PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 18
 20
の最後へ

剣の主 20

生徒達の誰かが呼んで来たのであろう、数人の教官達が彼らを取り囲んで言った。
「イシュマエル・ドルフ、アザド・タルテバ…それにダブウ先生、我々と一緒に来てもらいましょう。学院長から話があります…」
「「……」」
タルテバとダブウは無言のまま、全てを諦めたような絶望の表情で力無く従う。
「なにすんだよぉ〜!?オヤジに言うぞぉ〜!」
ドルフだけは一人子供のようにギャアギャアと騒いで抗議していた。
そこへ…

「皆さん!お待ちください!この場はこの僕にお預けくださいませんか!?」
突如として音吐朗々、あらぬ方向から何者かが口を挟んで来た。
皆の視線が声の主に集まる。
そこにあったのは一人の少年の姿だった。
「ジェムだ…」
「何だってアイツが…?」
「キャ♪ジェム様〜…」
ギャラリーがにわかにざわめき始める。
彼の名はヤヴズ・ジェム…端から見れば女性と見紛う程の優しく整った目鼻立ちに爽やかな印象の美少年だ。
ジェムの実家ヤヴズ家は数代前に王家から分家した傍系…つまりサーラ王女とは遠縁に当たり、ドルフの実家イシュマエル家よりも家格は上である。
ただ彼はドルフと違って、その事を鼻に掛けて威張るような真似はせず、おまけに成績は実技・学科共に優秀、人当たりも良く、統率力もあり、教官達の受けも良く、男女を問わず皆から好かれていた。
そんな絵に書いたような完璧人間が突然現れて“待った”を掛けたのである。
彼は教官達に歩み寄って尋ねた。
「先生方、彼らはどうなるのですか?」
「うむ、共謀して一人の生徒を退学に追い込もうとしたんだ。まあ、退学が妥当な処分だろうな…」
学年主任の教官が言った。
「そうですか…しかし、それはあまりにも厳しすぎるのではないでしょうか…」
「何を言う!?こんな不正を許したとあっては騎士学校の面目が…」
次の瞬間、ジェムは学年主任の手を強く握り締めて訴え掛けた。
「先生!確かに彼らは過ちを犯しました。しかしそれに対して罰を与える事で一体何が解決するというのですか?それよりもここは寛大な措置をもって彼らの改心を促す方がよほど善策と思います。彼らに更生の機会を与えてはいただけませんか?」

「そうだそうだ」
「ジェムの言うとおりだと思う」
「相手を“許す”って大事だよな」
周りの生徒達もジェムの意見に賛同し始める。
「そ…そうだなぁ…被害者のセイルがそれで良いと言うのであれば…」
教官はそう言ってジェムから視線を逸らし、セイルの方に目を向けた。
「えぇ!?ぼ…僕ですかぁ!?」
いきなり話を振られたセイルは面食らった。
「ばっかじゃねえの!?セイルは薄汚ねえ罠にはまって、もう少しで人生を狂わされる所だったんだぜ!?それを許すなんて…」
パサンが吐き捨てるように言う。
ジェムは今度はセイルに歩み寄ると、やはり彼の手を握って訴えかけた。
「…セイル君、どうだろう?君を騙して退学に追い込もうとした二人だが、ここは一つ、寛大な心で許してはもらえないだろうか?」
「…う…うん…」
セイルは一瞬だけ躊躇った後、言った。
「…許す。許すよ…」
「……セイル君!ありがとう!君こそ真の騎士だ!」
ジェムは大袈裟にセイルの肩を抱いて言った。
「いいぞぉ〜!」
「そうこなくっちゃ!」
「これにて一件落着〜ってか♪」
周りから再び拍手喝采が沸き起こる。
「な…何でだよぉ〜?セイルぅ〜」
肩を落としながら嘆息するパサンにアリーは言った。
「いやぁ、この空気の中では“許す”と言わざるを得ないだろう…セイルの性格を考えれば尚更だ。結局ジェムにしてやられたな…」
そんな皆のやり取りをサーラ王女はただ黙ってジッと見つめていた。
一方、アルトリアはつかつかとセイルとジェムの二人の元に歩み寄り、二人にしか聞こえない程の小声でジェムに話し掛けた。
「この下衆(げす)めが、私の目を欺けると思うなよ。貴様、今…」
「おっと…せっかくイイ場面なんだ。そんな野暮な事は言いっこ無し…それに君のご主人は“受け取らなかった”よ。正直僕も驚いてる所だ…」
口元に爽やかな微笑を浮かべて言葉を交わす美少女と美少年…だが目だけは全く笑っておらず、あまつさえ見えない火花がバチバチと飛び散っている。
「ま…まあまあ二人とも…もう済んだ事だし…良いじゃない…」
その間に挟まれたセイルは物凄い居心地の悪さを感じていた。
(誰か助けてくれぇ〜…)

やがて先に視線を逸らしたのはジェムの方だった。
彼はアルトリアの胸元に目を落とし、ほんの一瞬、獲物を狙う蛇のように絡み付くような目付きをして言った。
「月に剣か…素敵なデザインだね…」
それは毎日目にしているセイルでさえ取り立てて意識してはいなかった物…アルトリアが身にまとっている鎧の胸当てに施された装飾であった。
三日月と両刃剣が交叉している意匠だ。
「貴様には関係の無い物だ…命が惜しければ無用な詮索は止めた方が良い」
「フフフ…それは恐ろしいね。今日の所はこれで失礼するよ。さすがの僕も命は惜しいからね…」
そう言うとジェムは不敵な笑みを浮かべて踵を返し、去って行った。

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す