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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 142

「うぅ…」
国王はかすれる声で何か言おうとしている。
「おぉ!いかがなさいました国王陛下!?もしやご遺言でございますか!?」
ジェムは皆を差し置いて王の枕元に立ち、わざとらしく大声で尋ねて医師に注意された。
「大執政閣下(ジェムの事)、もう少しお静かに願います」
「…皆に…会いたい…」
国王はポツリとつぶやく。
「はあ!?良く聞こえませんでした!…はっ!!もしや!王位をアルシャッド王太子殿下に代わって第29王子ファード様に譲ると申されたのではありませんか!?そうですね!?」
「ジェム!あ…あなた!いい加減になさい!あなた人として恥ずかしく無いのですか!?」
強引に話を持って行こうとしているジェムをたしなめたのはジャミーラ妃であった。
彼女とて自分の息子を次の王にしたい気持ちはあるが、そのために国王の最期の気持ちを蔑ろにしてまで事を強引に運ぼうとするほど非情ではなかった。
「あ〜い♪」
彼女の腕に抱かれた1歳のファード王子だけは何も解らず楽しげに笑っている。
「も…申し訳ございません。ですがこういう事はハッキリと決めておかないと後々“争い”の元になってはいけないと思いまして…」
ジェムは、この時に際して自分も少し動揺していたようだと気付き、やや声のトーンを下げて言った。
彼は“現王が特に遺言などを残さずに崩御した場合、王太子が王位を継ぐ”という大前提を否定せねばならない。
それには何としても王が生きている内に王の口から『次の王はファード』と言わせなければならないのだ。
「…国を想う心からついつい熱くなってしまいました。お許しください、国王陛下。…しかしながらご覧の通り、今この場に来ているのはこちら…ジャミーラ第13王妃殿下とファード第29王子殿下のお二人だけ!このお二人だけなのですよ陛下!他の王族達が今どこで何をしているかご存知ですか!?皆アルシャッド王太子の所に居るのですよ!あぁ…なんと薄情な方々なのでしょうか!彼ら彼女らは愛する夫なり父親なりの最期に立ち会う事よりも新しい王に媚びを売る事の方が大切なのです!アルシャッドも既に王宮へ戻って来ているにも関わらず瀕死の陛下に挨拶にも来ない!
あんな非情かつ非常識な人間が王になってしまったらこの国はどうなるでしょうか!?国王陛下!どうかご再考ください!アルシャッドなどよりよっぽど王に相応しいお方がここにいらっしゃるはずです!さあ!さあ!さあ!!」
「……」
国王はジェムの話を黙って聞いていたが、やがて静かに口を開いた。
「…アルシャッドに会いたい…会って最期に伝えたい…ジェムよ…アルシャッドを呼んで来てくれないか…?」
「え…!?」
ジェムはギョッとした。
「…どうした?…早くアルシャッドを呼びに行け…王宮内に居るのであろう?…早く…余の息がある内に…」
「あ…いや、しかし…あの…その…呼ぶ…というのは、無理というか…無駄というか…そう!呼んでも無駄です!あの男は本当に薄情なヤツですから!呼んでも来ませんよ!」
「…嘘だな…ジェム…余が気付いていないとでも…?」
「な…っ!!!?」
ジェムは真っ青になった。
王はジェムの言葉が全て嘘だと、とっくの昔に気付いていたのだ。
アルシャッドがいくら親不孝者でも王宮内に居るなら死に際にくらい顔を出すはずではないか。
そもそもアルシャッドがジェムの言うような人間でない事は良く知っている。
もちろん他の王子や王女達も…。
当然だ。
家族なのだから。
「ち…違う!!私は嘘など吐いていない!!」
ジェムは叫んだ。
「アルシャッドは!陛下!あなたの事など何とも思っていない!冷酷非情な人非人なのですよ!?本当です!!」
「…もう黙れ…冷酷非情な人非人はお前ではないか…そこまでして権力が欲しいのか…お前、いま自分がどんな顔をしているか解っているのか?…およそ人間には見えない…醜い…醜い獣の顔だ…」
「……」
この言葉に、さすがのジェムも黙り込んでしまった。
(もう無理だ…全て見抜かれていた…こうなってはもう国王の口から我が従弟ファードを次期国王に指名させるのは不可能…)
国王はつぶやく。
「あぁ…もう目も霞んできた…人生の最期に愛する家族と言葉を交わす事すら許されないなんて…」
国王は心の底からつぶやいた……その時である!
信じられない事が起きた。
 バカァンッ!!!
「父上ぇ!!!アルシャッドです!!アルシャッドが参りましたあぁぁ〜!!」
突如として壁の一部が外れて中からアルシャッドが現れたのだ。
「「「え…ええぇぇぇ〜〜〜っ!!!?」」」
全員が我が目を疑った。
有り得ない。
これは夢か幻か?
王宮内に居るはずの無いアルシャッドがいきなり目の前に出現したのだ。
「お…王太子殿下ぁーっ!!」
真っ先に我に返ったのはジェムだった。
彼は王の寝台に駆け寄ろうとするアルシャッドに駆け寄り、ガシッとその体を取り押さえた。
「な…何をするぅ!?ジェム!離せ!離さんかぁ!!」
「なりません!!国王陛下に近付いてはなりませんぞ!!陛下には絶対安静が求められているのです!!おーい!!衛兵!!殿下を部屋の外へお連れしろぉ!!」
バァンッ!!と乱暴に扉が開かれ、ドカドカと兵士達が乱入して来た。
安静もクソもあったものではない。
アルシャッドはあっと言う間に連れ出された。
「父上ぇ!!父上えぇ〜!!!」
「アルシャッド…!」

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