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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 151

彼が家族を上手く愛せない原因…その根本を辿ればウマルに行き着くのかも知れなかった。
オルハンとウマルはもしかしたらとても良く似ているのかも知れない…。

…が、ここでクルアーン家の家庭内事情を考察する事は、この物語を先に進めるにあたって些かの役にも立たないので早々に切り上げ、舞台は再び王宮へと移る…。



…自らの従弟ファード王子を国王として擁立すべく、最大の障壁となるアルシャッド王太子を王宮から事実上追放したジェムは、今は政権の基盤を安定させるべく動いていた。
オルハンのように立身出世の野心を抱く宮臣達は“既にこの国の新しい支配者はジェムである”と見越して勝ち馬に乗ろうとジェムに摺り寄り始め、宮廷内の“ジェム派閥”は短期間の内に急速に拡大していった。
だが大部分の官吏達はボスが誰でも良かった。
自分達の暮らしを保証してくれさえすれば…。
その人物が好ましかろうと好ましからざろうと、彼が「右向け右!」と言えば右を向き「左向け左!」と言えば左を向く…それがこの国の役人であり、支配する側もそれを求めていたし、それゆえイルシャ王朝は500年という永きに渡って脈々と続いてきたのだった。
これは各州の太守達に関しても同様であり、彼らもまた概ねは自分の領地の統治を脅かされない限り、国王の人柄如何に関わらず王家への忠誠は変わる事は無かった…。


その日、ジェムの元へ一人の異邦人の客が訪ねて来た。
西方大陸はゼノン帝国から来た武器商人、フランシスコ・カストールである。
クーデター騒ぎの裏で糸を引いていたジェムの協力者であった彼は、この日、その報酬を受け取りに来たのだった。
「ほら、約束の金だ」
「有り難く頂戴いたします」
カストールはジェムから金貨のギッシリ入った袋を受け取り、頭を下げた。
「少し上乗せしておいた。お前の残りの一生呑み暮らせる額だ」
「それはそれは…ですが、それも悪くありませんが、まだまだ引退する気はありませんよ。では、私はこれで…」
「ああ、元気でな…」
「ジェム閣下も…。ご縁があったらまたお会いしましょう」
カストールはジェムに別れを告げると中庭の茂みの中へと消えて行った。
一人になったジェムはつぶやく。
「フッ…彼はビジネスパートナーとしてはなかなか良かったな…」

それから僅か五分ほど後、カストールが消えた茂みの中から、今度はシャリーヤが現れた。
左手には先程ジェムがカストールに渡したはずの金貨の袋…そして右手には血に濡れた短剣が握られていた。
「ご命令通り、片付けました」
シャリーヤは顔色一つ変えずにそう言った。
ジェムも頷いて答える。
「ご苦労…その金は特別報酬だ。取っておきたまえ」
「はい、ありがとうございます」
「フッ…あの男がゼノン帝国の間者(スパイ)である事には気付いていた…」
そう、武器商人カストールのもう一つの顔は、西大陸の約半分を支配する大国ゼノン帝国の命を受けて密かにイルシャ王国に潜入していたスパイだったのであった。
「…おそらくゼノン帝国は我が国を混乱させる気だったのだろう。狙いは東西大陸間交易の利権の独占か…もしくは我が国に軍事介入するつもりだったのだろうが、甘い甘い…」
「ジェム様、その事で少し気になった事が…」
「ん…何だ?」
「あのゼノン人、こんな物を持っていました」
言いながらシャリーヤは懐から紙束を取り出してジェムに差し出す。
ジェムはそれを受け取ってパラパラと目を通していた…が、見る見る内に険しい表情になり、ついには声を荒げた。
「こ…これは我が国の地勢や各州・各都市の人口や防備に関する記録ではないか!?要塞の図面まである!なぜこんな機密書類をヤツが持っていたんだ!?」
「女官達の中に、バム殿とブム殿がカストールに何やら文書のような物を渡していたのを見た…という者が何人かおります。おそらく請われるままに大した考えも無しに渡してしまったのでしょう」
「あ…あの馬鹿兄弟がぁ…!!」
「しかもどうやらそれは“写し”のようです。原本は既にゼノン帝国に渡ったものと思われます」
「…という事は我が国は丸裸という訳か!クソッ!今はまだ外国と事を構えている場合ではないというのに…!」
このままではせっかくアルシャッドを追放してまで手に入れた自分の天下が脅かされるは必定…ジェムの行く先も前途多難であった。
しかし、ジェムはゼノン帝国の内情を思い出して、イルシャ王国に介入してくるのはないと高を括るが、
ジェムは見栄を張って誤魔化してるだけにもみえた。
「ふん…まあ良い!どうせ、あの国に我が国を攻め滅ぼす余裕なんてない!何せゼノン帝国は最近隣国に敗れ権威と国力を大いに損ねてるからな!」
「それでは、イスカンダリアの総督マリクシャーに防備を強化しろと命じておきます」
「うん、それが妥当な策だ。しかし、ゼノン帝国は忌々しい。今だ分不相応にも皇帝を名乗ってるからな!あの称号は我が国にこそ相応しい。シャリーヤ、そう思うだろう!」

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