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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 198

ジェムは腰掛けていた椅子から立ち上がりディーンに詰め寄った。
「ほほう!貴公は主家たる王家の危機よりも自分の領地の方が大事だというのか!?」
「そのような事はございません!」
もはや言い掛かりに等しい(事実そうなのだが)ジェムの論にディーンは尚も弁明する。
「我が州は長らくイルシャ王国の南を守って参りました!我が州が落ちるという事は、すなわちイルシャ南部全域…ひいては国王陛下のおわします王都までもが脅かされるも同義!ゆえにいかなる理由があろうとジャバルの地に踏みとどまりイルシャの国土を守るのが我がアル家の王家への忠誠の形であり使命と心得ております!」
「うぬぅ…っ!!」
堂々たるディーンの態度にジェムも思わず言葉に詰まる。
そして彼は剣を抜いた。
「ジェ…ジェム閣下!?」
「いけません!どうか冷静に…!」
周りの廷臣達が慌てて止めに入ろうとする。
「黙れえぇいっ!!」
「「「…っ!!」」」
しかしジェムの一括で皆すぐに黙ってしまう。
ジェムは剣をディーンの首筋に突き付けた。
ディーンはジェムを真っ直ぐに見据えている。
「……」
「……」
二人は視線を合わせたまま、数秒…。
誰もが固唾を飲んでそれを見守る。
…と、信じられない事が起きた。

ジョロロロロロ〜…

「…うぐぅ…」
水音と共にディーンの足元に見る間に水溜まりが広がった。
「失禁だ!」
廷臣の一人が思わず叫ぶ。
「う…うぅぅぅ…」
ディーンはガタガタと体を震わせながらへたり込んでしまった。
「な…何だと…っ!?」
これにはジェムも驚く。
「プッ…ブァーッハッハッハッハッハァ…ッ!!!!」
次の瞬間、ジェムは腹を抱えて大笑いし笑い転げた。
「おやおや…」
「これはまた…」
「何とまあ…」
廷臣達からも失笑と忍び笑いが漏れる。
「……」
ディーンは顔を真っ赤にして下を向いて震えている。
その表情は計り知れないが、どうやら泣いているようである。
「アッハッハッハッ!!…いやあ〜、ディーン君、ディーン君。済まなかった、済まなかった。怖がらせるつもりは無かったんだよ〜。ほんの冗談のつもりで…ね?いや、まさかね〜、君、その…漏らすなんて…いやあ、本当に悪かったよ〜」
ジェムは手の平を返したように上機嫌でディーンを下の名前で呼び、満面の笑みを浮かべながら気さくに肩をポンポンと叩いた。
アル・ディーンは剣を突き付けただけで恐怖で小便を漏らす小者だった…それが判ったジェムは、もう嬉しくて嬉しくて仕方が無い。
廷臣達は小声で囁き合う。
(アル・ディーンめ、上手く逃げおおせましたな…)
(まったくですな…ご覧なさい、あの大執政サマの嬉しそうな顔…)
(しかし命惜しさに人前ではばかり無く小水を垂れ流すとは…騎士としては潔くありませんなぁ〜)
彼らの大半はディーンの失禁を演技と見ていた。
状況が状況だからである。
だが本当に恐怖で漏らした可能性も否定は出来ず、まさに“真相は当人のみぞ知る”である。
ただ一つ確かに言える事実は、失禁で空気が一変したという事であった…。

あのサーラ姫並に厄介な敵と警戒していた男が剣を突きつけられた程度で失禁する小心者と解ったからジェムの表情は非常に機嫌良く優越感に満ちていた。
そして、剣を鞘に収めるとジェムは椅子に座るとディーンは無実である事をいやらしく嫌味な態度で伝える。
「くっくっく、ディーンくん、君の罪は晴れたよ。いや〜疑ってすまないね〜」
「いえ…こちらこそ閣下に疑念を抱かせてしまい申し訳ありません…」
しかし、嫌らしいジェムの態度に対してディーンは全く腹を立てず逆にジェムを煩わせた事を謝罪する。
「うむ、殊勝な心掛けだ。これからも南蛮の賊共を取り締まってくれたまえ」
(噂通りの鈍牛ですな〜騎士の誇りも無いのですかね?)
(全くだ。卑屈すぎるジャバル州の者達が可哀想でならぬよ〜)
ディーンの卑屈で情けない姿をジェムの廷臣たちもクスクスと嘲笑う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
密かに自分を見下し嘲笑う廷臣たちをディーンは気づいていたが、それでも静かに沈黙を保つだけであった。
ディーンの見っとも無い姿を見下す廷臣たちをジェムは咎める。
「君たち、人の不幸を嘲笑うとはイルシャ王国の廷臣にあるまじき行為じゃないか〜」
「もっもうしわけありません」「閣下の仰るとおりです」
廷臣たちが黙るとジェムはディーンに湯を用意して失禁で汚れた衣服を洗っておくと言う。
「ディーンくん、このまま屋敷に帰っては人の目があるだろう。湯を用意して代えの着替えも用意しておくよ。代えの服は君にあげる。そして、汚れた服は洗って明日にでも我が家来が君の屋敷に届けておこう」
「閣下、それは畏れ多いことですが…お言葉に甘えます」
自分の寛容さを見せ付けようとするジェムの魂胆をディーンは察していたが、
ジェムの機嫌を損ねてはせっかくの無罪放免が無くなるのを恐れディーンは従うしかなかった。

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