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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 165

「ならば武力で脅して無理にでも吐き出させては…?」
「そんな事をすれば王都の経済衰退に繋がりかねない」
「…八方塞がりですね」
「あぁ…まったく!厄介な政敵なら葬ってしまえばそれで良いが、財政難という物はどうしようも無い!せっかく天下を取っても金が無ければ何も出来ないじゃないか!金、金、金だ!何でも良いから金を捻出する手立ては無いのか!?」
ジェムは机に突っ伏してヒステリックに頭をかきむしった。
いかな彼とて、この問題ばかりはどうしようも無かった…。


ジェムが資金繰りに悩んでいるという噂は宮廷中に広まっていった。
この話を聞いたセイルの父、クルアーン・オルハンは閃いた。
「これはヤヴズ・ジェムに取り入る千載一遇のチャンスだ!!」
権力者に取り入る方法は何も多額の賄賂を贈る事だけではない。
もともと近衛隊の兵站(食料・生活必需品)を管理する立場にあった彼は、そこから妙案を思い付いたのだった。
彼はさっそくジェムの元へと赴いた。

「ジェム様、クルアーン・オルハンと名乗る武官がお目通り願いたいと言って来ております」
「なに?クルアーン・オルハン?…というと、あのクルアーン・セイルの縁者か何かか?」
「彼はクルアーン・セイルの父親です」
「ほほう…」
ジェムは興味深げに目を細めた。
「…で、その彼が一体この僕に何の用だと…?」
「はい、現在王家が直面している財政難を解決する妙案があると言っています」
「あぁ、そうか…」
セイルの父親が来たという事で、何かセイルに関する事なのかと思っていたジェムは少し拍子抜けした。
「いかがいたしましょう?追い返しますか?」
「…いや、話ぐらいは聞こう。ここへ通してくれ」
「かしこまりました…」

そしてオルハンがジェムの前に姿を現した。
「おぉ〜!偉大なる大執政閣下様ぁ!あなた様の麗しき御尊顔を拝し奉る御栄誉を賜りました事、このクルアーン・オルハン、恐悦至極に存じ上げまする〜!」
入室するなり床にはいつくばり、全身全霊でへりくだり媚びるオルハン。
そんな彼の態度にジェムも思わず呆気に取られてしまう。
(…何だコイツは?この厚かましい程の媚びへつらい…これが本当にあのクルアーン・セイルの父親なのか?まるで性格が違うではないか…)
呆れながらもジェムは言った。
「…クルアーン・オルハンとやら、財政難打開の策があるそうだな。聞かせてもらおう」
「ははあ〜!!!」

…オルハンの案は至極単純ながら今まで誰も思い至らなかった…いや、考えはしたものの誰も実行に移せなかった事であった。
王家の穀物庫に蓄えられている麦や米を売って金に替える…それだけの事だ。
イルシャ王国では王家も諸侯も、いざという時(不作)に備え、常に向こう三年分の穀物を備蓄している。
国祖イルシャ・ルーナ女王の訓戒「三年の蓄えが無ければ国家とは呼べない」を今でも守り続けているからである。
しかし、この意表を突いたオルハンの財政難打開策をジェムは気に入る。
王家が蓄えた物を金に換えればヤヴズ家はリスクを背負うこともない。
それに万が一トラブルが起きても責任はオルハンに負わせれば済むからである。
「ほう、確かに面白い策だ」
「閣下!それでは採用して下さるのですね」
ジェムが自分の策を採用すると確信するオルハンであったが、ジェムは笑顔で言う。
「うむ!ただ、これは重臣たちと話し合う必要があるから。しばしまて!」
「ははぁっ!畏まりました」
恭しく頭を下げてるオルハンにジェムはにやりとしたり顔になる。
最初自分と出会うなり気味が悪いほど徹底的に媚びるオルハンの態度にドン引きしたが、
冷静に考えるとオルハンは権力に弱く卑屈な男とジェムは見抜き。
彼を使ってセイルをけん制しようと考える。
(この男はセイルの父親かと思うほど卑屈でいやらしい男で最初はドン引きしたが、、セイルの行動を監視させたり抑えるのに使えるかもしれない)
そのためにもオルハンを近くに置いておいた方が何かと便利だと考えたジェムは、彼に破格の待遇を与える事にした。
「クルアーン・オルハン、貴様を食料管理の最高責任者にしてやる。好きにやってみるが良い。…ただし損を出した時は命が無いと思えよ?」
「ははあ〜!かしこまりましてございます大執政閣下!」
…そう、ジェムはオルハンを側近の一人に取り立てたのである。
結果的にオルハンは予想を遥かに超えた大出世を果たした事となった(結果が伴えばの話だが…)。

…とはいえジェムも馬鹿ではない。
食料の備蓄を売ってしまって“万が一”の事態が起きた時の事が頭をよぎる。
「…しかしオルハンよ、貴様の策は言わば“最後の手段”…食料を売って金を作ったは良いが、それで運悪く凶作にでもなった場合はどうするのだ?」
「閣下ぁ〜!現代は国祖イルシャ・ルーナ様の時代とは違うのでございますよ?経済の基本は“金”でございます!金さえあれば食料など好きなだけ買えます。つまり、凶作になったら買い戻せば良いだけの話でございますよ」

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