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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 173

セイルがまごついているとオルハンの方から口を開いた。
「ハァ…無理するなセイル…そんな“父親との別れを惜しむ健気な息子”の演技なんて…お前だって内心じゃあ俺の事を軽蔑しているんだろう?」
「そ…そんな事!…いや、解らない…しているのかも知れない…」
「……」
自問自答し始めるセイルをオルハンは黙って見ている。
やがてセイルは自分の気持ちにケリを付けたのか、言った。
「…でも、一言だけ言いたかったんです…それが偽善だと言うのならそれでも構いません…でも、父様、どうかお幸せに…」
「……ああ、お前も幸せになれよ。ま、俺が居ない方が幸せか…お前らは…」
オルハンは自虐的にそう言って続けた。
「…食うには困らせん。毎月、仕送りをする。俺だってお前らに対してそれぐらいの情はあるつもりだ…」
それから取って付けたように言う。
「…それに、世間体も悪いしな…」
セイルは意地になって言い返した。
「と…父様こそ、無理しないでくださいよ…。そっちの生活もあるんでしょう?僕にも一応、稼ぎはあります。母様と使用人達の食い扶持(ぶち)ぐらいは…何とか…」
「セイル…世の中をナメるな。お前ごときの薄給で家計を支えられるなんて思うなよ。お前は何だかんだ言って今まで親に護られて生きてきた…本当の貧困を知らないガキなんだよ。まぁ、そういう苦労だけはさせないように育てて来たつもりだからな。だからお前は本当の意味での金の有り難みが解っていない。人がくれるって言う物は有り難く受け取っておけ。もちろん、そいつに“裏”が無い事が前提だが…」
「そうですね…お金に関しては否定するつもりはありません…でも“裏”のある人間に恩を着せられる事の愚かしさなら既に嫌と言うほど思い知らされてます…」
「…そうか…それはお前が今なぜか支えてもらわないと歩けない事と関係しているのかな…いや、邪推が過ぎたか…」
「…………ご想像にお任せします…」
「そうか・・・余計な事を言ったな」
今セイルが知られたくない事を言ってしまったオルハンはバツの悪い顔ですまないと謝り。
そして、オルハンは言う。
「でも、お前なら今の苦境を乗り越えると俺は信じてるぞ」
「父様・・・・」
自分を信じてると言うオルハンにセイルは目頭が熱くなる。
父オルハンが自分に優しい声をかけてくれたのが初めてだからである。
泣きそうなセイルをオルハンは励ます。
「こらこら男が泣くな。もうすぐ兄なるんだぞ」
「すいません、父様。でも、兄って…ひょっとして、今暮らしている女性が父様の子を宿してるんですか?」
自分を気遣い励ますオルハンにセイルは嬉しかったが、兄になるといわれ思わずオルハンにたずねる。
少しバツの悪そうな顔になるオルハンはセイルに今一緒に生活している愛人が自分の子を宿してるのを話す。
「ああ、その通りだ。生まれてくる子には罪はないからなこの事は親父とヤスミーンには黙ってくれ」
普通はショックな事であるが、オルハンにも他者を思いやる心がありセイルは嬉しく父の幸せを祝福する。
「解りました。父様、その人と幸せになってください」
「今更だけどお前とはもう少し向き合うべきだったな…ありがとうよ」
「父様、今生の別れみたいな事を言わないで下さい」
「すまん、すまん。まあ、互いに王宮で勤めだ。近い内に酒でも奢ってやる。親父とヤスミーンには内緒でな」
「楽しみにしてます。父様」
「こうやってお前とじっくり話すのは初めてかもな…少し話し込んでしまったな。じゃあ、セイル元気でな」
そう言うとオルハンは静かに去って行く。
父の姿が見えなくなるまで悲しい顔をしたセイルはその場を離れなかった。


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