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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 206

(…シャリーヤは父親を殺させた僕を恨んでいるのではないだろうか?…いや、きっとそうなのだろう。あの夢はその暗示だったに違いない。そうでなくても、ある時とつぜんコイツにイムラーンの霊が憑依して僕を殺すかも知れない。…いずれにせよこの女はダメだ。イムラーンを思い出させる…)
「ジェム様?いかがなさいましたか?」
「…いや、何でもない……」
そう言ったきり黙り込んでしまったジェムをシャリーヤは心配そうに見つめる。
するとジェムは、ふと思い付いて言った。
「…そうだ!シャリーヤ、セイル君を呼んで来るんだ(彼なら僕に対する怨恨が無いから安心だ)」
「クルアーン・セイルを…今からですか?」
「そうだ!早く行け!」
「わ…解りました…」
シャリーヤはセイルの家へと向かった。


小一時間後…
「閣下、クルアーン・セイル殿を連れて参りました…」
「こんばんは…」
セイルは(彼にしては珍しく)無愛想に挨拶した。
寝ていた所を叩き起こされて登城させられたのだから当然である。
「セイル君!遅かったじゃないかぁ〜!」
ジェムはセイルを見るや否や喜色満面の笑みを浮かべて駆け寄った。
「あぁ…セイル君、セイル君…セイルくぅ〜ん…」
(…何なんだよ…)
ジェムはセイルに抱き付き、胸板に頬擦りする。
まるで愛しい恋人にでも再会したようだ。
当のセイルは呆れつつも困惑気味で、白衛兵はヤレヤレ…とでも言いたげに肩をすくめ、シャリーヤは何を考えているのか見た目からは解らないが黙って二人を見ていた。
ジェムはシャリーヤ達の方に向き直って言った。
「あぁ、お前達はもう良いぞ。ご苦労だったな」
「…はい、それでは閣下、失礼いたします…」
シャリーヤと白衛兵達はその場を後にした。

「……」
「シャリーヤ殿、ジェム閣下のご寵愛を奪われてしまいましたね〜」
廊下に出て少し行った所で白衛兵の一人が茶化すようにシャリーヤに言った。
「…何の事?私は別にジェム様の愛情が欲しくてお仕えしている訳ではないわ。あのお方が誰を愛そうと、私のあのお方に対する忠誠心に変わりはない」
「フフ…無理しなさんな。本当は寂しいクセに…。俺が慰めてあげますよ…」
そう言いながら彼はシャリーヤの肩に手を回した。
次の瞬間…

 ザシュッ…ボトン…ゴロゴロ…

彼の頭は肩の上から転がり落ちて床に転がった。
シャリーヤは、パチン…と剣を鞘に収めると他の白衛兵達に命じた。
「まったく…何を馬鹿な事を言っているのかしら。あなた達、この死体を始末しておきなさい」
「は…はい!(やっぱりショックだったんだ…)」
「かしこまりました!(馬鹿な事したなぁコイツ…)」

…ジェムは窓辺でセイルに体を預けながら外を眺めていた。
「はぁ…僕はやっぱり君じゃなきゃダメだよ、セイル君…」
「はあ…」
「…この宮殿には僕が求めれば体を許す者は何百人と居るだろう…でも僕が最も側に居て欲しいと願うのは君なんだ…いや、むしろ君さえ居てくれれば僕は他の誰も要らない…」
「はあ…」
「安心しろ…この間のような事はしない…ただ側にいてくれるだけで良い…」
「……(何かあったのか?この人…)」
ふとセイルはシャリーヤの顔が思い浮かんだ。
そして彼女を哀れに思った。

少し間を置いて、ふとジェムは口を開いた。
「……もう嫌だ、この王宮は…ここには悪い物や嫌な物がたくさん溜まっている…」
「悪い物…」
それはジェム自身が招いた事だろう…とセイルは思う。
ジェムは続ける。
「…そうだ、悪い物だ。王宮だけじゃない、王都全体が暗く淀んだ重苦しい空気に満ちている…まったく息苦しくてかなわない。僕はもうこの街がすっかり嫌いになってしまったよ…」
「……よく言うよ…僕の好きだった街をこんなにした張本人が……」
セイルは小さく呟いた。
不満が思わず声となって出てしまったのだ。
「…ん?いま何か言ったか?」
「い…いえ、何でも…」
「……まあ良い、もう少しの辛抱だ。もう少しでこの辛気臭い都ともオサラバさ…」
「…どういう事ですか?」
「遷都する」
ジェムはキッパリと言った。
「せ…遷都って…500年の歴史を持つこの王都を捨てて別な土地に移るんですか!?」
「そうだ。玉座のある所、そこが即ち王都となる…もう新しい都の候補地も決めているんだ。アズィーム湖の中央にジャズィーラという島が浮かんでいるのを知っているかい?」
「はい、聞いた事ぐらいは…」

“アズィーム湖”はイルシャ王国の国土のほぼ中央に位置する巨大湖である。
ここを源として国土を横断して西の海に注ぐ大河“ナハル川”は乾燥した砂漠地帯の多いイルシャの国土に潤いを与える貴重な存在である。

「…ジャズィーラ島は今の王都の街がスッポリ収まってしまうぐらいの面積がある。新しい都はそこに置くつもりだ。巨大な湖の真ん中だから船を使えば各方面へのアクセスも良いし、周りを水に囲まれているから防衛という観点から言っても極めて好都合だ」
「で…でも、あそこは…あの島は…」
セイルは思わず大声で言った。
「…あの島は、イルシャ・ルーナ女王様の聖廟がある神聖不可侵の地ではありませんか!」

そう、上記ような好条件にも関わらず500年もの永きに渡り誰一人としてジャズィーラ島に都市や城塞を築かなかった…否、築けなかった理由…それはジャズィーラ島がイルシャ王国の開祖イルシャ・ルーナ女王の眠る神聖な土地だからである。

「…確かに、あそこは我々イルシャの人間にとって聖地と言える地だ。だが僕はこうも思うんだよ。イルシャ王国は一体いつまでルーナ女王のご威光に捕らわれているんだ?とね…」
「いつまでって…イルシャ王国が存続する限り、未来永劫に決まってるじゃないですか!」

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