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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 134

「良くはありません。聞けばヤヴズ家は王家の一族だそうですが、所詮は分家筋の一臣下、分を弁えて貰いたい」
自分をイルシャ王家の一分家と扱うアルトリアにジェムは一瞬ムッとするが、アルトリアの機嫌を損ねてはセイルを自分の手中に収め飼い殺しにする策が御破算になるので怒りを抑える。
「(僕が一臣下だと、このアマ!ふざけるな。だが、彼女を味方にしないと計画は失敗だ我慢、我慢)そうだったね。では、立って話すよ」
そう言うとジェムは立ち上がりセイルたちに近付く。

セイルはアルトリアにジェムに臨む態度が厳しすぎるというが、
「アルトリア、少し言いすぎじゃない」
「セイル様、しっかりして下さい!こういう男には毅然とすべきですよ。そんな卑屈では喰われますよ!そんなんだから、先の戦いの事を引きずってしまうんですよ。それでもあなたは聖剣の勇者なんですか!」
逆にアルトリアはセイルの弱腰を厳しく諌める『聖剣の勇者』かと非難する。
アルトリアの厳しい叱責にセイルは何も言えず黙ってしまう。
「・・・・・・・」
「まあまあ、アルトリアさん。そんなに厳しいとセイルくんは萎縮しちゃうよ〜」
そこへ、いやらしく間に入ってジェムは仲裁しようとするが、ジェムに気付いたアルトリアはこう述べる。

「ときにジェム殿、この国の全てを取り仕切る地位に就いたという事はついに念願だったワジール(宰相)におなりですか。これはこれはおめでとうございます。自らの叔父を謀殺し、従兄弟達に政変を起こさせてまで手に入れた宰相の地位はいかがですか?」
慇懃無礼なアルトリアにジェムは肩をすくめる。
「やれやれ…あなたも相変わらずだ。人聞きの悪い事を言わないでいただきたい。僕はそんな策士ではないよ」
「失礼、しかし城下ではもっぱらの噂ですよ。あなた、自分では巧くやったつもりでしょうが、民衆はちゃんと見ている物です」
ジェムはそれに対しては何も答えず、ゴホンッと咳払いを一つして話題を変えた。
「…一つ言っておこう。僕が就いた地位は宰相ではないよ。宰相にはずっとなりたかったけれど、やっぱりやめたんだよ。せっかく陛下から直々にこの国を任されたんだ。宰相なんてケチくさい事言わずに、もっと大きく出ようと思ってね…アミール・アル=ウマラー(大執政)という官職を新設した。ワジール(宰相)とハージブ(侍従)とライース・アルジャイシュ(大将軍)の権限を全て統括する役職だ。後日、正式に拝命式を行い、就任するつもりだよ」
ワジール(宰相)は文官の長、ライース・アルジャイシュ(大将軍)は武官の長、ハージブ(侍従)はワジールと並ぶ王の補佐役であり、王の部屋の手前で王に謁見する人物を選別する事が出来た。
いずれも絶大な権限を持った官職である。
「大執政ですか…これはまた何とも仰々しく厳めしい…実にあなたらしいです。お似合いですよ」
「…褒め言葉として受け取っておこう」
「褒めついでにいくつか助言をいたしましょう。敵を作りたくなければ身の程はわきまえた方がよろしいですよ。それと月の無い夜には充分ご注意ください」
「助言に感謝するよ。で?言いたい事はそれだけかい?僕が今日呼んだのはアナタではなくセイル君なんでね、そろそろ本題の方に入りたいんだが…」
そう言ってジェムはアルトリアからセイルの方に目を移す。
セイルは二人の会話など全く聞いていなかったようだ。
窓の外をぼんやり眺めたまま、意識はいずこへか行っていたようだが、自分の名前が出た事に気付いてここに戻って来た。
「…あぁ、どうぞ…僕にはお構いなく二人でお喋り続けててください…」
「そういう訳にはいかないよ」
ジェムはパンパンッと手を打った。
召使いが山と積まれた金塊を載せた供物台を持って現れてセイルの前に置く。
ジェムは言った。
「これは僅かだが今回の君の働きに対する報酬だ。受け取ってくれたまえ」
「有り難く頂戴いたします…でも持って帰るにはちょっと重いです…」
「では自宅に届けさせよう。君の家の住所を教えてくれたまえ」
「家は焼けました。今は王都内の安宿に寝泊まりしています。母は祖父宅に身を寄せていて…あ…」
そこでセイルは“ある事”に気付いた。
…というか、思い出した。
「どうしかたかい?」
「…いえ、大した事じゃありません」
「そうか。しかし家が焼けたとは気の毒だな…よし!では君に家を進呈しよう。バムとブムが住んでいた屋敷…旧ヤヴズ・ワム邸だ。もちろん新居を建てたら処分してくれて構わない。どうだい?」
「そ…それは願ってもない事です。有り難く頂戴いたします…」
本来ならば自分の資産となるはずの土地屋敷をポンと進呈するとは何という気前の良さ…もしくはそれだけジェムがセイルを自分の手元に置いておきたいと思う意思の現れなのかも知れなかった。

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