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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 130

イルシャ王国国王アフメト4世はまだ辛うじて生きていた。
寝台の上に横たえられた彼は一分一秒を噛み締めるように呼吸していた。
寝台の傍ではジェムの叔母であるジャミーラが椅子に座って王の顔を見つめている。
外の喧騒もここまでは届かず、寝室には静かな時が流れていた…。

そこへバァンッと勢い良く扉が開け放たれてジェムがシャリーヤを従えて現れた。
「お喜びください国王陛下ぁ!!王宮を不法に占拠していた賊徒共は排除されましたぁ!!」
「ジェ…ジェム!?」
「おぉ…これはこれは叔母上、お久しぶりです」
「静かになさい!陛下は今絶対安静が求められているのよ!?」
「これは失礼、しかし今後の事など色々とご相談したいと思いまして…」
「ジェ…ジェム!あなた陛下が今どのようなご容体か解っているの!?」
「…良い…ジャミーラ…構わぬ…」
その時、国王が辛うじて聞き取る事の出来る小声でそう言ったのだった。
それを聞いたジェムは叔母を押し退けて王の枕元に近寄った。
国王は言う。
「こんな時に申し訳ないが余はこの通りだ…政務を執る事はちょっと厳しい…」
それを聞いたジェムは我が意を得たりといった顔で頷いて応じた。
「承知いたしました国王陛下!ならば後の事は全てこのヤヴズ・ジェムめにお任せください。陛下は何も案ずる事無くゆっくりとお休みになって、一日も早くお体をご回復あそばされませ」
「回復だと…馬鹿な…余はもう長くはあるまいよ…自分の体の事だ…自分が一番良く解る…」
「陛下、何を弱気な事を…!」
「聞きなさいジェムよ…他の宮臣達と良く良く協力し、この混乱の収集に尽力して欲しい…頼むぞ…」
「御意!」
そしてジェムは神妙な表情で深々と頭を下げ、寝室を後にしたのであった…。

「ふぅ〜…思わず笑みが零れそうになって焦った焦ったぁ…」
寝室を出た途端にジェムは満面の笑みを浮かべてシャリーヤに本音を漏らした。
「おめでとうございます。国王のお墨付きを得られましたね」
「うむ、あとは肩書きだね。いま宰相の地位に居るのは誰だったかな?」
「ワム殿の死後、元老の一人であるアホマディネジャド殿が務めております」
「よし、彼には宰相職を辞してもらおう。そして僕がその後釜に収まる。これで名実共に僕が百官の長…この国の頂点に立つ」
だがちょっと待てよ…とジェムは思う。
本人も言っていたが国王はもう長くない。
すぐに王太子のアルシャッドが即位する事になるだろう。
ジェムは考えた。
(…あのマザコン王子は僕に良い感情を持っていないからなぁ…母親(王妃)が生きている間は従うだろうが、その後は……いや、王妃だっていつ僕を見限るか分かったものじゃない…ここは先手を打っておいた方が良いかも知れないな…僕の君臨する世が長期安定政権であるためにね…フフフ)
ジェムは不敵な笑みを浮かべる。
急に黙り込んでしまったかと思いきや、また何か悪企みをしているようにニヤニヤと笑いだす主人にシャリーヤは尋ねた。
「ジェム様、また何かお考えですか?」
「フフン…まあね。ときにシャリーヤ、第一王妃シェヘラザードと王太子アルシャッドの行方はまだ判っていないのか?」
「はい…しかし一部の廷臣達の話によりますと、王宮が襲われた際、王太子は女の衣をまとい女官に紛れて脱出したと…それ以降どこへ身を隠したのやら、皆目見当も付きません」
「なるほど…それは好都合だ」
ジェムは実に嬉しげに目を細めてほくそ笑むのだった…。

玉を手中に収め尚且つ王妃と王太子が不在だから、王の遺言等をジェムは自分の都合で捏造できるからである。
そして、ジェムは王のお墨付きを得た時点でイルシャ王国の支配者になったも同然であった。

次にジェムはセイルの動向をシャリーヤに訊く。
「所でクルアーン・セイルはどうしているんだい?」
「はっ!今は衛士府で待機してるようです。しかも、先程バム、ブム兄弟を追い詰めた暴動に彼も活躍したようです」
「そうか…いや、彼ならあの…レジスタンスだっけ?そういう活動集団があれば参加している可能性は高いと思っていたが…やはり居たか」
「彼に興味がおありですか?」
「…そう見えるかい?」
「はい、ですがあなた様が利害関係の無い他人に純粋に興味を抱くというのは極めて珍しく思います」
「それはそうかも知れないね。しかし利害関係が無いというのは間違いだよ。前にも話した通り、彼は“聖剣の勇者”だ。僕がこの国の支配者となるに当たって彼は極めて重要なキーパーソンとなるだろう」
「それはそうかも知れません」
「ただし君の言った通り、僕は個人的にも彼に興味を抱いているのかも知れない…何せ彼の行動は面白い。そんな彼の周りではおかしな事ばかり起こる」
「私には自らトラブルに首を突っ込むただのお人好しにしか見えませんが…」
「これは見解の相違だね。まあ良い。彼を王宮へ召還するよう手はずを頼むよ」
「畏まりました、ジェム様」
シャリーヤは一礼してジェムの前から姿を消した。

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