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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 157

バムとブムは話し合う。
「アリーのやつ、大丈夫かなぁ…?」
「水すら与えられないなんて…まさに飢えと渇きの地獄なんだな」
双子はアリーを哀れに思い、最初の1、2日ほどは密かに食事を残して与えていたのだが、これが獄卒にバレてしまい、以後、食事の間中監視が付くようになってしまった。
今や天井から時たま滴り落ちて来る水滴だけがアリーが口にする事を許された唯一の物であった。

 カツ…コツ…カツ…コツ…

獄卒の足音が聞こえて来る。
一日二回の食事だ。
「ヤヴズ・バム、ヤヴズ・ブム、飯だ」
そう言って獄卒は双子の牢の前に食事の入った食器を置いていく。
「あ…ああ…」
「いただくんだな…」
双子は格子の隙間から食器を牢の中に引き入れる。
「…ザッバーフ・アリー、飯だ」
獄卒はアリーの牢の前にも食器を置くが、その中には何も入っていない。
「飯だ」の声と共に置かれる食器の音に反応し、ぐったりとしたアリーの死んだような目に一瞬だけ期待めいた光が宿るが、中に何も入っていないのを見て再び絶望に沈むのだった。
バムとブムはそれを見て食いながら獄卒に聞こえないよう小声で話し合う。
「もぐもぐ…(チクショウめ…食事を与えない事が決まっていながらワザと毎日からっぽの食器を並べるなんて…えげつねえやり方なんだな)」
「むぐむぐ…(ああ…ありゃあ間違いなくジェムの指示だな。解っていても、つい期待してしまう…そして裏切られる…毎日毎日それが繰り返される…ただでさえ飢えと渇きの地獄に加えて、このイヤらしい精神攻撃…見てるだけで気がおかしくなっちまいそうなんだな)」
ジェムのエグイやり方に怒りを感じるバムとブムはアリーに食事を少しでも与えることができないで、なるべく音を立てたりアリーに見せないように配慮して食べていた。
「むぐむぐ…(おいバム!なるべく音を立てたり飯をアリーに見せては駄目なんだな)」
「もぐもぐ…(解ってるんだな!そんな事をしたらアリーは発狂死するんだな)」
隣の牢屋でアリーと一週間近く接する内にバムとブムはアリーに対して奇妙な友情が芽生えていた。

一方、飢えと渇きで意識が朦朧としているアリーはこれは自分への罰だと責めていた。
自分をなじり責める事で彼は飢えと渇きを耐えていた。
「うぅ…苦しい…喉が渇く…ひもじい。で…でも、これは…僕が犯した…罪の罰だ…耐えろ耐えるんだアリー」
そして、苦しみの果てにアリーはふっと昔を思い出し、悲痛に叫ぶ。
「騎士学校に…いた頃は…サーラさん…セイル…パサン…ア…アルトリアさんが…いて…馬鹿やったり…して楽しか…った…なのに…なのに…僕はどこで…道を違えたんだ…帰りたい…あの頃に帰りたい!」
それは心からの切なる…しかし決して叶う事の無い願いだった。
アリーの痛切な叫びにバムやブムは言葉も無く、ジェムの命令により彼にこの仕打ちを与えている獄卒すらも思わず目を潤ませる…。

その時、新たな足音が近付いて来た。
そいつはアリーの牢の前で立ち止まり、アリーを見下ろして言った。
「フフン…だいぶ堪えているようだねぇ、アリー君…」
「…ジェム…か…まだ…一週間は…経ってないぞ…」
ジェムはニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべて続ける。
「そうだね。しかしひょっとしたら君の気持ちが変わったんじゃないかと思って、ちょっと様子見に来てみたのさ…で、どうだい?この僕のために働く気になってくれたかな?ん?もしこの問いに対してイエスと答えれば、君には最高級の待遇と温かい食事が待っているよ」
「……」
アリーは少し黙り、そして言った。
「お断りだ…あんたのような…愚物の下で…また…人殺しに…携わるぐらいなら…このまま…餓死するか…今すぐ…処刑された方が…よっぽどマシだ…」
「……何だと…?」
その言葉を聞いた途端、ジェムの顔から笑いが消えた。
「貴様……いま俺の事を何と言った…?」
一人称が“俺”になっているがアリーは怯む事無く答える。
「“愚物”だ…人を従わせるために…こんな卑劣な手段を用いる事しか出来ない…そんな人間を“愚物”と呼んで何が悪い?…これでも学生時代はあんたを大したヤツだと思ってた…一目おいていた…本当だよ…でも…今になって見てみたら…あんたはまるでワガママなガキだ…思い通りにならない物は全て力で何とか出来る…でなきゃ排除してしまえば良いと思ってる…そんな考えで国を治められると思ったら大間違いだ…例え一時的には上手くいったとしても…いずれ必ず破綻をきたす…あんた、人間は金・力・恐怖のいずれかを使えば服従させられると思ってるだろう?…どっこい…人間はあんたが思っているほど単純じゃあない…あんたが思い通りに動かせるのは…せいぜい世間知らずの学生ぐらいのもんさ…」
「…ハ…ハハ…アハハ!!アハ!アハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
ジェムは突然、壊れたように笑い出した。

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