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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 156

そう言うと彼は手鏡をミレルに差し出した。
「…しかしお前が国王陛下の血を引いている事は事実じゃ。じゃから陛下は死の間際にこの鏡をお前に託したのじゃろう…」
「これを…王様が私に…?」
ミレルは鏡を手に取って見た。
すると途端に鏡が淡い光を放ち始め、それが収まると鏡の中に一人の美しい女性の顔が映っていた。
「これは…っ!?」
驚くミレルにウマルは説明する。
「慌てる事は無い。その鏡は映像を留めておく事が出来る魔法の鏡じゃ。そのお方こそお前のお母上、シャハーン様じゃ…」
鏡の中の女性…シャハーンは優しく微笑みかけ、話し始めた。
『こんにちは、ミレル。私の名はシャハーン…。貴女がこれを見ているという事は、私はもうこの世にはいないという事になるわね…』
「お母…さん…?」
ミレルの瞳から、ひと滴の涙がこぼれ落ちる。
ウマルは静かにセイルとアルトリアに言った。
「さぁ、ワシラは席を外すとしよう…。しばらくミレルを一人にしてやろうじゃないか…」
「そうですね、お祖父様…」
「……」
三人はそっと部屋を出た…。

「でもビックリだよ!まさかミレルが王様の子だったなんて…本来ならお姫様じゃないか!」
「…セイル様、この件についてはあまり軽々しく口にするものではありませんよ。どこで誰が聞き耳を立てているか分かったものではありませんからね。せっかく今日まで真実を秘してきた王やウマル殿の苦労が無駄になってしまいます」
「そ…そうだったね!気を付けなくちゃ…」
「ハハハ…構わんよ。今さらミレルが陛下の娘だと判った所で、王妃様もヤヴズ・セムもミレルを殺そうとしたりはせんじゃろう。今や情勢がすっかり変わってしまったからのう…。まぁ、だからこそワシもミレルに事実を話しても良いと思ったんじゃがのう」
「あの…父様と母様は、この事は…?」
ウマルは首を横に振って言った。
「知らんよ…この事を知っとるのは、ワシと今は亡き乳母の二人だけじゃ…」
「そうですか…」
身内にすら話せない事だったんだな…とセイルは思った。
もっともオルハンやヤスミーンに話したら、ついうっかりポロッと喋ってしまいそうだ。
あまり信用できない気持ちも解るセイルであった。
アルトリアは言う。
「しかしウマル殿も良く今日まで秘密を守り通してこられましたね。敬服しますよ。…実は私、あの手鏡をお預かりしている間にあれが魔法の鏡だと気付いて、シャハーン殿がミレル殿に宛てたメッセージを見てしまいましてね…」
「な…何じゃと!?アルトリアさん、あのメッセージを見たのかね!?あれはミレルが鏡に触れて初めて作動するように仕掛けられておったハズじゃぞ!?」
「あの程度の仕掛け、私には簡単でした。申し訳ありません。ミレル殿より先に見てしまった事に関しては、お詫びいたします…」
「アルトリア!そんな事してたのかい?駄目じゃないかぁ…ミレルのお母上がミレルに宛てて残したメッセージを盗み見るような真似…」
「あぁ…まあ構わんよ。あれはのう、シャハーン様が出産前に未来の我が子へ向けて残されたメッセージじゃ。あのお方はご自分がお命を狙われておる事を悟っておられたからのう…」
「そうだったんですね。でもミレルのやつ、ショック大きいだろうなぁ…。てゆうか僕、明日からどんな顔してミレルに接したら良いのか解んないよ…」
それを聞いたミレルは言う。
「…いや、別に今までと同じように接してくれれば良いですよ。私もそうするつもりですから…」
「うわあぁぁっ!!?ミ…ミレルさん!!いつの間に後ろにぃっ!?」
「今です」
仰天して飛び上がるセイルに、ミレルは割と平然と言った。
「…こう言ったら薄情に聞こえるかも知れませんが、もともと育ての母の記憶すら曖昧でした。そこへあのお方が実は産みの母だったんだと言われても…正直あまりピンと来なくて…私にとっては大旦那様は今まで通り大旦那様ですし、セイル坊ちゃまもセイル坊ちゃまです。ヤスミーン奥様も、旦那様も…。それは私の出自がどうあろうと変わりません。私はこれからも“クルアーン家の召使い・ミレル”として生きていくつもりです」
「ミレルや…今まで黙っていて済まなかったのう…この通りじゃ!」
そう言うとウマルはミレルに向かって頭を下げた。
「お…大旦那様!やめてください!私の事ならどうかお気になさらないでください!」
「いや、お前が良くともワシの気が済まんのじゃよ。ワシは騎士としての責務を優先する余り、お前に…」
「大旦那様、私は今まで自分が不幸だと思った事はありませんし、真実を知った今でもそれは変わりません。それはあなたがご自分の孫であるセイル坊ちゃまと私を対等に扱い、育ててくれたからです。私は嬉しいですよ。ですからこれからも私の事は今まで通り、召使いのミレルとして接していただけますか?」
「うむ…うむ…ありがとう、ミレル…本当にありがとう…」
ウマルの瞳には光る物があった。
彼はようやく肩の荷を下ろす事が出来たのである…。



さて、それから数日…。
アリーが地下牢に閉じ込められてから、そろそろ一週間が経とうかという時であった。
「うぅ…」
アリーは冷たい石の床に、ぐったりと横たわっている。
何と彼はこの一週間近く、食べ物をいっさい与えられていなかった。

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