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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 176

「…はい、申し訳ありません。小隊長殿」
「ふむ…ま、仕方の無い事かも知れんな。ここは俺が前に居た北方鎮台に比べりゃあ呆れ返るほど平和だ。今や王都すら戦場になったと言うのに…」
「確かにそうですね…(あいつら今頃どうしてるかなぁ…?)」
パサンは王都に居るセイルやアリーの事を少し思い出した。
「その顔だと、大方王都にいる友達が気になるようだな」
セイルとアリーのことを気にしているとサラームに指摘されパサンは素直に答える。
「はい、多分あいつらの事だから大丈夫だとは思うんですが…やっぱり気になるんですよ」
「それだけ大事な親友たちなのだな。顔に書いてあるぞ」
「親友なんて、大げさですよ。せいぜいダチですよ」
照れ笑いしながらパサンは誤魔化すとサラームは今回のクーデターが解決できたことを安堵する。
「今回王都で起きたクーデター事件が早期に終結して本当に良かった。下手をすれば大規模な内戦に発展してたかもしれないからな」
「俺が王都の騎士学校で学んでた時は平和その物だったんですから、今回の事件は少しショックでしたよ…」
「…ま、今回の一連のゴタゴタを経て国の実権を握ったヤヴズ・ジェムが、皆が安心して暮らせる社会を築いてくれる事を期待するしか無いな」
「いやぁ…あいつはそんな善人とは思えません」
「ほほう…そう言えばお前はヤヴズ・ジェムとは騎士学校で同期だったな。どんな人物だった?ヤヴズ・ジェムは…」
「う〜ん…あれは人を欺き、支配し、利用する事しか考えていない…不誠実の塊のような人間でした。でも安定した社会を築くと思いますよ。自分の権威を脅かされないためにね。それに自分に従順な人間なら保護すると思います」
「なるほどな…そいつぁあんまり長続きしないかも知れんな…」


…さて、セイルとアリーを自分に従わせる事に成功したジェムは、自らの権威を確固たる物とすべく、着々と事を進めていた。
彼は他州で解職された騎士や無頼漢などを大量に雇い、鍛え上げ、自らの意のままに動く独自の軍隊を作り上げたのである。
“白衛隊”と称する彼らは、純白のターバンに同じく純白の軍衣、その他の装備品も全て純白で統一されていた。
だが当然ながらその構成員から素行は悪く、我が物顔で街を闊歩して人々に恐れられた。
彼らの主な任務は不穏分子の摘発…平たく言えばジェムやヤヴズ家の統治に賛同しない者達を探し出し、捕らえ、そして罰する事であった。
また士族以下の王都の全市民に対して“四人組”なる互助会への加入を強要した。
その名の示す通り概ね四つの家族から成り、互助会とは名ばかり…その実は市民同士を相互に監視させるためのシステムであり、またジェムの打ち出す政策を市民の末端に至るまで滞り無く確実に実施させるための協力組織であった。
さらに市民達に密告を奨励し、寄せられた情報が反体制派の逮捕に繋がった場合、情報提供者に多額の恩賞を与えた。
反体制との疑いを掛けられた者は白衛隊の拷問に掛けられ、そして必ず自白した。
処刑は王宮前広場で公開で行われた。
それは一般民衆に“逆らうとこうなるぞ”と見せしめる意味合いも込められていた。
中には恩賞に目が眩んだ不届き者に嘘の告発をされ、拷問に耐えきれずに嘘の自白をしてしまった無実の者もかなりの数いたが、それらは支配者であるジェムの力を市民達に見せ付けるためのセレモニーの生贄として哀れ断頭台の露と消えた。

…陰鬱とした重苦しい閉塞感のような物が王都全体を覆いつつあった。
人々は苛立ち、街のあちこちでは些細な事で喧嘩が起こるようになり、治安は悪化した。
「何だか嫌だなぁ…こういうギスギスした空気は…」
ある晩、セイルは窓辺に佇み、外を眺めながら呟いた。
傍に居たアルトリアも同意する。
「私も同感です。今の王都をルーナ様がご覧になったら何と仰るか…」
「僕の生まれ育った街がジェムのせいですっかり変わってしまった…。そりゃあ以前だって色々と問題はあったよ…。でも、みんなが生き生きとして暮らしていたあの街が僕は好きだった…」
遠い目をして既に過去形で語っているセイルにアルトリアは言う。
「あの男は正にこの国に巣くう癌です。セイル様、国家の病巣を取り除くのは聖剣の勇者の務めではありませんが、今のあなたにならばそれも出来るのではありませんか?」
「僕に何が出来るって言うんだ…。まさかジェムを暗殺しろってんじゃないだろう?」

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