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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 178

「受動的でいて何になりますか。そんな事では話が前に進みませんよ」
「話って何だよ…」
しかし現状で彼らに出来る事など限られている事もまた事実なのであった…。


今や飛ぶ鳥も落とす勢いのジェムには、恐れる物など何も無いと思われた。
彼は古今の権力者の例に漏れず、国家の要職に自分の親族やイエスマンを次々と就けていき、周囲を固めていった。
そして彼の意に添わぬ者は、どれほど優秀であろうと疎まれ、遠ざけられた。

イシュマエル・ドルフは自分の領地のナハルシャットに戻るよう命じられ、その支度をしていた。
「…まったく、あれだけしてやったにも関わらず何の恩賞も無いなんて…人を馬鹿にしおって!あの恩知らずめ!」
憤っているのはドルフの副官のアフサン。
一方ドルフは心なしか嬉しそうだった。
「アフサン、そうカッカするな。やっとナハルシャットに帰れるんだ。喜ばしい事じゃないか。俺はこの重苦しい空気に包まれた王都から離れられるというだけでせいせいしてるがな」
「そうは申しますが坊ちゃま!あの男が身一つで王都を逐われて助けを求めて来た時、救いの手を差し伸べてやったのは我々ではございませんか!あやつの今日あるは我々のお陰と言っても過言ではございません!それを…!」
「…もう言うな。別に俺達は恩賞が欲しくてヤツに協力した訳じゃない」
「し…しかし!ヤツの親族やヤツに尻尾を振っただけで国の要職や広大な領地を得ている者も居るというのに…」
「人は人だ。考えようによっては所領の安堵を約束されただけでも御の字かも知れんぞ?地方の太守の中には、ジェムに味方しなかったというだけの理由で、太守の職を罷免されたり、より小さい領地に転封になった者も少なくない」
「太守の罷免や減禄など、ここ二百年は無かった事ですぞ。あのガキめ、国王の名の下にやりたい放題じゃ…」
「…だからもう良いと言ってるだろ。借りは返したんだ…もうヤツとの関係は清算された…」
「借り?はて、何の事ですか?坊ちゃま…」
「…何でもない。さぁ、行こう。こんな王宮に長居は無用だ」
一刻も早くドルフはジェムの元を去る為に足早に去ろうとするとアフサンも慌てて付いていった。
「おっお待ちください!坊ちゃま、年寄りはいきなり早く歩けませんぞ!」
「普段からデスクワーク弛んでるからだろう」
「そっそんな坊ちゃま、あんまりですぞ」
アフサンをからかいながらドルフは密かにジェムへの反撃を伺っていた。
「・・・・・・・(これで貸し借りは無しだ。ジェム!てめえの思う通りにさせねえからな)」
ドルフがジェムへの闘志を燃やして王都を去る頃、ジェムは一人執務室で寛いでいた。

財政問題が一応解決した上にお気に入りのセイルを無理やり物に出来て上機嫌であった。
しかも、そのセイルを無理やり手篭めにして精神的にダメージを与えながら怯える彼を可愛いと言う始末である。
「ふぅん!一段落着くのは良い事だ。それにセイルくんと結ばれて良い事尽くめとはこの事だ。それにこの間の恐怖に怯えるセイルくんは可愛かったな〜惚れ直したとはこの事だよ」
「……」
嬉々として語るジェムをシャリーヤは黙って見ていたが、やがて口を開いた。
「…ジェム様、これでもうイルシャ王国でジェム様に逆らえる者は居りませんね」
「フッ…まぁ、表向きはな。だが腹の底では僕や叔母上に反意を抱いている者は幾らでも居るだろうさ」
「ジェム様は人の心までをも支配なさらなければお気に召しませんか」
「当然だ!」
「それは可能だとお思いですか?」
ジェムは瞳を爛々と輝かせて身振り手振りを加えて大仰に語った。
「出来るさ!古今東西、一人の偉大な指導者に国の全ての人間が心酔し服従するという統治体制は幾らも存在した!僕が支柱となり国を一つにまとめ上げればイルシャ王国は更なる繁栄を謳歌できるに違いないんだよ!!そうだろう!!?」
「……そうですね」
その時シャリーヤは悟った。
どうやら自分の仕える主はリアリストの皮を被った真性のロマンチストらしいという事に…。


「はあぁ〜…」
王都衛士隊第三中隊のシャフィーク・アブラハムは大きな溜め息を吐いていた。
「どうした?憂鬱そうな顔して」
先輩のアブ・シルが尋ねる。

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