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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 169


このヤヴズ・ジェムという男には(本性はさておき表面上は)天性の愛嬌とでも言うべき物がある。
そのうえ容姿も(憎たらしいくらい)良い。
(これは女子に受けが良い訳だ…)
そう思いながらセイルは聖剣を外してシャリーヤに手渡した。
「では私はこれで…」
シャリーヤが退室するとジェムは杯を二つ出して酒を注いだ。
その一つをセイルに差し出す。
「さあ、遠慮せずに飲んでくれたまえ」
「いただきます」
セイルが杯を受け取ると、ジェムはもう一つの杯を掲げて言った。
「僕達の再会と、イルシャ王国の更なる繁栄に…乾杯」
「ヤヴズ・ジェム閣下に乾杯」
我ながらもう少し気の利いた言い回しが出来ない物だろうか…しかしまさか午前中から飲む事になるとは…そんな事を思いながらセイルは杯をあおった。
「……強っ!?」
そんなセイルを見てジェムは笑って、そして昔を懐かしむように言った。
「…それにしても君とこうして酒を飲み交わす日が来るなんて、騎士学校時代は夢にも思わなかったよ」
「僕も同じです。あの頃の僕にとって、閣下は遥か遠い存在でしたから…」
「そうか……」
それからジェムは少し黙って、そして不意に言った。
「…卒業試験の時の事を覚えているかい?」
「…?」
「やはり覚えていないようだね。君は僕に対してこう言ったんだよ。『お前はどこまで腐ってるんだ?』とね…」
「…そ…そう言われてみれば、そんな事を言ったかも知れません…」
「そう、そのうえ君は僕を足蹴にした…」
(ま…まさか!根に持ってるのか…!?)
「セイル君…僕はね…誰かに罵声を浴びせられたり…ましてや足で蹴られたりした事なんて…今までの人生の中で一度も無かったんだよ…一度もね…」
「あ…あの…その…お気を悪くされたのでしたら謝ります…すいません…ほんと…あの時は熱くなってまして…」
セイルは全身から嫌な汗が吹き出し、カタカタと小刻みに震え始めた。
そんなセイルにジェムは言った。
「なぜ君が謝るんだい?」
「…はい?」
「あの時、僕は騙し討ちやスパイという、ルール違反ではないにせよ不誠実な行いをしていた。君の怒りは正しい」
「…そ…それは…まあ…………っ!?」
その時、セイルの視界がグラリと揺らいだ。
全身から力が抜け、彼は杯を取り落とした。

カラアァ〜ンッ…

(しまった!!毒を盛られた…!)
セイルはへなへなとその場にへたり込む。
こんな時に限ってアルトリアは居ない。
剣を預かったのはそういう意図だったのか…。
それに急に吹き出した汗と小刻みな震えは焦りのせいだけではなかったようだ。
セイルはジェムを睨み付けて、辛うじて動く口で尋ねた。
「さ…最初から、僕を殺すつもりだったのか…?」
ところが、ジェムの答えは意外な物だった。
「殺す?僕が君を?おぉ!とんでもない!」
「…じゃあ、いたぶって楽しむ気か…」
「おやおや、心外だねぇ〜。僕が人の苦しむ姿を見て喜ぶ人間だとでも…?」
「……」
思う。
はっきり言って、思う。
ジェムは話し始めた。
「セイル君、僕は“あんな事”をされたぐらいでは君を殺しはしないよ。それどころか…あぁ…セイル君、僕は嬉しかったんだよ。君に罵られて、足蹴にされて…」
「……」
「訳が解らないという顔をしているね。…僕は両親を知らない。祖父はいたが、ほとんど見向きもされなかった。幼い僕の周囲に居たのは、僕を下へも置かず丁寧に扱う召使い達だけ…。騎士学校の級友や教官達も僕がヤヴズ家の人間だという事で、こちらの顔色を伺うばかり…。だから僕に本気で、本音で当たってきた人間はセイル君、君が初めてだったんだよ…」
「……」
この時、セイルはヤヴズ・ジェムという男の孤独を知ったのだった。
「あの時の事を思い出すと僕は今でも胸がドキドキするんだ…そう、あの時から僕はずっとずっと君に恋い焦がれていたんだ…」
そう言いながらジェムは脱力して動けなくなったセイルの服を脱がし始めた。
「…何を…!?」
「何も恐れる事は無いよ…同性同士の愛欲は高度な人間だけが抱く優れた感情だ。種の保存という生物の本能…自然界の理を超越した…まさに究極の愛の形だ…そうは思わないかい?セイル君…」
ジェムははだけられたセイルの胸板に頬ずりし、乳首にキスした。
「あぁ…素敵だよ…セイル君…」
「や…やめろ…!あんた…狂ってる…!」
「そんな事はない…僕はただ寂しいだけなんだ…誰かに強く叩かれた事も…叱られた事も…愛された事も無い…僕は孤独なんだよ…この世界に誰一人として心を許せる人間なんていない…味方なんて一人もいない…そんな闇の中にいた僕の前に現れたのが、君という光だったんだよ…」
(…違う…あなたはただ可哀想な自分に酔っているだけの痛々しい人間…あなたがヤヴズ・ジェムであるという事以外は、あなたが無意識の内にでも望んで来た結果に過ぎない…)
だが、セイルはその言葉を言葉として発する事が出来なかった。

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