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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 158

その狂態を前に半ば呆気に取られながらアリーは思う。
(…何だコイツ?怒りの余り気でも狂ったのか…?)
二人のやり取りを見ていたバムとブムは小声で話し合っていた。
(あぁ〜…アリーのやつ、ジェムを本気にさせちまったんだな…)
(あいつはジェムの執念深さを知らねえからなぁ……)
一方、ジェムは笑い疲れたのか…
「ハァ…ハァ…あぁー…後日また来る」
…と言って去って行った。

「アリー!お前なんでわざわざジェムを挑発するような事を言うんだな!?」
「そうなんだな!死にたいのかな!?」
食事を終え、獄卒が食器を下げて去って行った後、双子はアリーを問い詰めた。
「死にたいのか…だって?…まぁ、そうなのかもな…僕は生きていても利用されるだけだ。家族も迷惑だろうし…このまま死んだ方が幸せかも知れない…」
「ハァ…馬鹿なやつなんだな。せっかく生き延びる道が用意されてるのに死を望むとはな…」
「まぁ…ジェムが死なせてくれないだろうがな…」
「その通りなんだな。ヤツは狙いを付けた物は絶対に手に入れる…どんな手を使ってもな」
しきりにジェムの執念深さを強調して来る双子にアリーは少し辟易…といった様子で言った。
「…そう言えば前にもそんな事を言っていたな……ジェムが偏執狂か何か知らんが…僕は自分の意志を曲げる気は無い…例え命を落とす事になろうと…絶対にだ…」

…だが、その翌日の事であった。
食事時間でもない時間帯に獄卒が現れ、アリーに告げた。
「ザッバーフ・アリー、出ろ」
「…何だ?…ジェムが会うのか?…それとも死刑か?」
「お前に面会人だ」
「め…面会…!?」
家族だろうか…とアリーは思った。
彼には兄夫妻とその子供達がいるのだ。
だが一週間近くも何も口にしていないアリーは自力で立ち上がる事すら出来ず、二人の獄卒に左右から支えられるようにして牢から引きずり出された。

「…っ!」
地上に出たアリーは、ほぼ一週間ぶりの太陽の光に、眩しくて目もまともに開けていられなかった。
しかし獄卒達は構わずアリーを引っ張って行く。
良くは見えないが、宮殿の中を進んでいるという事だけは判った。

どうにか目が光に慣れた頃、アリーは面会人の待つ一室に辿り着いた。
「あぁ…っ!!!」
そこに居たのはアリーが予想だにしていなかった人物であった。
「アリーさん!!」
「ア…アイーシャさん!?」
アイーシャ…そう、アリーの王立学士院での学友であり想い人…彼女と今は亡き内務大臣のドラ息子ムスタファ・ザダームとの婚礼が決まった事が、アリーにクーデターを決意させる一因ともなった…あのアイーシャである。
「アリーさん!アリーさんなのね!あぁ…夢じゃないのね!」
アイーシャはアリーに駆け寄り、彼に抱き付いて泣きじゃくった。
「ア…アイーシャさん…」
アリーは戸惑っていた。
「アイーシャさん…あなたは僕のために泣いてくれるのですか?…僕はあなたの将来を奪った男なんですよ?…あのムスタファ・ザダームに嫁いでいれば…少なくとも金銭の面では決して不自由する事の無い人生が約束されていたはずだ…そしていずれは“大臣夫人”と呼ばれる身分になっていたでしょう…それを僕が…」
「いいえ…私は権力や財産なんて要りませんでした…。あなたが生きてさえいてくれれば…それだけで私は良かった…」
「アイーシャさん…」
「アリーさん、ヤヴズ・ジェム閣下が教えてくださいました。あなた、死ぬつもりなんですってね…あなたが犯した恐ろしい罪を償うために…」
アリーは内心『余計な事を言いやがって…』とジェムを恨みながらも、こうなったらアイーシャには嘘偽り無く本心を伝える事にした。
「その通りです…僕は…この命を以て罪を償うつもりです…それに…生きていたらジェムに利用されて…また罪を重ねる事になる…そんなのは御免だ…」
「嫌!アリーさん…死なないでください!死んでは駄目…あなたが死んだら私も後を追って命を絶ちます!」
「そ…そんな…アイーシャさん…お願いです…僕を困らせないでください…」
「嫌です!あなたがいない世界でなんて…生きている意味ありません!」
「えぇ〜…」
そこまで言われると嬉しさを通り越して困る。
そこへ、少しイラついたような表情をした獄卒が割って入って来て言った。
「そこまで。面会時間終了だ。ザッバーフ・アリーを牢へ戻す」
「そんな…待ってください!」
だが、アイーシャの訴え虚しく、獄卒達はアリーを引き連れて行く。
「アリーさん!!嫌!!嫌ぁーっ!!!」
泣き叫ぶアイーシャにアリーは声を振り絞って伝えた。
「アイーシャさん!どうか僕の事は忘れてください!誰か素敵な男性と結ばれて幸せになってください!それが僕の願いです!」
そしてアリーは再び地下牢へと放り込まれたのだった。
一度目の時より心なしか扱いが乱暴に感じられたのは気のせいではあるまい…。

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