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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 183

「奴の父親は優秀な地方官としてヤヴズ本家の資金面で貢献しましたが、息子の奴は無能でセム様に無役にされましたからね」
ゲムの経歴をシャリーヤは事務的に語りだす。ゲムの父親は地方官としてセム宰相の資金面で大い貢献した優秀な貴族であったが、息子のゲムは父親に似ず無能でセムの不興を買い家督を継いでも無役と不遇であった。
その為に白衛隊に志願して、ジェムの信頼を得るためになりふり構わず厳しい取締りをしていたのである。
「だから、僕の手足として忠実に働いてくれるんだよ。僕に見限られたら貴族として一生出世できないからね〜」
自分の信頼を得るためにこまねずみのように働くゲムをジェムはあざ笑う。
そして、シャリーヤもさり気なくゲムに酷い事を言うのであった。
「ジェム様、『馬鹿と刃物は使いよう』とはこの事ですね」
「はっはっは、まさしくその通りだ。シャリーヤ君もたまには面白い事をいうね」
普段クールなシャリーヤが意外とユーモラスな事を言うのでジェムは思わず笑みをこぼす。


そんな話をしていたら翌日、件の男がジェムの元を訪れ苦言を呈して来た。
「大執政閣下におかれましてはご機嫌麗しく、恐悦至極…」
ゲムは昨日の街の人々に対する傲慢不遜な態度が嘘のように床に這いつくばらん勢いでへりくだりジェムに媚びる。
「うむ、して何の用だ?ゲム」
「ははあ!私ヤヴズ・ゲム、昨日、城下の市場を視察中、ある騎士に侮辱を受けましてございます!」
「ほう…その騎士とは?」
ジェムはとぼけて質問した。
「ははあ!畏れ多くも勿体無くも、お手前、ヤヴズ・ジェム大執政閣下の直属の騎士を名乗るクルアーン・セイルと申す不届者にございます!閣下!!どうかこの者めに重い罰をお与えください!!」
「クルアーン・セイル君ねぇ…彼は確かに僕の直属の騎士だ」
「…あ!!やはりそうでしたか…いや、そのような者を閣下のお側近くに置いておくなど言語道断でございます!!そのクルアーン・セイルめはこの私を…ヤヴズ一族を侮辱した不忠者なのですぞ!!ただちに見せしめに首をハネるべきと存じます!!」
「ふぅ〜ん…」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしながらまくし立てるゲムの言を、ジェムは椅子に浅く腰掛け、背をもたれ掛けさせながら聞いていた。
「閣下ぁ!!重ねて申し上げます!!大謀叛人クルアーン・セイルに罰を…っ!!!」
「…それは出来ない相談だな」
「か…閣下ぁ…っ!!?」
「さっきから黙って聞いていれば、お前の話も随分と飛躍しているなぁ…お前と個人的にトラブった相手が天下の大罪人か?」
「な…何を仰います!?ヤツはこの私を…ヤヴズ家を…閣下を侮辱したのですよ!?」
「それもまた飛躍した話だな。いいか…彼と揉めたのはあくまでお前個人だ。それが何時の間にか僕やヤヴズ家全体の問題にすり変わっている。お前は自分がこの僕の代弁者かヤヴズ家の代表だとでも思っているのか?」
「そ…それは…その…決してそういう訳では…」
「…そうだとしたら思い上がりも甚だしい。いいかゲム…お前は僕の僕(しもべ)に過ぎない。お前は僕が引き上げてやらなければ今の地位には居なかった男だ。一方あのクルアーン・セイルは実力でこの僕に認められて僕の側仕えになった男だ。つまり、お前はセイルより下なんだよ」
「…っ!!?」
冷静に矛盾点を指摘し、あまつさえ自分をセイルより下だと言うジェムに、ゲムは絶句するしか無かった。
「まだ何か言う事はあるか?」
「い…いいえ、閣下…申し訳ございませんでした……」
ジェムの冷静な指摘にゲムはしおらしく引き下がるが、腹の中はセイルに対する怒りと憎しみの感情で煮えくり返っていた。
(うおのれえぇぇぇっ!!!!クルアーン・セイル!!!よくもこの俺に恥を掻かせてくれたなぁ!!!許さん!!!貴様だけは絶っっっ対に許さん!!!!覚えていろ!!?この恨みは必ず晴らしてやるからな!!!)


「何故あの男を焚き付けるような事を仰ったのですか…?」
ゲムが帰った後、シャリーヤはジェムに尋ねた。
「何の事だい?シャリーヤ」
「お戯れを…あの男は面従腹背…ああいう言い方をすれば表向きは大人しく引き下がりますが、腹の内ではクルアーン・セイルを激しく恨み、必ず何らかの報復行為に及ぶのは必定…それが解らないあなた様ではないでしょう」
「ハハハ…あれにそんな根性があるとは思えないよ。あれは相手が自分より下と見るや逃げる隙も与えないほど徹底的に追い込み叩き潰すが、一転、相手が自分より上と判れば何も手を出せない人間のクズだ。心配いらないよ」
「それは本心ではありませんね。あなたはクルアーン・セイルにあの男をけしかける気でしょう。クルアーン・セイルがどんな反応をするかを見たいから…」
「やれやれ…君には隠し事は出来ないな」
「クルアーン・セイルが少し哀れに思えて来ますよ」
「シャリーヤ、君はセイル君を見張り、彼の行動を逐一報告しろ。そしていざという時には彼を守れ。もっとも守るのは彼だけで良い。彼の従者やあの生意気な聖剣の精霊の身に何があろうが捨て置いて構わない」
「仰せの通りに致します…」
シャリーヤは姿を消した。
「…さて、それじゃあ僕は僕の仕事をするとしようか…」
一人になったジェムは机に向かい、何やら書簡らしき物をしたため始めた。

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