PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 14
 16
の最後へ

剣の主 16

「へへっ…でもどうせ落第に決まってますよ。さぁ、あんなの放っといて行きましょ行きましょ…」
二人は去って行った。

「チクショウ…あいつら…!」
「お…おい、よせ…!」
ドルフとタルテバに突っかかって行こうとするパサンを押し止めるアリー。
この場にいるギャラリー達も大半はセイルに同情的なため、皆、口さがない事を言うドルフとタルテバの背に軽蔑の眼差しを向けるが、表立って抗議する者はもちろん誰もいないのであった。

しかし、当のセイルとアルトリアは既にそんな中傷には耳を貸さない。
それどころかセイルは特訓に励めば励むほど、恐るべき勢いで上達していく自分を自覚していた。
(…確かにアルトリアの言った通りだ。僕は今まで“人を傷付けたくない”…言い換えれば“自分が傷付きたくない”という想いから、無意識の内に作った殻の中に自らを閉じこめていたんだ…)
その“殻”を打ち破る勇気をくれたのがアルトリアだったという訳だ。
もはや上限など無い。
心なしか剣技自体も上達して来たような気さえするセイルであった。


そして試験前日。
「はぁ…っ!!」
「あ…っ!」

 カランカラ〜ン…

セイルは初めてアルトリアの木剣を弾き飛ばした。
もう既に日は暮れており、辺りにはギャラリーも残っていない。
「…お見事ですセイル様!ついに私から一本取る事が出来ましたね!これならば明日の試験もきっと合格に間違いありません!」
やや興奮気味にまくし立てるアルトリアにセイルは苦笑して言った。
「ふふ…やっぱりアルトリアは優しいなぁ…わざとだろ?今の…」
「うっ……解りましたか…」
「うん…でもワザと負けてくれたってのが解るくらいには僕も上達したって事なのかな…」
「上達したも何も…一週間前に比べれば飛躍的な進歩です。剣である私が言うのだから間違いありません」
「ははは…それは嬉しいな。伝説の聖剣のお墨付きって訳だ…」
そこまで言うとセイルは、ふと真顔に戻ってつぶやいた。
「…大丈夫かな…明日の試験…」
「大丈夫です。この一週間、あなたは確実に強くなった…。心配する事などありません。明日は今までの特訓で行って来た事を、ただ同じようにやれば良い…それだけです」
「君はいつも簡単に言うよね…その言葉通り簡単にいけば苦労は無いんだけど…」
そう言うとセイルはアルトリアの前に手を差し出して見せた。
その手は小刻みに震えている。
彼は半ば自嘲的に言った。
「…もう今からこんななんだよ?」
「…確かに、はっきり言ってセイル様は筋金入りの小心者ですね。こればかりは一週間かそこらの特訓でどうにかなる物ではありません」
「ほ…本当にはっきり言うなぁ…自分で言うのと人に言われるのとじゃ重みが…」
「しかしそれこそお気になさいますな。小心結構!…ここだけの話、戦場では小心者の方が生存率が高いのです」
「そ…そうなの!?」
「はい、実はそうなのです。ふふ…ルーナ様にこの話をして差し上げた時もそのように驚かれておられました…」
そう言うとアルトリアは校庭の一角に立つイルシャ・ルーナ女王の石像を見て遠い目をした。
「…あのお方もセイル様と同じく、弱くて優しい人でした…表面上は強がっておられましたがね」
「あのイルシャ・ルーナ女王が…?」
「はい、全然あんな堂々たる感じではありませんでした」
「へぇ…そうなんだぁ…」
セイルは500年も昔に生きた建国の英雄の女性が急に身近に感じられたのだった。


そして翌日の放課後。
「…来たな、クルアーン・セイル…」
「はい!さっそく試験を始めましょう、ダブウ先生!」
「よし、剣武場に行くぞ…」
セイルとダブウは剣武場…現代で言う所の体育館のような建物へと向かった。
ダブウは歩きながら思う。
(クックック…悪いなぁ、クルアーン。貴様に恨みは無いが、ワシは既にイシュマエルから大金を貰っている身…可哀想だが貴様には退学してもらうぞ…)
この男にとっては教え子一人の人生よりも金の方が価値があった。
教育者の風上にも置けない男だが、哀しきかな、彼をそのような愚かしい人間たらしめてしまう程に現在の騎士学校の…いや、イルシャ王国の風紀は弛んでいるのだ。

剣武場には既に大勢のギャラリーが詰め掛けていた。
その中にはサーラ、パサン、アリー、それにドルフとタルテバ…そしてアルトリアの姿があった。
観衆に見守られながら定位置に立ち、互いに向き合うセイルとダブウ。
「…それではこれより追試験を開始する!クルアーン、いつでも打ち込んで来るが良い!」
「…よろしくお願いします!」
二人は木剣を構えた。
「フフン…どうしたクルアーン?早く来んか…ほれ…ほれ…」
イヤらしい笑みを浮かべ、挑発するように剣先をコツン…コツン…と突っついて来るダブウ。
だがセイルはピクリとも動かない。
(どういう事だ?こちらが動くのを待っているのか?…いや、コイツに限ってそれは無いか…という事は既に勝負を諦めたか…なら早く終わらせるとするか…)
こう考えたダブウは剣を構え直し、一気にセイルの間合いに踏み込んで彼の木剣を叩き落とそうとして思い切り打ち込んだ。
「でやあぁ〜っ!!」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す