PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 158
 160
の最後へ

剣の主 160



一方でバム、ブム、そしてジェムの祖父である元宰相ヤヴズ・セムは、バムとブムの助命をジェムに請いに久し振りに王宮へと足を運んだ。
ジェムは“大執政”なる地位に暫定的に就任してからずっと王宮内に寝泊まりしていたからだ。
気分はもうすっかり“宮廷人”である。
「やあ、お祖父様。いかがなさいました?」
「ジェムや、お前はバムとブムを殺す気かね?」
「ふむ…その件ですか。まぁ、彼らに対してはいずれ“適当な処置”を取る事となりましょう」
「い…いかん!!いかんぞジェム!!バムとブムを殺してはならん!!あれらはワシにとってはお前と同様、目の中に入れても痛くない可愛い可愛い孫達じゃ!!お前にとっても従兄弟ではないか!!解るかジェム!?同じヤヴズ家の一族同士が殺し合う事など、断じてあってはならんのじゃ!!」
「ハァ…」
何を言い出すかと思えば…とジェムは溜め息を吐いて言った。
「…お祖父様、彼らは国王陛下に対して弓を引いた叛徒です。それを身内だからという理由で許したら世間はどう見ますか?…かつて宮廷を舞台に権勢を欲しいままにし、一時代を築いた大宰相とまで呼ばれたお方のお言葉とはとても思えませんね…」
「た…確かに、ワシはワシの前に立ちはだかる者達や、または将来的に立ちはだかる可能性のある者達を容赦なく排除して来た…し…しかし、それらは全て他人じゃ!バムとブムは同族ではないか!?しかもあれらが立ち上がったのは父ワムの仇討ちのため!世間!?そんな物は力でいくらでも黙らせられる!!ジェム!!バムとブムを釈放しろ!!今すぐに!!」
将来的に立ちはだかる可能性のある者達…サーラの母も、ミレルの母シャハーンも、彼はそう見なして亡き者にしたのだ。
第13王妃として後宮入りした娘ジャミーラがファード王子を産むまで、彼は第1王妃シェヘラザードに肩入れしてアルシャッド王太子を担ぎ上げていたので、アルシャッドの次期王位を脅かす者は(例えそれが僅かな可能性であったとしても)全て例外なく排除した。
…確かに、彼は冷酷で、そして残酷であった。
しかし、争いの火種を芽も出ぬ内に摘み取っていった事によって、結果的に(争いが宮廷外にまで拡大する事を防ぎ)イルシャ王国の平和が保たれていた事だけは確かであった。
「お祖父様、それならば僕はあなたと全く同じ事をしている事になりますよ。あの双子は将来的に僕の前に立ちはだかる可能性がある…だから排除するのですよ。なに、排除の対象者が他人か身内かというだけの事ですよ。大した違いではありません」
「それは大きな違いじゃ!!だいたいお前は一体何を言っておる!!?なぜバムとブムがお前の敵なのじゃ!!?」
「あなたが悪いんですよ。お祖父様…」
ジェムはセムを睨んで言った。
「あなたが次期宰相の地位を僕に譲ってくれなかったから…僕だって本当は“あんな事”したくなかったのに…」
「どういう事じゃ?ジェム…お前の言っておる事は良く解らん……」
「……」
「……ま…まさか…っ!!!」
セムはついに恐ろしい真実に思い至った。
「ジェム!!ワムが国王暗殺の首謀者だと告発したのはお前なのか!!?ジェム!!!」
「…だから、あなたが悪いのですよ、お祖父様…あなたが宰相の地位とヤヴズ家の家督を叔父上に譲ったりするから…フッ…あなたのせいで僕は肉親を殺す羽目になってしまったじゃないですか…まあ良いです…結果的に順当に宰相になっていた場合よりも早く国の全権を掌握できましたからね…」
「あ…あぁぁ…ジェ…ジェム…お前は一体何という恐ろしい罪を犯したのじゃ!!?自分が何をしたか解っておるのか!!?」
「恐ろしい罪?何度も言いますが僕はあなたと同じ事をしただけですよ?両親を知らない僕にとっては、あなたが最も身近な大人だったものでね…あなたの背を見て育ち、あなたと同じ事をした…ただ殺した相手が、ちょっと親戚だったというだけの事…それはあなたにとっては大問題かも知れないでしょうが、僕にとっては些末な事です。他人はいくら殺しても良いのに親戚を殺したら“恐ろしい罪”だなんて…それでは筋が通りませんよね、お祖父様」
「…あぁ…あ…こ…こんな…こんな事が…この世に…あって良いのか…あ…悪夢じゃ…これは…悪夢じあぁ…おぉぉ…おぉぉ…」
まさかの身内の裏切りに絶望に打ちひしがれたセムはその場に泣きくずれた。
元を辿れば自らが撒いた種とはいえ、その姿は哀れであった。

(ハァ…かつての大宰相が今やこの様か…老いたな…月日とは何よりも残酷な物だ…)
目の前で泣き伏せるセムをジェムはまるで他人のように客観的に見下ろしていた。
いや、彼にとっては肉親と他人は同列であった。
血縁は閨閥を形成する上での一要素…程度にしか考えていなかったのである。
「お話はそれで終わりですか?僕は忙しいので、これで失礼させていただきますよ」
ジェムは淡々とそう言うと、踵を返して去ろうとした。
「ま…待ってくれぇ!!!」
セムはジェムの足にすがりついて泣きながら訴えた。
「お願いじゃあぁ!!ジェム!バムとブムを助けてくれえぇ!!後生じゃあぁ!!お慈悲じゃあぁ!!!お慈悲じゃあぁ!!!!」
「お祖父様、僕は無慈悲です。どうかその手をお放しください…放して…放せ!!」
ジェムはセムの手を振り解き、スタスタと歩き去った。
「うああぁぁぁ〜っ!!!!ま…待ってくれえぇ!!行かないでくれえぇ!!あぁぁ〜!!!誰かぁ〜!!誰か助けてくれえぇ!!死んでしまうよおぉ!!バムとブムがあぁ…ワシの可愛い孫達が死んでしまうよおぉぉ!!!」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す