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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 127


(あ…あれ?…僕、どうしてたんだっけ…?)
混戦の最中、セイルは正気に戻っていた。
不思議な事に彼にはあの大殺陣を演じていた間の記憶がまるで無かった。
まるで憑き物が落ちたかのような気分で辺りを見回す。
「うわあぁぁっ!!?」
思わず叫んだ。
無惨に斬り捨てられた無数の死体が自分の周りに転がっている。
自分もまた頭のてっぺんから足の先まで返り血で真っ赤に染まっていた。
「ぼ…僕が殺ったのか…!?僕が…!!?」
記憶が少しずつ蘇って来る。
だがその記憶もどことなく現実味の無い…夢の中の出来事を思い出しているような、ぼやけたものだった。
それでも自覚した途端に体がガクッと重くなる。
常人離れした活躍をした…その筋肉の疲労が一気に来たようで、セイルは血の海の真ん中にペシャンと腰を下ろした。

彼の周りでは凄惨な光景が展開されていた。
泣き叫びながら許しを請う黒覆面を狂気に取り憑かれた騎士と民衆が虐殺している。
しかも殺る方は皆、嬉々とした表情を浮かべて…。
それは戦争ではない。
一方的な殺戮であった。
地獄だ…とセイルは思った。


だが同時に、自分はまだこんな所でへばっている場合ではない…とも思った。
バムとブムを探し出して身柄を確保せねば…。
自分のすべき事が解ると、まだ躰を動かせる事も理解した。
(まだいけるぞ…!)
彼は服の袖を引き裂いて聖剣を握った右手と剣とを固く縛り付けた。
剣の刃から滴り落ちる大量の血糊のせいで、そうでもしないと柄を握っていられない。

そう言えば、これだけ血を吸ったはずなのに、聖剣の刀身には血糊が一つも付いていない事に今さらながら気付いた。
(美しいな…)
セイルは一瞬この状況を忘れて思う。
このどす黒い地獄絵図の中、聖剣だけが一点の血曇りさえも無く、抜けるように白く穢れ無く光り輝いていた。
聖なる剣と呼ばれる由縁なのかも知れない。
まあ今はそんな事どうでもいい。
セイルは痛む躰に鞭打って立ち上がり、宮殿の奥へと急いだ。

奥へ奥へと急ぎながらも、その途中で目にする戦いの惨状に、セイルは心を押し潰されそうな悲しみに包まれた。
「僕が…こんな地獄を…」
『気をしっかり持ってください!戦いはまだ終わってはいません!!』
セイルの状態に危険を感じたアルトリアは、聖剣の中からセイルに対してそう呼びかける。
歴戦のアルトリアにとってはこの程度の惨状は何ほどの事も無く、もっとむごい拷問の光景を目にしたことさえあったが、セイルには刺激が強すぎ、このままではセイルの心は折れてしまうところだった。
「ごめん・・・そうだね。彼らの犠牲を無駄にしないためにも、早くこの戦いを終わらせなきゃ」
セイルは吐き気を堪えながらも、そう自分を叱咤する。
だが、同時に彼は心の片隅で、何故これほど犠牲を出してまで、戦わねばならないのかという疑問もまた感じていた。

セイルが北門へやって来ると、四頭立ての大型馬車が一台、全速力で彼方へと走り去っていく所だった。
それをウルジュワンが一人、見送るように佇んでいた。
彼の左手には何かの入った小さな袋が握られていた。
「見逃したんですね…」
そうセイルが言うとウルジュワンは振り返り、袋を懐に仕舞いながら言った。
「…勘違いしてもらっては困るな。我々の目的は彼らを捕らえ、処刑する事ではないのだよ?」
袋からはジャラジャラという音がした。
中は金貨か宝石か…だがセイルにはどうでも良かった。
全身返り血で真っ赤なセイルに対してウルジュワンは全く綺麗なままだった…が、それもセイルにとってはどうでも良い事だった。

「私の下で働きたまえ」
ウルジュワンは言った。
「バムとブムは去った…では次にこの国を導くべきは誰か?それはこの私だ。君には最高幹部の席を用意しよう。なあに、今回の君の働きを考慮すれば当然だ。共にこの国を導いて行こうではないか!」
ウルジュワンはセイルに手を差し伸べた。
セイルはその手を握り返す代わりに言った。
「…戦争では二通りの人間が必要となると聞いた事があります。血を流す者と、平和を築く者です」
「ふむ…まぁ、そうだろうね。さしずめ君が前者で私が後者といった所かな?」
「いえ…僕は、ウルジュワンさん、あなたに平和が築けるとは思えない…」
「な…っ!!?」
「失礼いたします…」
セイルは一礼し、踵を返して去って行った。
「後悔するぞ!!」
ウルジュワンはセイルの背に向かって怒鳴り付けた。
「私の誘いを受けなかった事…必ずな!」
それに対してセイルは何も答えず、その場を後にした。


一方、何とか脱出に成功したバムとブムは既に王都を出ていた。
「ブ…ブムよ!これからどうするんだなぁ!?」
「とりあえず地下に潜って一発逆転の機会をうかがうんだな!なあに金はたんまりあるんだな!僕らはまた必ず返り咲いてやるんだな……ん!?」
手綱を握り馬鞭を振るっていたブムは馬車の行く先に何かを見つけた。

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