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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 211

「買い被りすぎ。私達もそんなに大した事は知らないわ。セイルの方が色んな噂を耳にする機会は多いんじゃない?」
「確かに王宮に出入りしてると色んな話を聞くね。でも君達しか知らない事だってあるかも知れない。頼むよ」
「そうねぇ…例えばヤヴズ・セムが死んだ事とか…先日処刑されたウルジュワン・サラームを密告したのは婚約者のアルムルク・ライラだとか…その程度よ。私達が知ってる事なんて…」
「んなぁ……っ!!!?」
セイルは開いた口が塞がらなかった。
もちろん初めて聞く話であった上に、両方とも(間接的にせよ)彼に関わりのある情報だったからだ。
(お…おお…落ち着けセイル!ま…まずは真偽を確かめなきゃ!そうだ!本当にタダの噂かも知れないし…!)
「…?」
目に見えて動揺し始めるセイルにナシートが首を傾げていると、アルトリアがやって来た。
「セイル様!お話があります!」
「ア…アルトリア…!!」
アルトリアはセイルの足元に両手を付いて言った。
「まずお詫びを…昼間の事、誠に申し訳ございませんでした!この通りです!」
「は…はあ…」
だが今のセイルの心理はそんな事もうどうでも良かった。
アルトリアは続ける。
「…そしてセイル様!あなた様に今までずっと黙っていた事をお話し申し上げる時が参りました!」
「な…何だい?」
「聖剣とは一体何なのか…なぜ…どうして…何のために…聖剣とその精霊である私という存在が生まれたのか…そして聖剣の勇者とは一体何者なのか…そういう事についてお話ししたく思います。これは良い機会です。あなた様に聖剣の勇者とは何なのかを知っていただき、自覚していただきたい…」
「ご…ごめんアルトリア!それまた今度にしてもらえないかなぁ!?」
「はあ!?」
「ちょっと今の僕にはそんな重そうな事柄を受け止められる余裕が無いんだ!聖剣関連の話は今ある問題が解決してから聞かせてくれ!今されたら僕の精神が潰れる!」
「弱っ!!…しかし何やら事情がおありの様子…分かりました。私もこの話だけはしっかり受け止めていただきたいので、セイル様が今抱えておられる問題を解決なさるまでお待ちいたしましょう。その代わり全て解決したらちゃんと聞いていただきます。約束ですからね」
「もちろんだよ!ありがとう、アルトリア」
聖剣の勇者に付いて重要な事をアルトリアが話してくれるのに待ってくれといったセイルは強い罪悪感を覚える。
これだけ彼女が必死なのはよほど重要な話であり聖剣ルーナの勇者としては聞くべきだと解っていた。
あの強くて優しいライラ先生がウルジュワンを何で密告したのかセイルは一刻も早く知りたかった。
確かにウルジュワンは他人を踏み台にしか考えない卑劣漢だが、ライラ先生が密告をするとは余程の事だと思った。
そして、そんなライラの力にセイルはなりたかった。
人々を救う勇者としてあるまじき軽率で愚かな行動なのは解っていた。
それでも、目の前で悩んでいるライラを放っておくなんてセイルはできなかった。
話だけを聞いてから、さきにライラを助けをするべきかもしれない。
でも、自分の精神力と許容範囲が耐えられないから出来なかった。
自分の不甲斐無さや情けなさにセイルは己が勇者なのか今でも自信が持てなかった。
あのエルティアやバン・バッカーズみたいに強ければ自信が持てたが、自分は二人みたいになれない。
試行錯誤しながら自分のやり方を見つける事に決めた。

翌日、セイルは王宮に行くなりジェムに呼び付けられた。
「…実は…折り入って頼みがあるのだが…」
「…はあ、何でしょう…?」
ジェムがこういう頼み方をして来るのは珍しい。
一体何だろうかと思っていると、信じられない事を口にした。
「実はね…僕の屋敷を…ちょっと燃やして来てもらいたいんだ」
「はあ!!?」
セイルは仰天した。
「どうしてですか!?」
「もう必要無いんだよ。あの屋敷は…」
「だってあのお屋敷にはセム様が……あ」
セイルは昨晩のナシートの“ヤヴズ・セムが死んだ”という言葉を思い出した。
「こんな事を頼めるのは君しかいない。シャリーヤを供に付けよう。頼んだよ…」
「はあ…」

ヤヴズ邸に行くと、門扉は閉ざされ、それどころか玄関も窓も全てに板が打ち付けられ塞がれていた。
「なぜ空き家に…?セム様は…?」
疑問を口にするセイルにシャリーヤは言う。
「セイル殿、早くジェム様のご命令を実行しましょう。ジェム様は“このままの状態で”屋敷に火を放てとの仰せでした…」

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