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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 172

「その財政再建策とやらも国庫の食料を商人に高く売りつけるだけの博打じゃないか!もし、飢饉になれば大変だぞ。そんな事も解らんのか!」
「訳が解らないのは父さんですよ。ここ数年豊作だったんですよ。食料が高騰してるのは西大陸の盟主ゼノン帝国が北のドラゴニア連邦へ報復戦争を仕掛けるから食料品の相場が上がってるんですよ」
自分の財政再建策を博打と酷評するウマルにオルハンは食料品の相場が動いたのは西大陸で大きな戦争が起きる事を話す。
しかし、ウマルは反論する。
「それも原因の一つだ。しかし、夏前なのにこの寒さは冷夏の前触れで飢饉になるかもしれん!それなのにお前は国庫の大事な食料を売るとは国祖ルーナ陛下の訓戒を忘れたのか!」
「ハッ!500年も昔に死んだ人間の言葉を頑なに守り続けている方がどうかと思いますがね?…ええ、確かに父さんの言う通り“不作”は起きるかも知れないでしょう。だが“飢饉”にはならない!万が一不作になった場合には商人達から食料を買い戻せば良いだけの話です!」
「買い戻す!?ずいぶん簡単に言うのう。よもや商人達が買値と同じ値段で売ってくれると思っておるのではあるまいな!?」
オルハンはキレた。
「あぁ〜っ!!しつこいなぁ!何なんですかあなたは!?起きるかどうかも判らない不作に神経を尖らせて…物事には多少の冒険は必要なんです!リスクを恐れていては何も出来ませんよ!」
「その言葉はリスクを背負わない者が口にする資格は無い!もし飢饉が起きれば真っ先に餓えるのは貴族や我ら士族ではない!平民以下の者達…特に地方の農民達じゃ!」
憤るウマルにオルハンは平然と言ってのけた。
「…なら良いじゃないですか。被害が我々士族階級にまで及ぶのであれば躊躇もしますが…百姓風情が多少餓死した所で…かえって人口調節になって良い」
「な…何という事を……オルハン!!この大馬鹿者があぁぁっ!!!!」
次の瞬間、ウマルはオルハンを思いっきり殴り飛ばした。
「グハァ…ッ!!?」
一発だけではない。
ウマルは床に倒れ込んだオルハンに馬乗りになり、何度も何度も殴りまくりながら怒鳴りつけた。
「この馬鹿者めが!馬鹿者めが!貴様、いつからそんな非情な男になった!?イルシャの騎士は上を敬い良く勤め、下を恵みて侮らず!ワシは民をそんな風に言うような男に貴様を育てた覚えは無いぞ!」
「くっ…こ…こっちだってぇ!あんたに育てられた覚えなど…無いぃ!!」
殴られながら言い返すオルハン。
彼の顔はもうボコボコで歯も何本か折れ鼻血も噴出していた。
そこへ…
「お…お義父様ぁっ!!もう止めてください…っ!!」
そう叫んでウマルの背中を羽交い締めにしたのは、意外にもヤスミーンであった(もっとも非力な彼女では老いてなお壮健なウマルを腕力で止める事など不可能なのだが…)。
「ヤ…ヤスミーンさん…」
嫁に止められ、ウマルはようやく我に返った。
「……」
一方、ボコボコにされボロ雑巾のようになったオルハンは、ぐったりと力無く床に横たわっている。
「出て行ってください…」
そんなオルハンにヤスミーンは決して強い口調ではなく…しかしハッキリと告げた。
「…私達の家から出て行ってください。こうなった以上、それがお互いの幸せのためだと思います。もしあなたが離婚を望むなら応じます。ですから、今すぐ出て行ってください」
「……あぁ…さよならだ……」
オルハンはそう一言だけ言うとヨタヨタと体を起こして立ち上がり、フラフラと覚束無い足取りで去って行った…。
「……」
「……」
何も言わずにその背中を見送るヤスミーンとウマル。
かけるべき言葉など思い付かなかったし、この状況で何を言った所で、もはや白々しい意外の何者でもなかった。
だがセイルだけはそうは思わなかった。
彼は二人ほど大人ではなかったし、このまま家族が崩壊するなんて寂しすぎた。
「あ…あの…お祖父様、母様…僕は…」
「セイルや…あの馬鹿に何か言いたい事があるなら追え。止めはせんよ…」
「…そうね…今はセイルちゃんが一番しがらみに捕らわれずにあの人と話せるでしょうからね…」
「…はい!」
セイルは返事をしてアルトリアとミレルの顔を見て言った。
「二人とも、悪いけど支えてくれないかい…」
二人は小さく笑って言う。
「解りましたよ…」
「私達の事は空気とでも思ってください」
オルハンの後を追おうとしたセイルにウマルは声を掛けた。
「セイル!」
「何ですか?お祖父様」
「…いや、今聞く事じゃないかも知れんが、お前どうして両側から支えられとるんじゃ?」
ヤスミーンも言う。
「それ私も気になってたわ。ほんと、今聞く事じゃないかも知れないけど…」
「……………………心配いりません。ぎっくり腰です」
そう言うとセイルはアルトリアとミレルと共にオルハンを追い掛けた。


「父様!」
「……セイルか…何の用だ…?」
セイルがオルハンに追い付いたのは、家を出て少し行った所だった。
「あ…あの…その…」
セイルは困った。
用なんて無い。
ただ、このまま訣別する事になるなんて哀しすぎる。
その想いだけで追って来た。
いくら酷い男とはいえ、オルハンはセイルにとってはたった一人の父親だった。

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