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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 185

そんな話をしている所へ血相を変えた一人の衛士が飛び込んで来て叫んだ。
「た…大変ですーっ!!!!」
「どうした!?」
「大通りで男が刀剣を振り回して通行人を無差別に襲っています!!取り押さえようとした衛士2名も刺されて重傷です!!至急応援に行ってください!!」
「「「…っ!!?」」」
一瞬で皆の顔が強張る。
小隊長が叫んだ。
「全員、至急小銃と弾倉を携帯し現場へ急行!!」
「「「は…はいぃっ!!!!」」」
皆は慣れない小銃を手に走った。

「ハァッ…ハァッ…ちょ…これめっちゃキツい…!」
アブラハムは息切れしている。
小銃自体が5kg以上あり、実弾100発の入った弾倉を肩から襷(たすき)掛けにして携帯し、もちろん腰には今まで通り騎士の誇りである剣も引っ下げて…つまりとても重いのだ。

アブ・シルは走りながら事情を知る衛士に尋ねた。
「おい!犯人は刀剣を持っていると言っていたが、騎士なのか!?まさか貴族じゃないだろうな!?」
「判らん!だが●チガイだ!例え貴族でも殺しても責められないだろ!」
大通りに出るとパニック状態になり逃げ惑う市民達でごった返していた。
「うわぁ〜っ!!?」
「キャーッ!!!」
「あぁ、兵隊さん!!早く犯人を捕まえてくれぇ!!」
「我々が来たからにはもう大丈夫だ!で、犯人はどこにいる!?」
「王宮前広場の方に行ったよ!もう十人は斬られた!」
「よし!みんな行くぞぉ!!」
「小隊長殿!ご自分は拳銃だから軽くて良いでしょうが我々は小銃を担いでいるので重くて…!」
「馬鹿野郎!こうしてる今にも市民が殺されてるんだ!ゴチャゴチャぬかすと減俸処分だぞ!走れ!」
「「「は…はいぃぃっ!!!!」」」

道々に血を流して手当てを受けている人や倒れている人が目に付くようになり、進むに従って次第に増えていった。
「…クソッ!酷いな!」
「やられてるのは女子供や年寄りばかりだ!弱い者ばかりを狙うとは許し難いヤツだな!」
罪人の公開処刑などが行われる王宮前広場に犯人の男はいた。
彼の周囲には十人以上が倒れており、足元は血の海である。
「うわあぁぁっ!!?く…来るなぁっ!!来たらこのガキの命は無いぞぉっ!!」
「うわあぁぁんっ!!!」
男は少女を人質に取っていた。
「うぬぅ…これでは手が出せん……ん?」
小隊長は歯噛みするが、犯人の顔を見てハッと気付いた。
「…おい!お前は…アブ・キル!アブ・キルじゃないか!お前何やってんだ!?こんな所で!」
何と、犯人はあのアブ・キルであった。
「本当だ!アブ・キルじゃねえか!」
「ぼうぼうに伸びた髭のせいで一瞬判らなかったが、ありゃ確かにアブ・キルだ!」
「アブ・キル!ついに堕ちる所まで堕ちやがったな!」
「つか幼児退行、直ったのかよ!」
「う…うるせぇー!!この腐れ衛士共ぉ!!あれから俺がどんなに辛く苦しい想いをしていたかも知らねえで…!!」

 ………

幼児退行を引き起こした事によって永遠に辛い現実から訣別したと思われていた彼が何故このような事件を引き起こすに至ったのか…。

衛士府を辞した後、彼はずっと心の弱ってしまった人々を収容する施設に収容されていた。
しかし暫くすると回復の兆しが見え始め、あっさり追い出された。
時勢柄、収容希望者は後を絶たなかったし、彼はよく他の収容者や職員達に対してつまらない言い掛かりを付けては騒ぎ立てるというトラブルを起こして皆から嫌われていたので、施設側も酷く冷淡だった。

だが高福祉国家イルシャ王国では“士族以上の者に限って”どのような人間にも救いの手が差し伸べられる。
仕事が原因で負傷したり病に倒れて働けなくなった役人に支払われる“労働災害手当”という物があり、王政府から毎月の生活費が支給される。
加えて退職した役人に支払われる“恩給”があり、これを合計すると真面目に働いている場合と大差無い収入となる。

まったく意味の解らない話である。

かくして彼は毎日遊び暮らす生活を始めた。
昼間から酒を飲み、賭博場に通い、女を買った。
博打で金を擦っても、痛くも痒くも無かった。
自分の金ではないからだ。
元を正せば“平民以下の”国民から徴収された血税である。
彼は思った。
(誰かが汗水を垂らして働いて産み出された利益…それが巡り巡って俺の元へと辿り着き、お陰で俺は日も高い内から上等な酒を飲み、博打を楽しみ、女とセックスが出来るって訳だ…)
誰かの労働の上に成り立つ生活…普通ならば自分の暮らしを支えてくれている顔も知らない無数の人々に感謝し、そして己を恥じ、一日も早く社会復帰に努める…それが良識ある人間の成すべき道である。
だが彼はそうは考えなかった。
(…こういう暮らしは“選ばれた人間”だけに許された特権なんだ。俺は選ばれた“特別な人間”に違いない。貴族だってこんな自由な暮らしはしていないぞ…)
彼の自己肯定感はハンパなかった。
だがやがてそんな日々にも飽き、彼は退屈を感じるようになって来た。
酒も女も毎日となれば飽きる。
博打も自分で働いて稼いだ金を掛けるからこそ一瞬の勝負に熱くなれるのだ。

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