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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 131

一人になったジェムはつぶやく。
「ああいう“不確定要素”は、いつ、どこで、どのように影響を及ぼして来るか解らないからねぇ…手元に置いておかねば…そう、いざという時にはすぐに“取り除ける”ようにね…フフフフ」


セイルたち衛士隊は通常任務に戻るように言われ、今は衛士府跡を拠点に治安活動に当たっていた。
「……」
だがセイルは未だ心ここにあらずといった様子である。
「おい!シャキッとしろ。今回の一番手柄がなにボサッとしてんだい」
そう言いながらアブ・シルが現れてポンとセイルの背中を叩いた。
「せ…先輩は平気なんですか…?」
「ん?何が?」
「…いえ、何でもありません…」
何か言い出そうとして黙ってしまったセイルを見てアブ・シルは言った。
「…セイル君、ちょっと巡回でも行こうか」
「え?…はい…」

セイルとアブ・シルは“巡回”と称してしばらく街をブラついた。
王都内には火災の際の火避け地として公園が多く設けられている。
二人はその内の一つにやって来た。
「ちょっとここで休むか」
「はい…」
並んで腰掛けに座る二人。
少し離れた所では兄妹と思しき幼い子供達が追いかけっこをしており、その母親らしき女性が笑顔で見守っている。
アブ・シルは言った。
「見てみろセイル君、なんと微笑ましい光景じゃないか」
「そう思える事のなんと幸せな事でしょうか…僕にはとても…」
セイルは力無く答える。
「あの子達がああして笑っていられるのも、俺達が命を懸けて戦ったからこそじゃないか。俺はあの場で殺めた命に関しては、そういう風に自分に言い聞かせて納得する事にしたよ」
「僕は…見ず知らずの子供の笑顔なんかどうでもいいです…今の僕にあるのは…恐怖です。僕は自分が恐ろしい…」
「そうかぁ…まぁ俺もはっきり言って驚いてるよ。君ったら何の前触れも無くいきなり鬼神の如き神業を見せてくれるんだもん。その後も一人で大立ち回りだろう?まるで何かに憑依されたかと思ったよ」
「僕もそう思いたいです…」
言ってセイルは頭を抱えた。


二日後、王都を望む高台からその街並みを見下ろしている一行があった。
「イルシャ・マディーナよ…私は戻って来たぞ…!」
それは王太子アルシャッドと第一王妃シェヘラザード、それとお付きの者が数名であった。
今までどこに隠れていたのか…王都奪還の報を聞き舞い戻って来たのであった。
「アルシャッドや、急ぎましょう。聞く所によると国王陛下が傷を負われてご危篤との事よ」
「そ…それは本当ですか母上!?これは感慨に耽っている場合ではありませんね。一刻も早く父上の元へ行かねば!」
「そうよ!急がないと取り返しの付かない事になるかも知れないわ!」
だがこの二人、目的は同じでも動機に決定的な違いがあった。
アルシャッドは息子として父の最期に立ち会いたいという純粋な気持ちなのだが、シェヘラザードの場合はそのもう少し先を見ていた。
それは現王の息がある内に次期国王がアルシャッドであると確約させる事である。
通常、特別に遺言等が無い場合には王太子とされた王子が王位を継承する。
だから順当に行けば次代の王はアルシャッドだ。
だが世の中には“万が一”という事がある。
万が一、アフメト王が死の間際にトチ狂って別の王子もしくは王女を次期国王に指名したりしたら……有り得ない事ではない。
歴史を紐解けば側室の子が正室の子を退けて王位に就いた…という話は良く聞く。
愛しい我が子を国王にするため、シェヘラザードは今まで様々な努力をしてきた。
もちろん表沙汰には出来ない汚い事も…。
それらの最後の仕上げにアフメト王の口から“次期国王はアルシャッド”と言わせなければならない。
また、その言葉が無いと即位後に何かと因縁を付けて来る輩が現れたりするのだ。
新王の治世を順調な滑り出しで始めるためにも王の言葉は必要であった。

ところが、王宮の前まで辿り着いた一行を待ち受けていたのは信じられない衛兵の対応であった。
「私はイルシャ王国国王アフメト4世が嫡男、王太子アルシャッドである。通せ」
「申し訳ありません。お通し出来ません」
「なにぃ!?私の顔を見忘れたか!?まさか偽者だなどと思っているのではあるまいな!?」
「いいえ、王太子殿下をお通し出来ませんと申しているのです。お引き取りください」
「なん…だと…?」
固まるアルシャッドにシェヘラザードが取って代わり衛兵に怒鳴りつける。
「お前なんかと押し問答している暇は無いのよ!さっさとお通し!!モタモタしていたら陛下が死…と…とにかく私達は一刻も早く陛下にお会いしなければならないのよ!!」
「その国王陛下が王太子殿下を王宮に入れるなというご命令なのです。あなた様もです、第一王妃殿下」
「何ですって!!?信じられないわ!一体どういう事なの!?」
そこへ、城壁の上から声がした。
「これはこれは王妃様に王太子様、お久しぶりですねぇ。今までどちらにお隠れになっておられたのですか?」
「「ジェム!!!?」」
ジェムはニヤニヤと笑いながら下の二人を見下ろして言う。
「国王陛下は大層お怒りですよ。国の大事の時に次期国王たる王太子が真っ先に逃げ出すとは何と情け無い事だと…しかも女の衣をまとって王宮を脱出なされたとか…殿下は線が細くていらっしゃいますから、さぞや女装もお似合いだったでしょうなぁ」
「よ…余計なお世話だ!それに女に成りすまして王宮を脱出する事を勧めてくださったのは母上で…私は本当は王宮に残りたかったのだが…その…」

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