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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 197


一方、王宮ではジェムがディーンに対してどのような処遇を下すかの話題で持ち切りだった。
セイルの父オルハンもその一人であった。
「兵部大臣殿、ジェム閣下がジャバル太守のアル・ディーンを召喚したそうでございますな」
「うむ、嫌な予感がする…いや、嫌な予感しかせんな」
「噂が流れております。ジェム閣下は卒業試験でアル・ディーンに不戦敗した事を恨んで彼を処罰する気だと…本当だと思いますか?」
「フンッ…いかにもあの幼稚なプライドの塊のような若造の考えそうな事よ」
兵部大臣は吐き捨てるように言った。
オルハンは慌てて辺りを見回し声を潜めて言う。
(だ…大臣!よりにもよって宮廷内でジェム閣下を冒涜する発言…白衛兵に聞かれたらどうするんです!?)
ところが大臣は全く意に介さぬどころか、コソコソとしたオルハンの態度に逆に憤慨し声を荒げ始めた。
「本当の事を言って何が悪い!?アル家は家格こそ高くはないが、我が国の南端にあって南方からの蛮族の侵入を阻み続けてきた功臣だ!それをくだらぬ私怨で罰するとは…何という狭量か!まさに愚行だ!」
彼はアフメト王の頃から残っている臣下であり、ジェムに反意を抱いていた。
「だ…大臣殿!私は用事を思い出しました!失礼いたします!!」
こんなヤツと一緒に話している所をジェムの配下の者に見られでもしたら大変である。
オルハンは慌てて立ち去った。
大臣は吐き捨てるように呟く。
「フンッ…そう言えばあやつ(オルハン)もジェムに引き立てられたクチだったか。自分の息子と同い年の餓鬼の顔色をうかがってヘコヘコしている腰巾着め!」

兵部大臣から逃げて来たオルハンの前に一人の男が姿を現した。
「とっとと逃げて来て正解だったな、クルアーン・オルハン殿」
「貴殿は…確か近衛騎士隊長の…」
「ウルジュワン・サラームだ」
ウルジュワン・サラーム…バムとブムのクーデター時、近衛隊と衛士隊の生き残りを集めてレジスタンスを組織し、王宮を奪還した男である。
その実は野心家で己の野望のためならば他人の犠牲は厭わない卑劣漢でもある。
王宮奪還作戦時、目覚ましい活躍を見せたセイルを自らの配下にしようと勧誘したが、その本性を見抜いたセイルには拒絶され、さらに後から来たジェムに漁夫の利を浚われるという度重なる屈辱にもメゲずにジェムに尻尾を振った結果、今では近衛隊長の座に収まっていた。
ウルジュワンはオルハンに言った。
「命が惜しければあの兵部大臣とは関わらない方が良い。あの男、裏で何か企んでる」
「ま…まさか謀叛(むほん)…!?」
「詳しくは判らん…だが宮廷内でジェムに反発する者達に密かに呼び掛けて回っている。俺も誘われたが断った。今の宮廷でジェムに逆らうなんて馬鹿げてる」
「あ…ああ、私もそう思う。まったく何を好き好んで危ない橋など渡ろうとするのか…」
「…まぁ、私もジェムは嫌いだがな…本当なら今頃は私がヤツの居る所に居るはずだったのだから…だが今のヤツは正に飛ぶ鳥を落とす勢いだ。血の気の多い馬鹿共が集まって酒の席で思い付いたような浅はかな企てごときで倒せる相手ではない。今はまだその時ではないのだ…」
「そ…そうだな…(今はまだ?という事はコイツもいずれはジェムに対して反旗を翻す気か?ジェムは本当に敵だらけだなぁ…まぁ、俺もいざという時の身の振り方だけは考えておいた方が良さそうだな…)」
引き立てて貰った恩はあれど共に心中する気は無し…いかにも節操の無いオルハンらしい考えであったし、現在ジェムの(ヤヴズ一族以外の)臣下には彼のような人間が多かった。
いざとなったらジェムなど見捨ててサッサと逃げるか敵方に寝返る算段だ。
だがそんな彼らの内心をジェムが察していない訳が無かった。
彼らはジェムによって釘を刺される事となる…。


そして、ついにアル・ディーンが王宮にやって来た。
「ヤヴズ・ジェム大執政閣下、アル・ディーン、参上しました」
ジェムを前にしてのディーンの第一声はそれだけだった。
口上も世辞も無い…実に彼らしい質素な挨拶。
「うむ、遠い所わざわざ大儀だったな、ジャバル太守アル・ディーン。この度呼んだのは君に問い正したい事があったからだ」
「とっ問い正したい事でございますか?」
ディーンがそういうとジェムは早速詰問を開始する。
「うむ、ヤヴズ兄弟が王都が占拠された時、なぜ貴公は私の王都解放の呼びかけに応じず援軍を出さなかったのだ。王家の危機に太守が駆けつけないとはどういう了見だ!説明してもらおうか!」
当初の紳士的な態度と異なりジェムはディーンを罪人をみるような目で詰問する。
「閣下、我が州は王都から遠く南蛮が常に虎視眈々と狙っております。下手に王都に援軍をおくれば蛮族に気取られ連中が大挙してジャバル州を攻め込んだはずです」
しかし、ジェムも攻撃的な詰問に物怖じしないディーンは王都に援軍を送れなかった理由を堂々と説明する。

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