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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 222

「…確かにディオン帝は素晴らしい覇業を成し遂げた英雄です。しかし彼によって流された血もまた多かった…僕はルーナ女王陛下のように無駄な争いは避ける方が賢明だと思います。例え敵国の民でも…いや魔族だって、同じ命です」
「…見解の相違だな。己の前に立ちはだかる者は女子供であろうと容赦なく排除する…歴史に名を残した英雄達は皆そうやってきたんだ。ルーナ女王は例外だな」
「力を誇る者は、いずれ滅びます。それは歴史が証明しています」
「そうとは限らない。僕はいずれイルシャとゼノンを統合して東西大陸にまたがる大帝国を作り上げてみせるぞ。その時この都は世界の中心となるのだ…」
そう言ってジェムは模型を見つめた。
その先に彼が見ている物をセイルは見る事が出来なかった…。


そして、新しい都の建設が始まった。
ジャズィーラ島のイルシャ・ルーナの聖廟は、特に神殿や祭壇などが建っている訳ではなく、土が高く盛り上がっているだけの、いわば“墳丘墓”であった。
しかも木々が生い茂り、見た目は完全にただの小高い丘である。
実は真上から見ると四辺が正確に東西南北に面した正方形をしており、この上に宮殿を建てる計画である。
丘からは島内が一望でき、防衛上も非常に適した場所と言えた。

島全体を城壁で囲み、港湾に出入りする船は全て水門で管理する。
まさに水に浮かぶ都市であり、完成すれば難攻不落の城塞と言えた。

新都建設には大量の人員が駆り出された。
建築家、職人、人夫、それらの家族…。
ここで水運が活きる。
人も資材も各地から船で島に運び込まれた。
木材だけは現地調達だ。

人が集まる場所には彼らを相手に商売する商人が集まる。
食料品や日用品など生活に必要な物から嗜好品や娯楽を扱う者まで…もちろん娼婦も…早くも一つの街の様相だ。
こうなると治安が悪くなる。
王都衛士隊の半分が新都へ投入された。
残り半分で現王都の治安維持に当たる…現場で働く衛士達には厳しい事態となった。

宮殿がある程度できると、ジェムはジャミーラ王妃とファード王太子を連れて新王宮へと移り住んだ。
その際、王都の人々の約半数を強制的に新都へ移住させた。
こうなると旧王都は“衰退し消えゆく都”という感じになり更に治安が悪化した。
その負担は残された衛士にのしかかって来た…。

‐衛士府‐
「ハァ…もう一ヶ月近く休んでない…」
「最近じゃあ家にも帰れず職場に泊まり込み…死ぬのか?…なぁ?…俺達は死ぬのか?…」
アブラハムは同僚のナーセルと共にブツブツとボヤきながら便所に入った。
彼らの顔に表情は無く、その声に抑揚は無かった。
「……」
小便器の所にはアブ・シルが立って小便をしていた。
「「…っ!!?」」
次の瞬間、二人は凍り付いた。
小便器の中が真っ赤に染まっていたからだ。
「「せ…先輩…っ!!!?」」
「あ…見たな…お前ら…」
驚く二人に当のアブ・シルは淡々と応じる。
「そ…それって…血ですか!?」
「…ああ、血尿ってヤツだ…2〜3日前からな…俺も初めて見た時はビックリしたけど…」
「だ…大丈夫なんすか!!?」
「…さぁ?…体が限界に近付いてんのかも…でも誰にも言うなよ…絶対…言ったら殺すから…」
「「……はい…」」
真顔で言うアブ・シルに二人は頷くしか無かった。

「どうする、ナーセル?こういう事ってやっぱ中隊長か小隊長に報告した方が良いんじゃあ…」
「いや、そんな事してみろ。アブ・シル先輩、休職に追い込まれちまうぞ…」
アブ・シルと別れた後、二人は衛士府の中庭で話し合っていた。
「…今の衛士府は昔のように甘くは無いからな。休職中の衛士に手当てなんて出しちゃあくれない。先輩は生活する術を失う。恨まれるぜ」
「先輩の家って先輩以外に稼ぎ手いないのか?」
「前に少し聞いた事があるが、お父さんは亡くなられたそうだ。今は病気のお母さんと騎士学校に通ってる弟と妹が一人ずつ…」
「あぁ、何てこった…。でもこのままじゃ先輩いずれ死ぬぞ。何か手は無いのか?」
ナーセルは首を横に振って言った。
「無いよ…今の俺達に出来るのは見守る事だけだ…」
「そんな馬鹿な…!!」
アブラハムは空に向かって叫んだ。
「…何が遷都だ!?ふざけやがって!!上のお偉いさん達が椅子にふんぞり返りながら気紛れで始めた事業…そのしわ寄せは全て僕ら末端の人間に負担となってのしかかって来る!!泣くのはいつも現場で頑張ってる人間じゃないか!!」
「お…おい!止めろよ!白衛兵やジェム派の者に聞かれたらどうするんだ!?」
「構うもんか!!叫ばせろ!!もう限界だ!!」
そこへ、たまたま通りかかった小隊長が慌てて駆け寄って来た。
「お前ら!何してる!?」
「小隊長!アブラハムを止めてください」
「…アブラハム!貴様、恐れ多くもヤヴズ・ジェム大執政閣下様の政策に対して異を唱えるとは許し難いヤツだ!懲罰房へ入れてやる!来い!」
「さぁ!来るんだ!」
小隊長とナーセルはアブラハムを取り押さえた。
「放してください!小隊長!ナーセル!」
アブラハムは引き立てられていった。

「そこで暫く頭を冷やしていろ!」
小隊長はアブラハムを懲罰房に放り込むと、サッサといなくなった。
「……」
アブラハムがふてくされているとナーセルが扉に開いた小さな窓越しに話し掛けて来た。
「悪く思うなよな。俺も小隊長も別にお前が憎い訳じゃないんだ。お前が悪いんだぜ?中庭であんな大声でジェムの政策批判なんてするから…」
「解ってる…僕も短慮だったよ。でもこの憤り、お前だって解るだろう?」

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