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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 138

アルトリアが出してくれた灯りを頼りに暗い通路を進んでいく三人。
…と突然、真ん中を歩いていたアルシャッドが悲鳴を上げた。
「ぎゃあぁぁっ!!?」
「ど…どうしたのですか殿下!!?」
慌ててアルシャッドに訪ねるセイル。
「い…今!!何かが!私の肩にぃ…っ!!」
「ま…まさか敵の攻撃!?」
「ひいぃぃっ!!!?殺されるうぅぅっ!!!助けてえぇぇ母上えぇぇ!!!」
「落ち着きなさい!…天井から水の滴が落ちてきただけでしょう」
「あ…そうか…」
「殿下…」
アルトリアの冷静な指摘で二人は落ち着きを取り戻す。
「ハァ…しっかりしてくださいよ。まったく、次代のイルシャ王国を背負って立つ者がこれでは…ルーナ様がご覧になったら何と仰る事か…」
「面目無い…」
シュンとなるアルシャッドにセイルは空気を変えようとして質問した。
「そ…そういえば殿下、王妃様はこの事はご存知なのですか?」
「母上は知らぬよ。何も伝えずに出て来たからね。どうやら母上は母上でお考えがあるようで、何やら水面下で動いておられるようだが、私にはサッパリ…」
「そうなんですか…」
場の空気を良くする筈が余計に悪化してしまいセイルは落ち込んでしまう。
そんなセイルをフォローするかのようにアルシャッドは話しかける。
「とっ所で、君は騎士になって何年だい。見た所、若手なようだけれど?」
「はい、自分は今年の春に騎士学校を卒業したばかりの若輩であります。殿下」
「えっそれじゃあ、サーラと同い年だね。もしかしてサーラと同じクラスだったのかな」
セイルがサーラと同い年と知りアルシャッドは明るい表情になり同じクラスだったのかと訊ねる。
サーラの話題のお陰で、緊張が解れたセイルはサーラは騎士を目指す自分にとって目標である事をアルシャッドに話す。

「はい!サーラさ…いや、サーラ殿下は同級生ながら僕が尊敬し目標としていた剣士でした」
「そうか…騎士学校でのサーラは元気だったかい?」
「はあ…?元気かと言われれば、元気でしたが…」
セイルはアルシャッドの質問の意味が良く解らなかった。
「例えばだよ。どことなく影があるとか、周囲の人間に対して自分から壁を作るとか、そういう事は無かったのかい?」
「とんでもないです!サーラ様は王族という高貴な身分にも関わらず、気さくで、気取らず、人柄も良く、皆から好かれていました」
「本当かい?あの子は笑っていたかい?」
「笑っていたか…ですか?それはまあ、人並みには…」
「そうか…そうだったのか…それは良かった…本当に良かった…」
アルシャッドは感慨深げに何度も頷くと、話し始めた。
「騎士学校に入る前…王宮に居た頃のサーラは、周囲の人間全てを信用せず、心を閉ざしていた。人前で感情を露わにする事など皆無だったよ」
「え…っ!!?」
あのサーラが…セイルはアルシャッドの言葉に耳を疑った。
「僕にはとても信じられません!一体どうして…!?」
「幼い頃はそうではなかった…だがサーラが5歳の時、あの子の母親が毒殺された。あの子の目の前でだ…」
「そんな…っ!!」
セイルは言葉が無かった。
アルトリアが尋ねる。
「…それは王位を巡る争いのためですか?」
「そうだ…」
アルシャッドは頷き、そして絞り出すように言った。
「…あの子の母親を謀殺したのは、当時宮廷で権勢を振るっていたヤヴズ・セム宰相と……私の母上だ」
「…っ!!?」
セイルは絶句する。
彼に比べれば割と冷静に受け止めていたアルトリアは言う。
「…第一王妃シェヘラザード殿ですね。動機は王位継承問題というのは建て前で、本音は嫉妬でしょう。正室が側室を殺す理由なんて、昔から決まっていますからね…」
「その通りだ…サーラの母親は身分は低かったが、当時、父上のご寵愛を一身に受けていたからな…我が母はそれを妬み、セム宰相に命じて彼女を殺害した…」
アルシャッドは悲しそうな表情を浮かべながら続ける。
「それからサーラは変わってしまった…。当然だ。母親を殺されたのだからな。犯人の目星は…恐らくあの子も幼心に薄々感づいていたのだろう。時々セムや母上、そして私に対してゾッとする程冷たい視線で睨み付けて来た事があった…。それ以前の私とサーラは、仲の良い兄妹だったのだがな…。それから、あの子が私に対して笑顔を向けてくれる事は今日に至るまでついに無いままだ…。まったく、王族になんて生まれるもんじゃないなぁ…」
アルシャッドは遠い目をして、しみじみと呟いた。
その言葉は何とも言い難い虚しい響きを帯びていた。
「……」
セイルは何も言わなかった。
いや、言えなかった。
表現する言葉を失ったのだ。
「…済まない。少し話し込んでしまったね。さぁ、先を急ごうか」
「そうですね。セイル様、参りましょう」
「……」
だが、セイルはその場に立ち止まったまま、黙っていた。
「…どうした?今の話を聞いて私に協力するのが嫌になったかい?…いや、それも仕方ないかな。

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