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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 213

はつらつに相談に乗ろうとするライラにセイルは恐縮する。
「ご迷惑をおかけします」
「そんな弱気だから。幼年学校時代君は剣の実技はクラスで最下位だったんだぞ。君は身体は特別屈強じゃなかったが、その分人の何倍も鍛錬をしてたのを先生は知ってるんだぞ」
「すいません。でも、僕は戦ったり競うのが駄目なんですよ」
「そこが、君の長所でもあり短所なんだよな。詳しいことは店で話そうじゃないか」
そう言うとライラはセイルをつれて王宮を跡にすると自分の馴染みの店へ連れて行った。

その様子をアルトリアはセイルが腰に差している聖剣ルーナで知った。
(ほうほう、セイル様はライラ殿との付き合いで今夜は遅くなるな。ウマル殿たちには私から上手く言っておくか…しかし、何か胸がズキンとするな…)


セイルはライラに連れられて洒落た酒場にやって来た。
店内は薄暗く、それでいて上品な雰囲気がある。
衛士隊に居た頃、先輩達に半ば強制的に付き合わされて行った居酒屋とは趣が全く異なる。
(大人のお店って感じだなぁ…)
髭を生やしたマスターが落ち着いた口調で挨拶する。
「いらっしゃいませ…おや、ライラさんではありませんか。お久しぶりです。そちらのお連れの方は…?」
「やあ、マスター。彼はクルアーン・セイル君、私のかつての教え子さ」
「それはそれは…お名前はうかがっております。大層なご活躍をなさったそうで…」
「い…いやぁ、そんな大したものでは…」
「フフフ…ご謙遜を…。ご注文は?」
「私はバーボンをストレートで」
「かしこまりました。セイルさんは?」
「へ…?」
セイルは慌ててメニュー表を探すが、どこにも見当たらない。
困っているとライラが助け舟を出してくれた。
「好きな物を頼むと良い。私が奢ろう。大丈夫、大抵の物はある」
「あ…じゃ…じゃあ、僕はオレンジジュースをストレートで…!」
「オレンジジュースは割りませんねぇ…」
苦笑するマスターにセイルは赤くなる。
「フフ…どうだいマスター、面白い子だろう?セイル君は…」
「ええ、騎士学校第486期の麒麟児と聞いておりましたから、一体どんな剣豪かと思いきや、思いのほかユーモアのセンスがおありで…」
「アハハ…いやぁ、どうも…(ボケた訳じゃないんだけど…てゆうか僕“麒麟児”?)」

それから、セイルはライラに今日の出来事を話した。
「なるほど…あのヤヴズ・セム宰相がねぇ…」
「はい…」
「……」
マスターは二人の会話には入らず、黙ってグラスを磨いている。
だがセイルが本当はライラに話したかったのは、そんな事ではなかった。
セムの死の噂は真実だったのだ。
ではウルジュワンを密告したのがライラだという噂は…?
セイルは今すぐにでも尋ねたかった。
だが、もしそれが単なる噂だったとしたら、そんな無粋な質問をしたら彼女を深く傷付けてしまうのではないだろうか。
一方、もし真実だったとしたら、どこで知ったのだ?という事になり、それもそれで問題となる。
相手を傷付けたくはないが真相も気になるセイルは少しずつ探りを入れてみる事にした。
「あの…先生?」
「ん?」
「先生の婚約者の、ウルジュ…」
「あー、そんな人いたねー。でももう死んだよねー。もう過去の人だよねー。関係ないよねー。はい、この話おしまい」
(な…名前すら言い終わらない内に話を終わらせられた!?間違い無い!ウルジュワンを告発したのはこの人だ!)
セイルは確信した。
(でも何故だ!?確かに結婚に乗り気じゃない的な事は言ってたけど…だからって相手を告発して死に追いやるなんて…違う!僕の知ってるライラ先生はそんな残酷な人間じゃない!)
「セイルさん、コレどうぞ…」コトリ
真実を知ったら知ったでまた悶々としているセイルの目の前に、ふとグラスが差し出された。
「え?注文してませんけど…」
「私からの奢りです。このカクテルの名前は“クルアーンセイル”…あなたのために作らせていただきました…」
「マスター…(名前まんまじゃん!でも良い人だ!)」
「フフ…あなたは現代には珍しい、とても純粋な心の持ち主だ、セイルさん…その美しい心、いつまでも失わないでください…」
「…ありがとうございます、いただきます!」
セイルはグラスを手に取り、どこまでも透明で美しく透き通ったカクテルをグイッと飲み干した。
メチャクチャ強い蒸留酒だった。
「…ぶはあぁぁっ!!!!マスター!!!何ですかコレ!!?」
「蒸留酒の中でも…特に透明度の高いお酒を色々…あなたの澄んだ心を表現してみました…」
「いや蒸留酒同士混ぜてもあんまり味変わんないでしょ!!!てゆーかコレ一杯飲んだだけでチャンポンじゃん!!!」
「セイル君、顔が真っ赤だな。もう酔ったのかい?」
「僕は酔ってなんていまひぇんよぉ!!!」
「酔ってるな」
「お酒、あまりお強くなかったようですね…」
「僕ぁ〜ねぇ〜、ヘタレと言われるけれろもねぇ〜、僕らって色々頑張ってりゅんれふよぉ〜」
「そうかそうか、それは大変だったねぇ…」
即行で出来上がったセイルを適当にあしらいながらライラはグラスを開けた。
「ふぅ…マスター、ごちそうさま。お代はツケといてくれ…」
「ライラさん…そろそろツケ払ってもらえません…?」
「…月末まで待って…」

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