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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 22

「こちらがよろしいでしょう。」
とある空き教室にアルトリアがセイルを引き込み、近くに誰もいないのを確認すると、言った。
「ご立派な決断でした。セイル様。」
その顔は慈愛に満ちた微笑みをたたえていて。
「ありがとう。まさかジェムが僕を買収しようとは。これで彼の性根が見えたよ。近いうちに皆に知らしめて本当の悪者が誰なのかはっきりさせないと危険だ。」
「セイル様のお言葉通りです。ドルフやタルテバのような小悪は露骨に愚挙をやらかしますからその時にでも倒してしまえばよいのです。ですがジェムのような、誰もが悪と思わぬような人間が陰で大悪を成すことこそ、世を乱す危険なものなのです。」
2人とも真剣な表情で小声で語り合っていて。
「でもどうすればいい?僕は実家に宝石なんか要らないだけの財産があるからいいけど、落ちぶれた人や性根のいやしい人はジェムのような奴にはなびいてしまうよ。」
「確かにジェムを倒すには大義名分が必要です。それに彼の実家の力を考えれば、おいそれと動くのは自殺行為でしょう。」
「じゃあ、しばらくは大人しくした方が良いかな…」
ジェムへの対策が見つからないセイルはオロオロしながら様子見を提案する。
消極的な提案だから、アルトリアは飲むと思えなかったのである。
「それが妥当ですね。卒業を控えた今の時期は下手な事をしないでしょう」
アルトリアはセイルの提案に納得する。
「でも、僕もダヴウ先生が買収されたのに驚いたよ」
「あんなのは氷山の一角でしょう」
アルトリアは眉間にシワを寄せてつぶやいた。
「…この時代は私がルーナ様と共に生きた頃に比べれば確かに平和です。しかしそれ故にこそ、そこかしこに蔓延る不正や目に見えぬ分かり難い悪は多いのかも知れません…」
そんな話していると教室の扉が急に開いた。二人は慌てて入り口の方に目をやる。
「あら、ごめんなさい。お邪魔しちゃったかしら?」
「サ…サーラさん!?」
そこに居たのはサーラだった。セイルは彼女を認めるや否や頭を下げて半ば叫ぶように言った。
「あのっ…さっきは助けてくれて、本当にどうもありがとうございましたっ!!…もしあの時サーラさんが助け舟を出してくれていなかったら…僕は…っ!」
誠心誠意を込めて感謝の意を述べるセイル。それに対してサーラはクスクスと微笑みながら応える。
「いいのよ。セイルくんにはちゃんと学校を卒業して正騎士になってもらわなきゃ…あなたには私の“騎士”になってもらうんですからね♪」
そう言うとサーラはセイルの鼻先をツンと軽くつついた。
「は…はあ…」
頬を染めながら気恥ずかしそうにポリポリと頭を掻くセイル。アルトリアは物凄く何か言いたそうな目で、そんな二人のやり取りを見ていた。

「…でも…」
しかし次の瞬間、サーラは声のトーンを落として真顔になり、セイルの瞳を見つめて言う。
「…せっかく助かったんだから、今は必要以上に“彼”に関わるのは止めておきなさい。私達には今はまだ何の力も無いんだから…青臭い正義感は身を滅ぼすだけよ」
「…へ?あ…いや、あの…」
「もちろん私達としてもそのつもりはありません」
急に真剣な話題になり戸惑うセイルに代わってアルトリアが応えた。セイルは思う。
(さすがですサーラさん…やっぱ何もかもお見通しだなぁ…)
一方、アルトリアの言葉を聞いたサーラはすぐに笑顔に戻った。
「…そう、良かったわ。それを聞いて私も安心しました。じゃあね、私の勇者さんと精霊さん♪」
そう言うとサーラは踵を返して去って行った。

「……アルトリア、今、サーラさん、僕らの事……」
「…はい、どうやら彼女にも気付かれたようですね」
サラッと言うアルトリアにセイルは頭を抱えて深い溜め息を吐いた。


それから数日…そして数週間と穏やかな日々が過ぎていった。
そんなある日の昼休み。セイルはパサン、アリーと共に学食で昼食を食べながら話していた。
「はぁ…あと一週間で卒業…このマズい定食も食い納めかぁ…なぁ〜んか実感湧かねぇよなぁ…」
「僕も…もうすぐ王国騎士として登用されて任地に赴くなんて…正直信じられない気分…」
「はぁ…二人とも何を呑気な事を…ま、まだ行く先が判らないから実感が無いのも解らなくもないが…」
未だに寝呆けたような事を言っているパサンとセイルにアリーは呆れて肩をすくめた。パサンは不味い定食を口に運びながらジト目でアリーを見つつ言う。
「お前は王立学士院に進学だろ?ガリ勉クン」
「そう言えばそうだったね。おめでとうアリー」
「ありがとうセイル…ていうかガリ勉言うなパサン」

騎士学校では卒業式の場において正騎士の称号が与えられ、同時に卒業後の官職と任地が言い渡される。
ただしアリーのように、より上級の学術機関への進学を希望する場合は事前に学校側へ通告しておけば官職は用意されない。これは一つの賭だ。落ちれば文字通りの“浪人”である。

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