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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 209

アルトリアは一人、何やら呟いている。
「…アズィーム湖のジャズィーラ島だと?…あそこは…ルーナ様の……」
「…どうしたの?急に怖い顔してブツブツ言っちゃって…」
「…いや、何でもない…私は急用が出来た。失礼…情報提供感謝するぞ」
そう言うとアルトリアは姿を消した。
「変なの〜」
「ね〜」


王宮でジェムは執務に勤しんでいた。
国の中枢を担う者の職務は二種類ある。
一つは王都と王家の直轄領の政務、もう一つは国家全体の政務…何でも自分が把握していないと気が済まないジェムは国内で実施されている全ての政策を書類にして提出させ目を通していた。
彼は自分の預かり知らぬ所で物事が進行するという事が許せないタイプだった。
それは彼の根底にある人間・他者という物への不信の顕れでもあるのかも知れない。
「ふむふむ…社会福祉や民生の分野の予算はまだまだ削れる所がありそうだな…宮廷費や軍事費に回せるぞ」
そこへ突然アルトリアが出現した。
部屋の中にだ。
「ヤヴズ・ジェム!!話がある!!」
「うわああぁぁぁっ!!!?…って何だ…君か。驚かせるな…。僕に会いたければ正規の手続きを経て扉から入って来たまえ」
「そんな事はどうでも良い!!ジャズィーラ島へ都を移すというのは本当か!?答えろ!返答の内容によっては貴様の首をへし折ってやる!どうなんだ!?さあ!」
詰め寄るアルトリアにジェムはしれっとして答えた。
「……耳が早いな。遷都の計画は既に噂になっているが、候補地まで知っているとは驚きだ。さすがは聖剣の精霊様といったとこr…ぐえぇっ!!?」
アルトリアはジェムの言葉も終わらない内に彼に飛びかかって首を締め上げた。
「この奸賊めぇ!!ルーナ様の霊廟を取り潰してその上に貴様らの宮殿を建造するというのか!?許さん!!絶対に許さんぞこの腐れ外道めぇ!!この私の手で葬ってくれる!!」
「うぅ〜!!?く…苦しい!誰か来てくれぇ!!誰かぁ…!!」
バァン…ッ!!
勢い良く扉が開いてシャリーヤとセイルが現れた。
「ジェム様!?」
「あぁ!?…や…やめるんだアルトリア!!」
「止めないでくださいセイル様!!私は決意しました!今ここでこの男を殺して、この国の諸悪の根元を絶ちます!」
「だ…駄目だ!止めろ!命令だ!」
「…主のご命令とあらば仕方ありません」
アルトリアはパッと手を離した。
「ゼェー…ゼェー…し…死ぬかと思った…」
「ジェム様!!大丈夫ですか!?」
「ハァ…ハァ…だ…大丈夫だ…もういい…下がっていい…」
「そ…そうですか…」
シャリーヤは解放されたジェムに慌てて駆け寄ろうとするが、ジェムは彼女を手で制し、退室させた。
一方セイルはアルトリアを問い詰める。
「アルトリア!一体どうしてこんな事をしたんだ!?」
「当然です!この男はルーナ様の眠る聖廟を破壊しようとしているのですよ!」
「知ったのか…。アルトリア、かつてルーナ様にお仕えした君の気持ちも解るけど…でも君は間違ってるよ!君は今後いっさい王宮への出入りは禁止だ!いいね!?」
「セイル様!!なぜこの男の味方をなさるのですか!?」
「いいから君は今すぐ王宮から出て行くんだ!!」
「セイル様……解りました。申し訳ございませんでした…」
アルトリアはシュンとした様子で、今度は扉から外へと出て行った。
「……」
その背中を見送ったセイルは今度はジェムに向き直って深々と頭を下げて言った。
「ジェム閣下!この度のアルトリアのご無礼、まことに申し訳ございませんでした!彼女には僕から良く良く言って聞かせますので、どうかお許しください!」
「まったく何なんだアレは!!?君はアレの主だろうが!!おかしな真似をしないようにちゃんとシツケをしておけ馬鹿者!!」
ジェムは大激怒、セイルは平謝り。
「申し訳ありません!彼女は二度と王宮に近付かせませんので…!」
「当たり前だ!!だいたいあの女は以前から調子に乗っている所があった!聖剣の精霊だと!?それが一体どれだけ偉いというんだ!?イルシャ・ルーナ!?ハッ!そんな古代人など知るか!これからは僕が作る僕の国の歴史が始まるんだ!僕は神だ!そうだろうクルアーン・セイル!?」
「仰る通りです…ジェム閣下」
ひとしきり怒鳴り散らして気が晴れたのか、やがてジェムはフゥ…と溜め息をついて言った。
「…もう良い。下がりたまえ…」
「はい…失礼いたします」
セイルは執務室を後にした。
(はあぁ〜…アルトリアのヤツ無茶な事しやがって…でもジェムも許してくれたみたいだし、大事にならなくて本当に良かったぁ…今日だけは自分がジェムのお気に入りで良かった…本当に…)
ジェムの前でアルトリアに厳しい事を言ったのも、家族…ウマルやヤスミーン、それにミレル達に被害が及ばないようにするためであった。
今や国の実権を握り位人身を極めたジェムを殺そうとしたのだ。
最悪の場合、一族郎党、使用人に至るまで死罪も有り得た。
それを回避出来たのは、やはりセイルがジェムのお気に入りであったが故という理由が大きい。

一方、屋敷に戻ったアルトリアは自責の念に駆られていた。
(…私は何という事をしてしまったのだ!!激情に駆られて軽はずみな行動を取り、セイル様やミレル殿、ウマル殿のお命を危険に晒してしまった!!あぁ…しかし!!ルーナ様…私はどうすれば良かったのですか…!)

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