったようだな」
「そう見えるかい?」
「ああ、良い顔になった。前とは大違いだ…」
「え!?僕そんなにハンサムになった!?」
「ばか!良い表情になったって事だよ。殺気が無くなって穏やかになってる」
「そ…そうかなぁ…でも一週間暗がりの中で考えて解った事がある。今までの僕はただ感情に任せて叫ぶ事しか出来ない未成熟な人間だった。でもこれからは違う。僕は生まれ変わったんだ」
「…うん、さり気ない上から目線と、そこはかとなく漂う“自分はお前らとは違うんだ”的な優越感がウザいな」
「?…とつぜん何を言い出すんだナーセル?僕は別にお前を下に見てなんていないよ。被害妄想も大概にしろよ」
「うるせえコノヤロウ!!」
ナーセルはキレた。
「ただでさえ人手不足なのに一週間も休みやがって!!お前が穴蔵でノンキに寝てた間も俺達はずっと休みなく働いてたんだぞ!!?」
「そ…それは失礼いたしました…」
「やっと出て来たと思ったら妙に澄んだ綺麗な目になってるじゃねえかぁ…だがそれも今だけだ!すぐに俺達と同じ淀み濁った目にしてやるからなぁ〜!」
「ぼ…僕はどうなるのでしょう…?」
「来い!職場の皆さんに詫びを入れさしてやる!」
ナーセルはアブラハムを第三中隊の詰め所に引っ張って行った。

「皆さ〜ん!!アブラハムが出獄して来ましたよ〜!!」
「あぁ!!戻って来やがったなコノヤロウ!!」
「ふざけやがって!!」
「貴様には怒濤の如き仕事が待ってるからな!!」
「いなかった間俺達が肩代わりしてやった分きっちり返すまで24時間休みなく死ぬまで働いてもらうぞ!!」
「ひいぃぃ〜〜〜っ!!!!?」
アブラハムは皆の“暖かい出迎え”を受けた。
一人だけ良い思いは許さない。
みんな一緒。
すっかり悟った気になっていたアブラハムであったが、今度は人間の心のダークサイドを嫌というほど思い知らされる羽目になるのであった。合掌。

職場の同僚たちに揉まれアブラハムは痩せてしまったのはいうまでもない。
その為にセイルと再会した時、直ぐに自分と気付かれなかった。
しかし、それはまだ少し先であった。

その頃、王都を『イルシャ・マディーナ』から『新王都ジャディード・マディーナ』に遷したお陰か鬱から解放されジェムは王宮にある自分の私室でリラックスしていた。
「やっぱり、都を遷して正解だ。そう思うだろう。セイル!シャーリア!」
「は・・・はい、閣下が・・・元気で何よりです・・・」
「イルシャ・マディーナみたいなカビが生えた都はジェム様に相応しくありません」
同調するシャーリアにジェムは笑顔になる。
最もシャーリアはジェムが遷都のお陰で鬱から解放されたのを純粋に喜んでいた。

「・・・・・(遷都のせいで犠牲になった人は沢山いたが、ジェムが落ち着き使用人たちに八つ当たりしたり、シャーリアさんを邪険にしなくなったのを考えれば良いかもしれない。)・・・・・」遷都のせいで重い負担を背負った人達を考えるとセイルは素直に喜べないが、ジェムに仕える使用人達やシャーリアの事を考えるとセイルは少し安堵する。
ジェムに冷遇されても、彼に献身的に仕えるシャーリアをセイルは心配していた。

ジェムはセイルに話しかける。
「クルアーン・セイル、君はこの新王都ジャディード・マディーナはどう思うんだい?」
「す・・・素晴らしい都です。まさか・・・短期間で遷都する閣下の手腕は驚くばかりです・・・」
短期間で遷都を実行したジェムの手腕をセイルは凄いと関心はしていた。
最もセイルはジェムを誉めたくはなかった。
称賛すればするほど、ジェムの家臣になるみたいで嫌だった。
しかし、家族たちを守るにはこうするしかなかったのである。

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