PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 208
 210
の最後へ

剣の主 210

アルトリアは黄泉に眠る旧主ルーナにどうすれば良いのか祈るしかなかった。
止まる事を知らないジェムの理不尽な悪行を抑える事が出来ない己を責める事しか今のアルトリアにはそれしか出来なかった。
そして、聖剣の勇者と精霊である宿敵の邪教団の存在に苦悩する。
「(あの忌わしき邪神を奉ずる一団の動向も気掛かりだ。あの連中は地下に潜り潜伏するのが得意だからな。それなのに甘ちゃんお花畑なセイル様を立派な勇者に出来ないなんて、私は何て!駄目精霊なんだ!)………モグモグ……(こういう夜はヤケ食いだ!)」
どうしようもない現実にヤケになったアルトリアは厨房でヤケ食いを始めた。

「ミレルぅ…」
「どうしたのよ、ファルーシャ?」
「厨房に何か居るのよぉ…」
「どうせネコか何かでしょう」
「怖いから一緒に来てぇ…」
「はぁ…仕方無いわね」
屋敷で働く同僚の侍女に涙目で頼まれたミレルはランプを手に厨房へと向かった…。

「…モグモグ…ガツガツ…」
「(人間!?)だ…誰!?そこに居るの…!」
「…むぐむぐ…んえうおお(ミレル殿)?」
そこに居たのは食べ物を口いっぱいに含んだアルトリアだった。
彼女の周りには食い散らかされた食べカスが散乱している。
「ア…アルトリアさん!?あんた何してんですか!?」
「ゴクン…プハァーッ!これが食べずにやってられますかぁ!」
「いや意味が解りません!」
「私は今己の無力さと情けなさにほとほと嫌気が差しているのです…」
「何か辛い事があったのは察しますが屋敷の食べ物を食べないでください。食材が無くなって料理長に叱られるのは私達なんですから…」
そこへ、ずっと黙って二人のやり取りを見ていた侍女のファルーシャが口を開いた。
「あ…あの!私思うんですけど!何があったのかは解らないですけど!こんな事をしていても何の解決にもならないと思います!現実と向き合わなきゃいけないと思います!」
「…ミレル殿、誰ですか?こちらの方は…」
「ウチで働いてるファルーシャですよ。ずっと居たんですけど…」
「良いんです良いんです…どうせ私なんてパッと出のモブキャラですから…」
落ち込むファルーシャの手をアルトリアは取って言った。
「…失礼、ファルーシャ殿。あなたのお言葉、私の胸を打ちました!パッと出のモブですが仰る通りです!私は私の前に立ちはだかる問題を解決するため、現実と向き合い、そして行動します!」
「は…はあ、解ってもらえて嬉しいです…」
「そうと決まれば…セイル様!セイル様〜!」
アルトリアはセイルの名を呼びながら彼の部屋へ向かった。
「一体何だったのかしら…?」
「これは一応“良かった”という事になるのかしらね…?」
残された二人の侍女は首を傾げるばかりであった。

そして、ファルーシャが呆れながら言う。
「ミレル・・・アルトリアさんって本当に食べるわね・・・」
「そうね。大旦那様は『見事な食いっぷりと誉めてたからね』さあ〜無駄口叩かないで、アルトリアさんが食べ散らかした跡を片付けましょう」
「やっぱり、こうなるのね。でも、厨房出る前に片付けて欲しかったわ」

厨房にあった食べ物を蝗みたいに貪るだけ食いあさったアルトリアの後始末をしながらファルーシャは愚痴を溢す。
どうにもファルーシャはアルトリアが苦手であったが、ミレルはファルーシャに言う。
「明日、料理長が厨房の有り様をみたら大目玉よ」
「それだけはいや!給料引かれたくない」
料理長に怒鳴られるのを恐れたファルーシャはテキパキと片付ける。


セイルはナシートと話していた。
「なんだ。じゃあアルトリアに遷都の事を教えたのは君だったんだね」
「ごめんなさい。まさかアイツがそんな行動に出るなんて思わなかったのよ…」
「いや君は悪くないよ。…アルトリアの怒りも当然だ。彼女は本当にルーナ女王が好きだったようだからね。僕自身、ジェムの遷都計画を聞いた時は正気を疑った。彼は既存の価値観…王家の権威を否定し破壊する事に全く抵抗が無いんだ。王家の威を借りて自分の地位を引き上げたにも関わらずね…」
しかしセイルはこうも思うのだった…西大陸で活躍している英雄エルティアのように既存の価値観に捕らわれない人間…ジェムは正にそうなのではないだろうか。
(…違いがあるとすれば、それはエルティアの行動原理が弱い立場にある人々を救うため…他人のためであるのに対して、ジェムは己の欲望のため…自分のためであるという事かな…)
だがそのたった一つの違いが大きな違いである。
「しかしナシート、君達の情報網は凄いね。他にはどんな事を知っているんだい?…ああ、貴族のスキャンダル以外で…」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す