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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 196

しかし、ディーンはジェムに屈服して故郷ジャバル州を守る為に王都へ上洛するだけではなかった。
彼の目的をファティマは直ぐに察したこういう阿吽の呼吸は幼馴染ならではの物である。
「ファティマ、俺はジェムに会い媚びるだけが目的じゃないぞ」
「そうでしたね。ヤヴズ・ジェム統治下である王都の現状。ジェムの本質を知るには絶好の機会ですね。『危機の中にこそチャンスは転がってる物だ』ディーンさん、行ってましたね」
「そうだ。絶望に脅えてばかりでは駄目だ。絶望していたら視野が狭くなるだけだ」
自分の意図に気づいてくれたファティマにディーンは笑顔になる。
何だかんだいっても自分の事を信じてくれるファティマはディーンにとって血を分けた兄妹に近い。
さしづめ、セイルとミレルに近い関係である。

「でも、あの卒業試験で得た勝利は偶然手に入れたに過ぎないんですよ。それなのに根に持つなんてヤヴズ・ジェムも器の小さい男以前に性格が歪んでません」
ここまで、ディーンを警戒するジェムの傲慢さと粘着質を思いっきりファティマは罵る。
ジェムという人間を自分なりに分析をディーンはファティマに説明する。
「ああ言う生粋のエリートは何でも自分が一番じゃないと気が済まないんだろうな」
その言葉でファティマはある考えに思い至った。
「…ディーンさん、もしかしてジェムって物っっっ凄い幼稚なガキなんじゃあ…?」
「…いや、俺もその線は有りだと考えている。考えてはいるが、万が一という事もあるから油断は出来ん。俺もまだあのジェムという男を計りかねている所だ…」
なんと、ジェムがディーンの本質を計りかねていたのと同様、ディーンもまたジェムの本質を計りかねていたのであった。
ジェムがディーンを解らないのは仕方無い事として、ディーンがジェムを解らないのは…これは彼の人を見る目の無さと言わざるを得ない。
…と言うのもこのアル・ディーンという男、実に奇妙な人物で、常人には到底考えが及ばない程の奥深さを持っている…かと思えば馬鹿でも普通に解るような事が理解出来ない…。
それがまたジェムを悩ませる所なのだが、実のところ彼は天才でも馬鹿でもなく“そういう人物”なのだ。
彼との付き合いが長いファティマなどはそれを理解している…というより、そう結論付けた…そこに落とし所を定めた。

とにもかくにも、ディーンは僅かな家臣を伴い王都へと向かった…。


もちろん、信頼する側近のファティマを伴っていた。
慎重すぎて決断の遅い自分の尻を厳しく叩くファティマは彼にとって重要な存在であった。

ディーンがジャバル州を出て、一週間後。
王都への上洛の最中、馬車に揺られながらディーンはげんなりとした表情でぼやいていた。
己の家族や家臣とその家族やジャバル州の領民たちを守るために上洛するのだが、王都へ行くこと自体がディーンにとって億劫であった。
「皆を守るためなのは解っている。しかし、あの王宮には行くのは辛い。あそこへ行くと寒気が走る」
「出立してから、同じ事を何度もぼやけば気が済むんですか!お父上様みたいな頭が禿げますよ」
父親みたいに禿げると一番気にしてる事をファティマに言われムカッとくるディーンは頭髪がやや薄い傾向があったのであるが、怒鳴っても事態は何も変わらないので抑えると王宮の恐ろしさをファティマに説明する。
「一番人が気にしてる事を言うのか!ファティマ…お前は王宮に上がった事が無いから知らないんだ。王宮は人の心を狂わせる禍々しい魔窟なんだぞ…あそこは人の心を闇に染める場所だ」
「魔窟、まあ権力のある場所なんてそんな物ですよ。人間なんてお金と権力には弱い生物ですからね。」
「ファティマ、だから国は腐敗してジェムみたいな悪党が支配されるんだ。泣くのは庶民なんだぞ」
親族を踏み台にして国を私物化するジェムの身勝手な振る舞いにディーンは怒りを覚える。

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