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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 161


「な…何だあれは…?」
その異常な光景に偶然出くわしたのは廊下の向こうから来たイシュマエル・ドルフと側近のアフサンであった。
「坊ちゃま、あれは前々宰相の大宰相ヤヴズ・セムですぞ。本来であれば我らがイシュマエル本家のアクバル様が承るはずだった宰相位を陛下の許可無く息子のワムに勝手にやった不忠の輩でございます。それが、まあ…あのような哀れな醜態…まったく良い気味でございますな!」
「……」
ドルフは黙ってセムに歩み寄り、その肩に手を置いて言った。
「しっかりなさい、セム殿」
「…あぁ…あんたは誰じゃ…?」
「俺はナハルシャット太守のイシュマエル・ドルフです。まぁ、今は実質ジェムの臣下みたいなもんだが…。あなた達の話を聞くつもりは無かったが聞いてしまった。バムとブムを助けたいんだね?」
「あ…ああ…しかしジェムは聞いてはくれなかった…」
「ならばジェムより上の人間に頼むまでだ」
「あれより上の…?」
「国王陛下だ!」

…ドルフは国王が死んだ事を知らない。
もちろんセムもだ。
今やジェムの側近の一人であり、ある意味で最も頼りにされていながら“国王の死”という共有すべき機密を知らされていないという扱いからジェムのドルフに対する信用度を伺い知る事が出来る。

とにもかくにもドルフはセムを連れて国王の寝室へと向かった。
(そんなやつ放っておけば良いのに…坊ちゃまは本当にお人良しなんだから…)
小声でブツブツ言うアフサンに、同じく小声で応えるドルフ。
(あのジェムの態度を見たろう?仮にも孫が祖父に対して…あまりに酷すぎる。あいつには人間らしい情という物が全く無いのかも知れん…。それにセムへの同情だけじゃあない。俺自身、国王に会いたいんだ。おかしいと思わないか?いつも面会謝絶だ。陛下の容態が悪化してもう何週目になる?)
(まさか、陛下は既に死んでいる…なんて言うんじゃないでしょうね?)
(…解らんぞ。何事もこの目で確かめてみるまではな…)

国王の寝室の前は幾人もの兵士が警備に当たっていた。
ドルフがナハルシャットから連れて来た兵達ではない。
彼らは元々王宮の警護に当たっていた近衛隊の生き残りだ。
この最も重要な場所に限ってジェムは彼らを警備に付けていた。
ドルフは思う。
(フン…俺や他の諸侯の兵隊じゃあ信用出来ねえって事か…ジェムのやつ、確実に何か隠してやがるな…)

ドルフ、セム、アフサンの三人が寝室に近付こうとすると兵士達が槍を交差させて行く手を塞いだ。
「お引き取りください。これより先、許可の無い者は誰一人通すなとの国王陛下のご命令でございます」
「国王陛下の命令だと?ヤヴズ・ジェム閣下の…の間違いじゃないのか?」
ドルフは槍を掴み兵士を睨み付けて言う。
「と…とにかくここはお通し出来ません!お引き取りを…!」
「俺はナハルシャット太守イシュマエル・ドルフ、こちらは元宰相ヤヴズ・セム殿だ」
「どなたであろうとお通しする事は出来ません!」
「…ならば力ずくだ!」
…と言うが早いかドルフは槍の柄を掴んだ手に力を込めた。
 バキイィッ!!
途端に槍は真っ二つに折れた。
「ひいぃっ!!?」
「オイ嘘だろう!?樫の木だぞ!?」
驚き怯える兵士達を余所にドルフは腰に下げていた剣をスラリと抜き放ち、ニヤリと笑って言った。
「…あくまでここを通さないというのなら、次はお前達の首を同じようにへし折ってやる。フフン…面白え、近衛隊ってのは腕に覚えのあるヤツの集まりなんだろう?こいつぁ楽しめそうだなぁ…」
「「「……っ!!!」」」
兵士達はドルフに向けて槍を構える。
だがその実はすっかり萎縮しきっており、誰一人として立ち向かう気力が無かった。
「待てえぇぃっ!!!」
その時、突如として大声で割って入ったのはセムであった。
「元イルシャ王国宰相ヤヴズ・セムの名において命じる!双方とも刃を収めよ!」
「わ…解りましたぁ…!」
「フン…仕方ねえ…」
両者とも武器を収めた。
アフサンはつぶやく。
(さっきまで何も出来ない子供のようにオイオイ泣いていたクセに…まったく調子の良い爺ですな)
(…ま、おかげで無駄な血を見ずに済んだがな)
「さあ!参ろうではないか!」
いつの間にかセムが先頭に立ち、その後にドルフとアフサンが続くという構図になっていた。
セムは勇んで寝室の観音開きの両扉を勢い良く開け放った。

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