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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 166

「ふむ…そういう物なのか」
「その通りでございます!それに…」
…と、オルハンは声を潜めて言った。
「…近ごろ小麦など穀類を始めとする食料品全般の値が上がっております。ですので売るならば早めにした方がよろしいかと…値崩れしてから泣いても遅うございますからな」
「確かに貴様の言う通りだ…しかし何故いま食料が値上がりしている?」
「私めの長年の経験と勘から申し上げまして、恐らく原因は西方大陸諸国の動向かと思われます。西の大国ゼノンが隣国ドラゴニア連邦に攻め込むという噂が流れております。ゼノン帝国は先年ドラゴニアに敗れたがために“西大陸の盟主”の名に傷が付きました。その復権のためにドラゴニアへ報復戦争を仕掛けるとの事でございます」
「なるほど…戦となれば大量の兵糧が必要、それで食料品の相場が動いたか…納得がいった。それにしても西方の野蛮人共が殺し合い、血を流し、我々は儲けさせて貰う…何とも愉快な構図ではないか。そうは思わんかオルハン?ハッハッハッハッハッ!!」
「その通りにございます閣下!ワハハハハハ!!」
しかし実はこの時、オルハンはとんでもない読み違いをしていたのであった…。



オルハンが帰って行った後、二人の会話を聞いていたシャリーヤがジェムに話し掛ける。
「これで財政問題は解決しそうですね」
「ああ、金が出来れば色々な事が可能になる。軍備の強化、そして宮殿の修繕…いや、待てよ?よくよく考えてみれば、わざわざ古い宮殿を直す必要など無いな。新しい宮殿を建てれば良い…いや、いっそ新しい都を作ってしまえば良いんだ!この僕が作る新しい時代に相応しい新都をね!」
「それはつまり、遷都…でございますか?」
「そうだ!このイルシャ・マディーナは古すぎる!これから生まれ変わる新しいイルシャの都としては相応しくない。そうは思わないかい?シャリーヤ」
「ジェム様の仰る通りでございます」
「うんうん…」
満足げに頷くジェム…しかし次の瞬間には一転してその表情を曇らせて呟く。
「国の中枢は既に制した…が、地方にはまだまだ僕に従わない勢力が依然として存在している…」
「イシュマエル家ですか」
「まぁ、それもそうだが他にも気になる者がいる…」
「…?」
首を傾げるシャリーヤにジェムは言った。
「シャリーヤ、アル・ディーンという男を覚えているかい?」
「アル・ディーン…はい、覚えています。騎士学校の卒業試験で優勝した白チームを率いていた男ですね。ジェム様は彼が気になるのですか?」
「ああ、あれは本当に何を考えているのか解らない男だからな…」

卒業試験の旗取り合戦の際、最初から最後まで不動を貫き通し、結果的に他のチームが潰し合ったために優勝してしまった。
その姿勢は、単に動くタイミングを図りかねていただけとも、はたまた全てを見通していたがためとも取れ、ジェムは未だにアル・ディーンという人物を量りかねていた。
ちなみにアル・ディーンは今、年老いた父に代わって太守として領地を治めている。
彼の領地はイルシャ王国最南端…“南蛮”と呼ばれる異民族の領域と境界を接しており、国防を理由にジェムの要請には応じなかった。
それもまたジェムを悩ませる種だったのである。

「…あの男だけは完全に未知数だ。ことによるとサーラやセイルよりも強大な敵となるやも知れん。シャリーヤ、彼の動向には要注意だ」
「はい…(ジェム様の考え過ぎのような気もするけれど、いずれにせよ注意しておくに越した事は無さそうね…)」

ジェムとシャリーヤがそんな話をしている頃…


愛人ウズマの家に戻ったオルハンは、彼女に王宮での遣り取りと今後の事を話していた。
「…という訳で、俺はヤヴズ・ジェムに取り立てられる事になったんだ…」
「まぁ!凄いじゃないの♪おめでとう。…でもあなた、何だかあんまり嬉しそうじゃないわね…?」
「まあな…これで俺の生存が家族に知れる。もうここに隠れている事も出来なくなる。俺はあの家に帰らなきゃならなくなるんだ…」
「…そうね……」
ウズマは少し考えて、そして口を開いた。
「…ねえ、あなた…奥さんと別れて私と一緒にならない?」
「な…何を言うんだ!?」
突然の申し出にオルハンは驚く。
「そ…そりゃあ俺だってお前の事は愛してるさ!でも離婚するとなると色々と難しいんだ。世間体だって悪いし…それに俺も社会的な立場という物が…」
「あのね…!」
オルハンの言葉を遮ってウズマは言った。
「な…何だ?」
「変な事言うようだけど…私、最近ちょっと太ったと思わない?特にお腹の辺りが集中的に…」
「はぁ!?お前なぁ、何を訳の解らん事を言って……」
「……」
「……ま…まさか、ウズマ…お前…!」
それに対してウズマは黙って頷き、そして言った。
「…この間、お医者様に診て貰ったの…自分でも良く判らなかったから、あなたには内緒で…そしたら、3ヶ月だって…」
「…ウズマ!ウズマぁ!!あぁ〜!!でかした!でかしたぞぉ〜!ウズマぁ〜!!」
ウズマの妊娠を知ったオルハンは驚喜して彼女に抱き付き、キスの嵐を浴びせる。
ウズマも涙ぐみながら応えた。
「あなた、私とこの子と三人で暮らしましょう…ね?あなた今まで頑張って来たもの…もう肩の荷を降ろしちゃっても良いと思うの…」
「うん…うん…」
クルアーン・オルハン…心に劣等感を抱き続け、家族を上手く愛せず、仕事と出世だけが生き甲斐だった男…彼は今、ようやく本当の自分の居場所を見付けようとしていた…。

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