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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 219

ジェムは安楽椅子に腰掛け、その周囲を五〜六人の白衛兵が守るように立っている。
シャリーヤはその輪の外にひざまづいて報告していた。
以前であればこのような秘密の報告は二人きりで行われたが、あの夢以来、ジェムは他人というものを信用しなくなっており、かつては最も信頼していた右腕のシャリーヤとて例外ではなかった。
唯一の例外はセイルだった。
シャリーヤの首には首輪のような物がされていた。
白衛兵達の首にもある。
アリーの恋人アイーシャが着けているのと同じ物で、ジェムは自分の身の周りの者達の全員(セイルを除く)に着けさせていた。
逆らえば即座に絞め殺すという訳だ。
もちろんアイーシャと違い、シャリーヤも白衛兵達も、この首輪がどういう物なのかを知った上で、自らの意志で着用している。
自分のためにそこまでする者ですら信用できないというのだから、ジェムの疑り深さ…心の闇の深さは相当な物と言えよう。
ジェムはシャリーヤに尋ねる。
「…それで、ヤツラの言う“あの御方”というのは一体何者なんだ?」
「それはまだハッキリとは解りませんが“その人物を旗印にすれば他の臣下達も従うはずだ”と言っていた事から、だいたい想像は付くかと…」
「…なるほど、ヤツか…だがアレが刃向かって来た所でさほどの脅威ではあるまい…それに、これは僕の予想だが、恐らくアレは兵部大臣の求めには応じまい…」
「そうでしょうか…」
「アレは優柔不断で腰が重い。オマケに臆病で行動力も無いヘタレの極致のような男だからな…それに母親も許すまい…」
「なるほど、確かにその可能性は充分考えられますね…」
「そういう事だ。この件の処理は君に任せる。僕は今遷都の事で頭がいっぱいなんだ。そんなつまらない事で煩わされたくないんでね」
「かしこまりました…ジェム様」
シャリーヤは出て行った。

また数日後…
「な…何だとぉ!?それは一体どういう事だぁ!?」
兵部大臣は“あの御方”の元から帰って来た使者の言葉に愕然とした。
「はい、それが“あの御方”は『今はまだ立ち上がる時ではない。あなた方がジェム討伐の軍を挙げても私は加われない』と…」
その場に居合わせた他の臣下達も意外な知らせに驚きを隠せなかった。
「そ…そんな馬鹿な…!?」
「しょせん王都に居られない“あの御方”にはヤヴズ一族の目に余る程の横暴さが理解いただけないという事か…」
「…えぇい!もう良い!ワシが直接“あの御方”と会って説き伏せる!」
兵部大臣は立ち上がった。
「我も!」「我も!」
他の臣下達も続き、一行は“あの御方”の所へと向かった…。


王都近郊にジェディーン家という上級貴族の領地があった。
ジェディーン家…実はシェヘラザード第一王妃の実家であり、現在はシェヘラザードの妹のドゥンヤザードが女太守として領地を治めている。
そこに兵部大臣ら反ジェム派が“あの御方”と称する人物がいた。
「殿下!どうかご決断ください!奸賊ヤヴズ一族を討ち滅ぼすチャンスは今しかありませぬ!」
「兵部大臣殿の仰る通り!今こそイルシャの統治を正統なる者の手に取り戻す時なのですよ!」
「殿下!」
「殿下!」
「う…うむ…皆の気持ちは良く解った…しかし物事にはタイミングという物があってなぁ…」
皆から“殿下”と呼ばれたその人物…そう、もうお気付きであろうがアルシャッド王太子である。
彼は詰め寄る旧臣達に圧されつつも、やんわりと反意を伝えた。
なおも息巻く兵部大臣。
「そんな悠長な事を言っている場合ではございません!あのジェムめは王都をジャズィーラ島に移すと言っておるのですぞ!?今の王都は我が国の開祖イルシャ・ルーナ女王が500年前に都と定められた由緒正しき歴史ある都!一方、移転先はそのルーナ女王の聖廟のあるジャズィーラ島…という事はルーナ女王の聖廟を潰し、その上に都市を建設するという事です!これはルーナ女王に対する二重の侮辱に他なりませぬ!いや、イルシャ王朝への侮辱です!こんな事を許せばイルシャ王国史上最大の汚点となりましょう!いま起ち上がるしか無いのです!殿下!!」
アルシャッドはたじたじ…。
「う…うむ…兵部大臣がそこまで言うのであれば、やはり考えてみる必要もあるような気がしないでもなくなって来たような雰囲気になってきたかも知れないなぁ…」
「その必要はありません!!」
その時、新たな人物が姿を現した。
豚のように丸々と肥え太った中年女性…第一王妃シェヘラザードである。
彼女の後ろからもう一人、骸骨のようにガリガリに痩せ細っていながら眼光のみが異常に鋭く光る中年女性が続く…ジェディーン家の女当主ドゥンヤザードである。
全く対照的な姉妹だが、そこに居るだけで圧倒的な存在感を醸し出すという点だけは共通している。
王妃は言った。
「あなた方、今が起つ時だなどと言って勝算はあるのかしら?ジェムは既に王都を掌握し、各地の太守達も形だけとはいえ彼に従っている…兵部大臣、あなた全イルシャを敵に回して勝てるとお思いなの?」
「もちろんでございます妃殿下!今、宮廷内でも世間でもジェムの強引なやり方に反ジェム気運が高まっております!アルシャッド殿下を旗印に挙兵すれば、廷臣達も太守達も民衆も、我も我もと後に続いて起つに違いありません!」
「ハァ…」
王妃は溜め息を吐いた。
「な…っ!?」
ドゥンヤザードが補足する。
「あなた方は王宮の中から国を見渡しておられるから国全体の状況が正しく認識出来ていないのですよ。確かに“王宮内では”反ジェム感情が高まっているのでしょう。ですがこちら側から冷静に周囲を見渡してみれば、ジェムに反意を抱く者など、身分や立場を問わず、極めて少数ですよ」

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