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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 212

「何も燃やさなくても…これだけの立派なお屋敷です。売れば一財産になりますよ」
「私はジェム様のご命令を実行するだけです…」
「やはり何かがおかしいです!中に入って確かめてみましょう!」
セイルは聖剣を抜き、玄関の大扉に掛けられていた大きな南京錠をぶった切って扉を開けた…。
「…うわあぁーっ!!!?」
次の瞬間、セイルは悲鳴を上げた。
玄関のホールには一体の死体が横たわっていた。
肌は黒く変色し、内部から発生したガスのために全身が醜く膨らんで腐臭を発している。
元は豪華な物であったろうボロボロの衣服に身を包み、その指先は爪が全て剥がれて痛々しかった。
扉の内側を見ると、引っ掻いたと思われる血の跡が無数に付いていた。
「閉じ込められて…何度も何度も引っ掻いたのか…無理だと解っていても…外に出たい一心で…惨い…惨すぎる…」
セイルが呆然としていると、後ろからシャリーヤが言った。
「哀れなものですね…一時代を築いた大宰相が人生の最期に、まがりなりにも愛情を注いで育てた孫の手によってこのような仕打ちを受けるとは…」
「あなたは知っていたんですか!?」
「…私がセム殿を幽閉しましたから…薬で眠らせて…その間に全ての窓と入り口を塞ぎました。ジェム様のご命令で…」
「酷い!!あんたはジェムの命令なら何でもするのか!?主人が道を踏み外しそうになった時、それを諫めるのも臣下の役目だとは思わないのか!?」
「思いません。私の意思はジェム様の意思です。仮にジェム様が死ねと仰れば私は喜んで死にます」
「そんな…」
ブレないシャリーヤにセイルはそれ以上何も言えなかった。
「…それでも…こんな事って無いよ…自分の育ての親で、お祖父さんじゃないか…どうしてこんな事が…どうして…」
「あなたには解らないでしょうね。あの方の気持ちは…。幸せなお坊ちゃんのあなたには…」
「し…幸せなお坊ちゃんって…僕だってそんなお気楽人生じゃないですよ。今だって両親とか別居してるし…」
「でも愛されるという事を知っています…あの方にはね、そんな人として当たり前の幸せすら無かったんですよ…誰からも愛されない、必要とされない、認められない…そんな環境で育って来た人間の気持ちが想像出来ますか?」
「……」
セイルは何も言えなかった。
ジェムの重く暗い闇を垣間見た感じなった。
同時に自分が祖父ウマルや侍女のミレルや父オルハンやヤスミーンの存在の大きさと自分の甘さを思い知らされる。
ジェムは確かに悪だが、彼がこうなった理由を考えるとジェムを倒すのことをセイルは躊躇してしまう。
しかし、セイルが感傷に浸る事を許さないシャリーヤは容赦なく追い討ちをかける。
「甘い事をいうしか能がない上に私に反論も出来ない。本当にあなたの頭はお花畑ですね。その上、臆病な小心者!ジェム様に逆らいましたが、あの精霊の方が骨がありますよ」
「…確かに、あなたの言う通りかも知れない。僕は戦いは嫌だ。誰も傷つかずに済む方法があるのなら、それが一番だと思う。それっていけない事ですか…?」
「…現実がそんなに甘くいったら誰も苦労しませんよ…」
シャリーヤは吐き捨てるようにそう言うと火を起こし、屋敷に放った。

焼け落ちる屋敷を眺めてセイルは思った。
(この国はどこへ向かおうとしているんだろうか…僕はどうしたら良いんだ…?)

心にもやもやとしたものを抱えながらセイルは城へと戻った。
屋敷を焼いて来た事をジェムに報告すると「そうか…」と素っ気ない返事だけが戻って来た。
(…この人にとって身近な人の死とか他人の命というものは一体どれくらいの重みを持っているんだろうなぁ…)

そんなモラトリアル真っ盛りの青少年のような(実際そのくらいの年齢なのだが)心持ちでセイルが廊下を歩いていると…
「やあ!セイル君ではないか」
「ライラ先生…!」
…アルムルク・ライラは婚約者を処刑されたというのに、特に落ち込んだ様子も無く、いつも通り…いや、むしろいつもより晴れやかな表情でセイルに挨拶して来た。
晴れやかなライラと異なりさっきシャリーヤに徹底的に辛辣な事を言われ落ち込むセイルはか細く返事をするしか出来なかった。
「ラ…ライラ先生、お疲れ様です…」
「こらこら、騎士が暗く落ち込んでは駄目だぞ!もしかして、お役目にしくじったのかい。君は昔から少し失敗すると自分を追い込むからな」
「そうじゃないんですけど…今日は色々ありまして…そのお〜」
「まあ、ここでは何だから一緒に夕飯でも食べながら話でも聞こうじゃないか」
恩師であるライラに叱られ謝るセイルの複雑な心境を察したライラは食事に誘う。
しかし、予想外な出来事にセイルは躊躇してしまう。
「えっ良いんですか?」
「若い者が遠慮はいかんぞ。生徒の悩みを聞くのも元恩師の務めだからな」

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