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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 129



「こ…ここ…これは一体どういう事だぁ…っ!!?」
部下の報告を受けて大慌てで宮殿の塔の上に登ったウルジュワンは目の前の光景が信じられなかった。
地表を埋め尽くす数万とも十数万ともつかぬ大軍勢が王都へ迫って来ている。
掲げられている軍旗から各地方の太守達の連合軍である事が判った。
イシュマエル家の旗が特に多いようである。
目的は王都の奪回である事は明白であった。
自分達と同じだ。
だが、彼は心の中で叫んでいた。
(い…嫌だぁ!!せっかく王宮を落として玉座を手に入れたんだぞ!?私がヤヴズの双子に代わって次なる王となりイルシャ全土に号令するはずだったのにぃ…!!)


一方、王宮の中庭は勝利を祝う人々の喜び声で湧きかえっていた。
「やったぞおぉぉ〜〜っ!!!!」
「我々の勝利だぁ!!!」
「自由を勝ち取ったんだぁー!!!」
何も知らない民衆や下級騎士達は、ただただ純粋に今この勝利を喜んでいた。
その中にセイルも居た。
しかし彼はとてもではないが他の者達のように陽気に浮かれ騒ぐ気にはなれなかった。
敵味方関係なく沢山死んだのに勝利に浮かれる仲間の騎士や民達にセイルは憎しみの連鎖や人間の残酷さを怖さに恐怖する。
「・・・(こ…これが戦争なのか…みんな死んじゃってる…ただの殺戮だよ…こんなの悲劇を繰り返し生み出すだけだ。人間って、ここまで残酷なことが出来るのかよ・・・おかしい、こんなのおかしい)」
『セイル様、泣いても死んだ人間は生き返れませんよ。それに死んでいったお味方は国を救えて満足でしたし、敵は盗賊上がりですから生かしても意味はないですよ』
戦の愚かさと人間の残酷さにうちひしがれているセイルをアルトリアは厳しく諌めるが、セイルは納得せずアルトリアに反論する。
「どうして君は冷静でいられるんだ!人が無残に殺されたんだよ!」
思わず声に出して叫ぶセイル。
だが幸いにしてと言うべきか、周囲の喧騒に掻き消され、その叫び声に気付く者は居なかった。
アルトリアは言う。
『私に言わせていただければ、どうしてあなたはそれ程までに感傷的なのですか?とお尋ねしたいですね。あなただって敵を斬ったではありませんか。いやむしろ誰よりも多く殺したのはあなたですよ、セイル様』
「そ…それは君が妙な術を使って僕の理性を奪うなり体を一時的に乗っ取るなりしてやらせた事じゃないか!?」
『は?何を仰っているのですか、あなたは…。私は別にあなたに何もしていませんよ?』
「な…っ!!?そ…それじゃあ、あれは…!?」
『…そうです。あなたの心の内に潜んでいた敵への憎しみに聖剣が呼応したものです。ええ、聖剣を身に付けていた影響で情念が高ぶりやすくなっていたのは認めましょう。ですがセイル様、その元となる感情は確かにあなたの物であり、あの行動はあなたの望みでもあったはずですよ?』
「そんな…僕が…僕が望んだっていうの…?人を殺す事を…?」
セイルは改めて自分の両手を見つめた。
血に濡れたその手を…。


王宮が民衆の歓声に沸き返ったのは、ほんの一時だった。
すぐにジェム率いる諸州の連合軍が王都に入城して来て民衆は逐われるように王宮から退散させられたからである。
中には泣き叫ぶ者もいた。
多くの人々が命を落とし、世の中が変わると思っていたのに、結局また元の王族と貴族が支配する世の中に戻ったのだから、やりきれなかった…。
「フンッ…賤しい平民共が神聖なスルタン(王)の家を汚い足で踏み荒らしやがって…」
ジェムは荒れた宮殿内を見渡して忌々しげに独りごちた。
王宮陥落の後、乱入した平民達による略奪があったのだ。
価値のある物は奪われ、酷い所では壁に施された金細工まで引っ剥がされた。
幸いにして被害が酷かったのは王宮の中でも前宮と呼ばれる(外交や政治を行う)区画で、後宮(王族の生活区)は殆ど無傷だった。
建国以来500年に渡って歴代国王により増改築を繰り返して来た王宮の内部は造りが非常に複雑で、城内に敵の侵入を許しても奥まで到達するのは難しいのだった。
「しかも、バムとブムをあっさりと蹴散らしたせいで、僕が諸州の太守を率いた意味が無いじゃないか・・・クッ腹が立つ!」
諸州の太守たちを上手く纏めて率いた自分が双子たちを討ち取る手筈だったのに連中のせいで計画が大幅に狂ったのだが、ジェムの率いた大軍のお陰でクーデター派の首領であるバム、ブム兄弟は打ち取られ、クーデター派の人間は全員倒された。
しかし、それでもバム、ブム一派を自分の手で討ち取り一気に名を馳せ実権を握りたかったジェムの怒りは収まらなかった。

そこへ、シャリーヤが王を確保したのを報告しに来た。
「ジェム様、後宮で軟禁されてたアフメト陛下を確保しておきました」
「そうか、それで陛下は御無事か?」
シャリーヤの声で少し冷静さを取り戻したジェムはアフメト王の様子を聞こうとするが、
シャリーヤから予想外の出来事を聞かされる。
「それが芳しくないようです。もって明日までです」
「何だと、それは本当かい!」
王が重体と聞き一瞬びっくりするが、直ぐに不敵な笑みを浮かべ天はまだ自分を見放してないのをジェムは確信する。

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