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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 135

「いやなに、構わないよ。君の功績を考慮すれば当然の事だ。それと近い内に辞令が出る事になるだろう」
「辞令…?」
「まだ内定だがね、君は衛士隊から近衛剣士隊に転属になる。栄転だよ。おめでとう。ただし一般隊士とは別枠で、僕の直属だ」
「え!?あ…あなたの、直属ですか…?」
「フッ…そう嫌そうな顔をするな。権限と俸給は中隊長並みを考えている。必要ならば部下も与える。君の年齢を考えれば極めて異例かも知れないが…なに、ごちゃごちゃ言う輩は僕が黙らせてやる。そもそも僕なんて君と同い年で国を動かしてるしね…」
そう言ってジェムはハハハ…と笑って、そして続けた。
「…人はね、自分の実力に見合った地位に就くべきなんだ。年齢は関係無いよ。これは君にとっても悪い話じゃないはずだ。受けてくれるね?それともこれだけの好条件を並べられても僕の下で働くのは嫌かな?」
「そ…そんな事ないです!ただ…僕は…その…今の衛士隊の仕事が好きで…そう!衛士隊に生き甲斐を感じていて…それに偉くなりたいとも思わないし、お金が欲しいとも思わない…だから僕は…その…せっかくの良いお話なんですが…」
セイルはしどろもどろになりながらもやんわりと難色を示そうと試みた。
ジェムは言う。
「なるほど…嘘が下手だな」
「……」
セイルは黙った。
図星だったからだ。
ジェムは肩をすくめて言う。
「やれやれ…どうやら僕は君に嫌われてしまったようだね」
「……すいません…貴族の方々のような鮮やかな受け答えは僕には出来なくて…」
「セイル様、ここはもう包み隠さず本心を伝えた方がよろしいですよ」
アルトリアの言葉にセイルは頷き、ポツリポツリと話し始めた。
「…嫌いという程じゃあないんですけど…ただ、あなたのやり方には僕は付いて行けないと思うんです。あなたは目的のためには手段を選ばない人だ。平気で他人を使い捨てて、踏み台にして、前へ前へと進んで行く人だ。僕はあなたの生き方を否定するつもりはありません。きっと世の中にはそういう人間も必要なんでしょう。でも僕はそんなあなたのやり方を受け入れる事は、どう頑張っても出来ないと思うんです。だから…本当にごめんなさい!」
「……なるほどね。よく解った。もう帰って良いよ。金と屋敷は約束通り君にあげるから安心しなさい。これは今回の働きに対する褒美だからね」
「はい、失礼しました…」
セイルはジェムに一礼して大広間を後にした。
アルトリアも黙って後に続く。

「ハァ……」
二人が立ち去った後、ジェムは溜め息を一つ吐いた。
そして…
「…ああぁぁぁぁっ!!!!」

 ガッシャアァァンッ!!!!

ジェムは突如として大声で絶叫すると供物台を蹴り倒した。
積み上げられた金塊が床にぶちまけられる。
「あいつら一体何様のつもりだぁ!!?この僕に偉そうに意見しやがってぇ!!!今日の所は見逃してやったが今に見ていろぉ!!?二人共いずれ必ずこの僕の物にしてやるからなぁ!!!!」

セイルとアルトリアは中庭に面した回廊を歩いていた。
「アルトリア、僕のした事は物凄く馬鹿な事なんだろうね。父様が聞いたらきっと激怒するだろうなぁ…」
「それは人によりけりでしょう。何に価値を見出すかによって変わります。地位や金銭でしか人を量る事が出来ないオルハン殿ならば確かに馬鹿な事をと怒るでしょうがね…というかセイル様、先程ジェムとの会話中に何か思い出しておられましたが、あれはひょっとしてオルハン殿の事で…?」
「う…うん、まあね…」
セイルはバツ悪そうに答えた。
「父様の事…今の今まですっかり忘れてたよ。たぶん母様もお祖父様もミレルも…今まで一度も父様の事を口にしていない所を見ると…」
「ハァ…家族に存在を忘れられるとは…今回ばかりはオルハン殿の影の薄さに同情ですね。まぁ、私も忘れてましたが…」

そんな話をしていると、ふと声を掛けられた。
「よおセイル!それにアルトリアさんじゃないか!」
「あぁ!!?ド…ドルフ!!?」
そこに居たのは、あのイシュマエル・ドルフであった。
「久しぶりだなぁ…」
「ドルフも…いや、イシュマエル閣下もお元気そうで何よりです」
「ドルフで良い。敬語も必要無い」
「そ…そう?」
ドルフに関してはジェム以上に良い印象の無いセイルであった。
何せこの男のせいで自分は騎士学校を退学させられ人生を狂わされる所だったのだ。
「噂は聞いてるよ。赴任先のナハルシャットでは善政を敷いて領民達からも慕われてるそうだね…」
「まあな。俺もお前の噂を聞いたよ。王都に出没していた連続殺人鬼を捕まえて国王直々にお褒めの言葉をいただいたそうじゃないか。お前はやっぱり凄いヤツだったんだなぁ、セイル…それに比べりゃ俺なんてクソみたいなもんだ」
「……」
ドルフから褒められたのは騎士学校時代を通して初めてだったのでセイルは驚いて二の句が告げなかった。
そもそもこの男が自分を貶めて他人を立てるなんて…明日あたり世界が終わるんじゃないだろうか…。
そんな事を思っていたらドルフが言った。
「…ところでセイルよ。お前は俺に何か言いたい事があるんじゃないのか?」
「は…?」
「俺はお前に対して赦されざる事をした。にも関わらずその罪から逃げた。まぁ、その報いは今きっちり受けさせられている訳だが…。しかしお前個人に対してはまだ何の謝罪も償いもしていない。これは筋が通らないと思ってな…」
「な…なるほど、そういう事ね……まぁ、あの件に関しては確かに良くは思っていないよ…」

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