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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 220

王妃も言う。
「その通りです。しょせん人というのは自分自身に被害が及ばない限り、問題解決に向けて動こうとはしない生き物なのですよ。今の段階で挙兵したとして、我が身の危険を冒してまで味方に付いてくれる者が一体どれだけ居るというのです?失敗するに決まっています。それでもやりたければ、あなた方だけでおやりなさい。その結果どうなろうと私達は知りませんよ」
冷たく言い放つ王妃に兵部大臣は震えながら答えた。
「ひ…妃殿下…我らは王家のため、この命に換えてもヤヴズ・ジェムを討つ所存でございます…それなのに、あまりなお言葉ではございませんか!!?」
「その心意気だけは評価してあげましょう。でも私達、血気にはやって目が曇り、周りも見えない愚か者達と一緒に心中する気は無いのよ」
「は…母上!王家のために命を捧げるという忠臣達に対してそのような…!」
見かねたアルシャッドがフォローに入るが、もう遅かった。
「もう結構です!あなた方のお力など要らぬ!我々だけでジェムを討ちます!妃殿下の仰る通り、我らの目は曇っていた!どうやらここには真の王族は居られなかったようです!失礼!」
兵部大臣と仲間達は帰っていった。
「まったく愚かな者達だこと…これだから物の道理が解らない人間という物は…」
「…母上、あなたはご自分が何をしたかお解りですか?私達は領地や城や国よりも大切な物を失ったのですよ!?」
「はあ?何を言うのですアルシャッドや…。あなた、あの者達と共に心中するつもりなの?」
「そうではありませんが…もう少し物の言い方という物があるではありませんか…」
「あの程度の臣下達なら失ったとて痛くも痒くもないわ〜」
「姉上の仰る通りですよ、殿下〜。ホホホホホホ…」
(何という事だ…母上…叔母上…確かにあなた方は理論的には正しい…だが人間とは理論だけではないはずだ…人の心や感情を無視していたら、いくら正しくても誰も付いて来ませんよ…)
だがアルシャッドはその言葉を飲み込んでしまう。
この二人の女には…自分が絶対的に正しいと信じている者には…何を言っても通じない事を彼は既に良く知っていたからだ。


アルシャッド(正しくは彼の母と叔母)に協力を拒否された反ジェム派臣下達は再び兵部大臣の屋敷に顔を揃えていた。
「どうする?アルシャッドを担ぎ上げられぬとなれば到底ヤヴズ・ジェムには対抗出来ぬぞ…」
「そうですなぁ、兵も集まらぬだろうし、そもそも国に巣くう奸賊を討つ正義の軍を起こすのだから、やはり王族を頂いた“官軍”であった方が格好が付くなぁ…」
「こうなったら王族なら誰でも良い。他の王子や王女や先王の兄弟姉妹に手当たり次第に頼んでみては…」
一同がそんな話をしていると、不意にあらぬ方向から声がした。
「…まったく、行き当たりばったりで計画性が無い…これは例え挙兵してもすぐに鎮圧されるな…」
「な…何だとぉ!?」
「誰だ貴様は!?どうやって入って来た!?」
いつの間に部屋に入って来ていたのか、そこには黒い布で顔を覆い隠した一人の剣士が立っていた。
「部屋の外に居た見張り達の事か?彼らには可哀想な事をした…今頃は神々の元へと召されているだろう…」
言いながら剣士は既に血に濡れた剣を構える。
「どうせ挙兵など無駄な事…ならば犠牲は必要最低限に留めるのが最良だろう?…という訳で、あなた方にはここで死んでもらう…」
兵部大臣はハッと気付いた。
「き…貴様ぁ!!まさかジェムの手の者…うぐあぁっ!!?」
言い終わらぬ内に大臣は斬られた。
「うわあぁぁっ!!!」
「ひいぃぃっ!!?」
「た…助けてくれぇ!!!」
それを見た他の者達は、ある者は脅え、ある者は逃げ、ある者は命乞いをする。
しかし謎の剣士はその全員を容赦なく次々と斬り殺していった…。

数分後、血の海と化したその部屋には反ジェム派の臣下達が一人残らず無惨な姿となって横たわっていた。
「ふぅ……」
覆面の剣士は溜め息を一つ吐き、傍に倒れていた死体の服で剣を拭い、鞘に収めた。
「ご苦労様でした…」
シャリーヤが現れて剣士を労う。
「素晴らしい剣の腕前です…さすがは元近衛剣士隊員といった所でしょうか…」
剣士は言った。
「…世辞は良い。仕事は済んだ。ジェム様に報告してくれ…“ネズミ共の駆除は完了した”とね…」
「…解りました。ところであなた、白衛隊に入ってジェム様のお側にお仕えする気はありませんか?あなた程の腕があれば入隊後すぐ小隊長にしても良いですよ」
「…有り難いが断るよ。ジェム様に直接お仕えするって事は“それ”を着けなきゃいけないんだろう?そんなのはゴメンだね…」
剣士はシャリーヤの首輪を指して言った。
「そうですか…残念です。報酬は後日お支払いします」
「頼む…」
覆面の剣士は踵を返して去った。

翌日、反ジェム派の臣下達の首が城門前に晒され、それを見た人々は益々ジェムに恐れを成したのであった…。


兵部大臣ら宮廷内の反ジェム派が消え、いよいよジェムに逆らえる者はいなくなった。
もはや宮廷内…いや国内に主だった敵がいなくなったジェムは、日に日に性格に変化が表れ始めた。
優しく穏やかな人間になっていった?…いや、残念ながらその真逆であり、何かにつけて他人を見下す他罰的な人間になっていったのである。
もともと彼の持っていた気質だったのだろうか…。
あるいは敵がいる内は敵に向けられていた攻撃性が、敵がいなくなった事によって周囲の人間達に向けられるようになったのかも知れない。
とにかく彼は臣下や召使い達を責める要因を常に探し回り、見咎めたら“これでもか”というほど激しく叱責し徹底的に追い詰める…そんな人間と化していった。

ある日、セイルはジェムに呼び付けられて彼の部屋に行った。

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