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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 175

卑屈気味なセイルをアリーは嗜めるとエルティアの行動を非難する。
「おいおい、卑屈になるなよ。君だって立派に活躍してるよ。エルティアの活躍は所詮は博打だ。失敗すれば元も子もない。それに僕は彼を英雄視するのは間違ってると思うよ」
「ゼノン帝国の圧制に立ち上がったエルティアは間違ってると思えないよ」
「私も悪いのはゼノン帝国だと思います。」
エルティアのやり方を間違いだと言うアリーにセイルとアイーシャは可笑しいと反論する。
「確かに悪いのはゼノン帝国だ。でも、彼のやってる事は反乱だ。彼みたいな秩序の枠に収まらない男を英雄視するのは乱世を招きかねない。人間というのはルールを守ってこそだと僕は思う」
こう言うアリーにセイルは反論した。
「…でも、そうやってみんなが空気を読んでルールを守ってきた結果が、今の腐敗堕落したイルシャ王国なんじゃないかな。あのジェムのように力で強引に物事を自分の思い通りに進めようとする人間や影で悪事を働く悪人ばかりが幅を効かせて、立場の弱い人間は泣くばかりだ」
「弱者という立場に甘んじて不条理を受け入れ、戦おうともしない人間は虐げられても仕方無いという気もするがな…」
「アリー、それは多少なりとも力に対抗する手段を持っている人間の理屈だよ。今この世界には理不尽に虐げられていながら、それに対抗する手段も無く苦しんでいる人々が沢山いる…。だいたい君だって、かつては民衆の自由と平等のために立ち上がったじゃないか。組織や国や社会全体がおかしくなった時、それを正す人間は必要だと僕は思うよ。だから民衆の自由と平等のために戦うエルティアは、やっぱり僕にとっては憧れの英雄なんだ…」
「そうかぁ…」
瞳を輝かせて語るセイルをアリーは眩しそうに見つめた。
彼は幾多の困難に遭ってなお純心を失わないこの友人に“かつての自分”を見出していたのかも知れない。



さて、所変わって…ここはイルシャ王国最大の港湾都市イスカンダリア。
「へえぇ〜!こいつぁ凄え…」
パサンは港の船着場に積み上げられた麻袋の山、山、山を前に驚嘆していた。
中身は全て穀物…これらは全て西大陸行きの船に積み込まれる。
パサン達はその監督として出動させられたのだ。

ジェムによって食糧長官に任命されたオルハンの指示により、まず手始めに王家の穀倉に貯蔵されていた穀物の三分の一が売却された。
穀物を購入した王都の商人達は更に高い値でイスカンダリアの商人達に売却し、イスカンダリアの商人達は更に更に高い値で西大陸の商人達に売却した。
もしオルハンに商才があれば王都の商人ではなく西大陸の商人と直接交渉して莫大な利益を上げた所だろうが、彼は元々事務方の役人…自分の出世には熱心だが商魂の方はそれ程たくましくなかった。
それでもオルハンが上げた利益は一時的にせよ国庫に潤いを取り戻させる額であり、これにはジェムも大満足であった。

結果的に大量の穀物(主食)がイルシャ国外へと流出して行く事となる。
このイスカンダリア港からも連日、穀物を満載した船が西大陸へ向けて出て行った。

「くぅぉらあぁ〜っ!!!フェラーハ・パサン!!我々は奴隷達がサボらないように見張る役目なのだぞ!!貴様がサボってどうする!?きちんと監督せんかあぁ〜!!」
中隊長のハディードが真っ赤になって怒鳴りつける。
貴族という家柄だけで若くして今の地位に就き、部下達からはナメられている(しかもその事を非常に気にしており、部下達に対して必要以上に高圧的に振る舞い、それがまたナメられる要因となってしまっているという)どうしようもない上官である。
「ハァ…(面倒くせえなぁ…家柄だけが取り柄のボンボンが…妙に張り切りやがって…)はいはい、すいませんでしたぁ〜」
「お…おいぃ!!今お前ため息ついただろ!!俺の事バカにしただろ〜!!お前らどうせ腹の中では俺の事、家柄だけが取り柄のボンボンが…とか思ってんだろ〜!!」
「いや、そんな事ありませんって…」
「嘘だっ!!嘘だぁ〜っ!!!う〜そ〜だぁ〜っ!!!!」
「……」
パサンが困っている(呆れている)と、小隊長のサラームが来てハディードに言った。
「中隊長殿、この中隊にはあなたをナメている者など一人もおりませんよ。さぁ、奴隷達に指示を与えてください」
「うぅ…わ…解ったよぉ……オイ!!貴様らぁ!!ボヤボヤするな!!キリキリ働けえぇい!!」
「「「は…はぁ〜いっ!!」」」
ハディードの一喝で奴隷達は休めていた手を再び動かし始める。
このサラームはかつて北方鎮台軍で蛮族討伐戦で功績を挙げ、イスカンダリア駐留軍に栄転して来たバリバリの現場叩き上げの老騎士であり、面倒見も良く部下達からも尊敬されており、上官のハディードも彼には頭が上がらないのだった。
…とはいえ当のサラーム自身は“どんなアホでも上官は敬うべき”という考えの持ち主であり、中隊でハディードに対してナメた態度を取らないほぼ唯一の人間である。
「…パサン、お前俺が以前言った事覚えてるか?」
部下が上官をナメて始めたら軍は組織として機能しなくなる…ゆえに部下は上官に服従せねばらないし、上官は部下の命に責任を持たねばならない…。

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