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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 120

「…という事は、あの黒覆面の男達が持っていた銃はやっぱり君が…?」
「……」
セイルの問いにアリーは無言で頷いた。
やがて彼は悲しげに話し出した。
「…学士院を退学になって…密かに想い合っていた女性が望まぬ結婚をする事になって…どうにかなってしまいそうだった…世の中の全てが恨めしく思えて…こんな世界、全て壊れてしまえば良いと思った…そんな時にあの双子と出会ってしまったんだよ…」
「「……」」
セイルもミレルも掛けるべき言葉が無かった。
だがアルトリアだけはアリーに対して冷たく言い放った。
「まったく…本っ当に取り返しのつかない過ちを犯してしまいましたね。あなたの残りの人生全てを懸けても償いきれない程の大罪ですよ」
セイルとミレルは慌ててたしなめる。
「ア…アルトリア!なにもそこまで言わなくても良いじゃないか!」
「そ…そうですよ!アリーさんの身になって考えれば…!」
「いいえ、もし私に言わせてもらえるのならば『なに被害者ヅラしてんだブチのめすぞコノヤロウ』と申し上げたいですね」
「言ったじゃないか!言い切ったじゃないか、お前!」
「…いや、いいんだ、セイル。アルトリアさんの言う通りだよ…。これは僕の意思でやった事なんだ。僕も今回の騒動の責任者なんだよ…」
「アリー…」
「……」
セイルとミレルは何も言えずにうつむく。
アルトリアはアリーに言った。
「…ではアリー殿、あなたは自らも加担して招いてしまったこの現状に対して今何をすべきであるか、お解りになりますか…?」
「何をすべきかですって?何が出来るっていうんです…今の僕なんかに…」

その時だった。
「みぃ…みづげだあぁぁっ!!!!」
あらぬ方向から耳をつんざくような叫び声がした。
四人は一斉に声の方に目をやる。
そこには一人の男が立っていた。
薄汚れてボロボロになっているが貴族の服を身にまとい、無精髭は伸び放題、肌は垢と土にまみれて汚れているが、その瞳のみが異常なまでに爛々と光り輝いている。
よだれを垂らしながらニタァ…と不気味に微笑むその姿は完全に狂人以外の何者でもなかった。
「ザ…ザダーム!!!」
アリーが叫んだ。
それを聞いてセイルも目の前の狂人の正体を思い出した。
「あぁ!!ムスタファ・ザダーム!生きてたのか!?」
良く見るとザダームの着ている服は婚礼衣装のままだ。
あの修羅場と化した結婚式場から逃げ延び、数日間どこでどうしていたのか不明だが生き延びていたらしい。
だが…
「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!ザッバーフ・アリーいぃぃ!殺すぅ!殺ずうぅぅ!!あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!!」
…既に彼は正気を失っているらしかった。
ザダームは奇声を発しながら腰に下げていた礼装用の装飾剣を抜いた。
儀礼用だが刃はある。
「み…みんな!下がってて!」
セイルは荷物と一緒に背中に担いでいた聖剣の柄に手を掛けた。
ところがアリーがその前に手を差し伸べて制した。
「…いや、セイル、ヤツの狙いは僕だ。君達は関係無い。逃げろ…」
「何言ってるんだよアリー!?」
アリーは三人の前に歩み出てザダームとの間に立ちはだかった。
「ザダーム…考えてみればお前もこの騒動の被害者なんだよな…」
アリーは悲しげな表情でザダームに語り掛ける。
「ぎいぃやあぁおぉうええぇぇぇぁぁああああっ!!!?」
ザダームは訳の解らない事を叫びながら剣を振りかざし、アリーに向かって斬りかかった。
「く…っ!!」
それに対してアリーは何か覚悟を決めたかのようにスッと目を閉じたのだった。
彼はザダームに斬られて死ぬ気だ。
それに気付いたセイルは叫んだ。
「アリー!!!!駄目だああぁぁぁ!!!!」

瞬間、刃が閃いた。

「……?」
自分が死んでいない…どころか斬られてすらいない事に気付いたアリーは恐る恐る目を開けた。
目の前にザダームがうつ伏せに倒れている。
彼は喉を切り裂かれて絶命していた。
一体どうなったんだろうかと状況を整理しようとしていた所にアルトリアの声がした。
「まったく…どこまで甘チャンなんですか、あなたは…。死んで責任を取るなんて、私から言わせてもらえば“責任逃れ”ですよ。あの世への逃避ですね」
「ア…アルトリアさん…」
アルトリアは(恐らく魔法で出したと思われる)血の付いた短剣を消した。
「よ…良かったぁ…」
セイルはホッと胸をなで下ろした。
だが次にアルトリアの口から出た言葉に耳を疑った。
「…しかしまぁ、これだけの事をやらかしたのです。死にたくなる気持ちも当然でしょう。私はアリー殿が死ぬ事自体には反対いたしませんよ」
「な…何言ってるんだよアルトリア!?」
セイルのツッコミを無視してアルトリアはアリーに言う。
「…ただ、今死なれるのは困る。私達にはあなたの力が必要ですからね。罪滅ぼしだと思って私達に力を貸してください。それが済んだら後は止めませんので、首吊りなり飛び降りなり入水なり練炭なり手首を切るなりお好きにどうぞ」
「……解りましたよ。それで、僕は何をすれば良いんです?」
「あなたには聞きたい事が山ほどある。王宮の間取り、兵の配備状況、残り弾薬量…それにあの銃とかいう兵器の弱点もね」
「そんな!まさかあなた達、剣で銃と戦うつもりですか!?無理です!どんな剣豪でも立ち向かって行く前に撃ち殺されてしまいますよ!だからこそ僕はバムとブムに銃を薦めたんだ!あの近衛剣士隊だって歯が立たなかったんですよ!?」

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