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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 200

殴られたその生徒は、泣いて自分が学級費を盗んだ犯人である事を告白した。
皆の疑いの目が自分に向くのが怖かったので、執拗にパサンを攻撃したとの事であった。
セイルはそれまで全く目立たない大人しい地味な生徒で、とてもそんな事をするキャラではなかった。
その後、セイルは一躍人気者となりクラスの中心に…はならなかった。
彼は事件を解決すると、まるで自ら望んだように再び元の立ち位置に収まった。
彼はその後も時々そのような突拍子も無い行動に出て周囲を驚かせた…。

「ほんと、君は“誰かのため”に動く時だけは空気読まないよね」
「そ…それ褒めてるんですか?」
「褒めてるのさ。あの時だって君達の中には“パサン君が犯人だ”という空気のような物があっただろう?そんな中で君のあの行動…なかなか出来る事ではないよ」
「ハハ…まさかイジメの中心のヤツの方が犯人だったなんて…僕も驚きました。あの時はただ確たる証拠も無いのにパサンをイジめる彼が許せなかった…そう思ったら体が勝手に動いてたんですよ」
「それで君はパサン君と仲良くなったんだったね。その内アリー君も加わって、君たち三人はいつも一緒だったな…」
「ええ、一時は別々なクラスになった事もありましたけど、結局あの二人とは卒業までツルんでました…まぁ、腐れ縁ってヤツですよ」
「良い縁じゃないか。大切にしろよ」
「はい!」
「フフ…良い子だな、セイル君は…」
そう言いながらライラはセイルの頭を撫でた。
「せ…先生!?ちょっ…僕もう子供じゃないんですよ…!?」
「君だって私の事をいまだに先生先生って呼ぶじゃないか…おあいこだ♪」
「もぉ〜…」
セイルは気恥ずかしそうに顔を赤くして俯(うつむ)く。
「君は心の優しい人間だな、セイル君…私が昔好きだった人に似ているよ…」
「…え?」
ふとセイルはライラを見た。
彼女が一瞬だけ見せたその表情は、とても哀しそうな顔をしていた。

…と、そこへ一人の男が二人に近付いて来た。
「ライラ!こんな所に居たのか」
「あ…あなたは…!」
その男を見たセイルは思わず眉をしかめた。
彼…ウルジュワン・サラームは宮廷内や世間では“ジェムに手柄を横取りされたが、王都をバムとブムの手から解放した真の英雄”として見られていた。
だが、人々の犠牲を厭わない彼の策略で死んでいった仲間達や市民達の存在、さらにそうしてまで追い詰めたバムとブムを金品と引き換えに逃がすという彼の卑怯で身勝手な振る舞いを知るセイルは、とてもではないが彼を英雄とは思えなかった。
「おや…誰かと思えば、クルアーン・セイル君ではないか。君はライラと知り合いなのかね?」
「はい…幼年科の担任でした。あなたはライラ先生とはどういう関係で…?」
「私は今、近衛第一中隊の隊長をしている。彼女の直属の上官だ…そして彼女の婚約者だ」
「ええぇぇぇっ!!!?」
セイルは仰天した。
「そ…そうなんですか!?先生!!」
ライラは小声でセイルに教えた。
(ハァ…彼が熱烈にアタックして来て…私の両親と話し合って強引に縁組みを決めてしまったんだ。彼の家は名のある貴族で私の家はしがない中級士族…逆らえなかったんだよ…)
「何を二人でブツブツ言っている?私はライラに話があるんだ。悪いがクルアーン・セイル君、ちょっと外してもらえるかな?」
「わ…解りました…それじゃあ、僕は、これで…」
セイルは半ば呆然となりながらその場をあとにした。

「……(ライラ先生があのウルジュワンと結婚?ライラ先生があのウルジュワンと結婚?ライラ先生があのウルジュワンと結婚?ライラ先生があのウルジュワンと結婚?ライラ先生があのウルジュワンと結…)」
『セイル様、セイル様…』
悶々としながら王宮の廊下を歩くセイルにアルトリアが精神感応で話し掛けて来る。
「ア…アルトリア…世の中間違ってる…こんなの絶対おかしいよ…」
『セイル様…まだ引きずっていらしたのですね。あの方への恋心を…』
「…自分でもちょっとビックリした…」
『ま、私は気付いてましたけどね』
「…今ならアリーがクーデターを起こした時の気持ちが解るような気がするよ…」
『あぁ…目がヤバいですね。言っておきますが、くれぐれも変な気を起こさないでくださいよ?』
「わ…解ってるって!…はぁ〜、でも先生が“理不尽な貴族の支配に憤りを感じる”と言っていた意味がこれで解ったよ。まさか望まない結婚を強要されていたなんて…」
「そうですね…」
だがアルトリアは思う。
(確かにそうだが、どうもそれだけではないような気がするんだよなぁ…彼女が一瞬見せたあの暗い表情からは、その程度の悲しみや憤りなどでは表せない程の深い闇が感じられた……いや、これは私の考え過ぎか…?)

一方、ライラとウルジュワンは回廊に囲まれた中庭に来ていた。
「はぁ…はぁ…ライラぁ…!」
「や…止めろ!…ンン〜ッ!?」
ウルジュワンは木陰にライラを引き込み、無理やり抱き締めて唇を奪った。
ライラは身をよじってウルジュワンから離れようと抵抗するが、騎士とはいえ女の腕力では男であるウルジュワンには適わない。
「はぁ…はぁ…ライラ、君は一体いつになったら私を受け入れてくれるのかね?」
「ふ…ふざけるな!私があなたを受け入れる事など未来永劫有り得ない!」
「あぁ…君の心はまだ“あの男”の物だというのか…肉体はもうとっくに私の物になったというのに…」
「やめろぉ!!」
ライラは叫んだ。

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