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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 116

自分の部下になり王都奪還の為の兵の提供を約束したドルフに大満足のジェムは腰を上げ長旅で疲れたと抜かし、温泉宿の提供をドルフに命じる。
実はナハルシャットには温泉地があり、イシュマエル家の保養地も兼ねていたのである。
「それでは、兵が集まるまで長旅で疲れた僕は君の家自慢の別荘と温泉で寛いでるよ。それまでの接待もお願いね」
「ク…解りましたよ。ジェムさま!」
滞在中の接待もしろと嫌味に命令するジェムにドルフは怒りを抑え命令に従った。
「そうやって素直でいれば良いんだよ。じゃあ、行くぞシャリーヤ」
「はいジェムさま」
屈服したドルフに大満足のジェムは側近のシャリーヤを連れて部屋を後にした。
一人部屋に残され怒りに震えながらドルフは復讐の炎を燃やしていた。
「・・・・・・・・・・(あの野郎!俺を怒らせた事を後悔させてやる!)」

それから数日…

ジェムの行動は早かった。
イルシャ王国各地の有力者へ向けて使者を送り、新政権打倒を呼び掛けたのだ。

曰わく、バムとブムは現王家に代わって自らが王となり、国を欲しいままにしようという野心を抱いて挙兵し、王都を制圧して国王陛下を幽閉した。
現状を憂えた国王陛下は密かに自分(ヤヴズ・ジェム)に新政権打倒の勅命を下された。
自分は勅命に従い挙兵するので諸侯も是非とも力を貸してもらいたい。
既にイシュマエル家は自分と共に兵を挙げる事を約束した。
なお、新政権側に付いたり態度を渋ったりした者については、政権奪回後に相応の処分が下されるので、そのつもりで…。

以上のような内容であった。
もちろんクーデター発生とほぼ同時に王都を脱出したジェムは、国王からの勅命など受けているはずも無い。
国王が幽閉されたというのも真っ赤な嘘だ。
確かめようが無い。
だがそれは諸侯とて同じ事。
こういう時は嘘でも良いから調子の良い事を言っておいた方が良いのだ。

案の定、この報を受けた諸侯は皆ジェムに付く事を表明した。
諸侯も馬鹿ではない。
ジェムが嘘を吐いている事は解っていた。
だがイシュマエル家がジェムに付いたという事が決定打となった。
イシュマエル家を敵に回したバム&ブムの新政権はもはや風前の灯火だ。
また、どんな手を使ったかは不明だが、あのイシュマエル家を味方に付けたジェムの手腕を見込んでの事もあった。

ドルフはと言うと自分の領地ナハルシャットからイシュマエル本家のあるハクルという地を訪れていた。
ハクルはイルシャ王国最大の州であり、イルシャ・マディーナ、イスカンダリアと並び“イルシャ三大都市”と称される州都ハディス・マディーナを中心として、人口、経済力、軍事力…全て一独立国並みの規模を有していた。
このハクルの太守を務めるのがドルフの父イシュマエル・マシャラフの兄…すなわちドルフにとっては伯父に当たる現イシュマエル家当主・イシュマエル・アクバルである。

「お久しぶりでございます、伯父上」
「おぉ!久しいなドルフ。聞いたぞ。ヤヴズ家の双子が王都に建てた新政権、潰す事にしたそうだな!」
イシュマエル・アクバルは椅子にふんぞり返り、太鼓腹を突き出して満足げに言った。
さすが“イシュマエルなくしてイルシャなし”のイシュマエル家を束ねる当主だけの事はあり、威風堂々たる風貌をしている。

「…はい、本日はその件に関しまして本家の協力を得たいと思い、お願いに参りました」
「良いだろう!協力しようではないか。ワシはヤヴズ家には恨みがあるからな…。ヤヴズ・セム引退の後、順当に行けばワシが王国宰相になるはずだったのに、セムは自分の息子ワムを指名しおった。だからワムが謀反の容疑で処刑された時は、ワシは胸がスッとしたものだ…。良い機会だ!これを機にヤヴズと名の付く者共は中央政界から一掃してやる!あれは王家に…いや、この国に巣くう寄生虫だからな!ヤヴズ家を皆殺しにするためならば5万でも10万でも兵を出してやるぞ!わははははは!!」
腹を揺すって大笑いするアクバルにドルフは言いにくそうに言う。
「お…伯父上、非常に申し上げにくいのですが…実は今回の新政権打倒の話を最初に持ち掛けて来たのは、ヤヴズ家のヤヴズ・ジェムなのです…」
各州に送られた協力を仰ぐ使者もジェムの名で送り出された事も伝えた。
アクバルは顔を真っ赤にして怒った。
「な…何だとぉ!!?ジェムと言えばセムの孫…それでは何か!?この騒動はいわばヤヴズ家の内輪揉めという事か!?」
「一つの見方として、そういう風にも取れましょう…」
「ふ…ふざけるな!!それでドルフ!お前はジェムの下でヤヴズ家のために戦うというのか!?何でイシュマエル家の一員であるお前がそんな争いに加担せねばならぬ!?」
「お…伯父上!!俺は何もジェムやヤヴズ家のために兵を挙げる訳ではありません!!バムとブムを討ち、王都で苦しんでいる人々を救うために戦うのです!!」
ドルフはやや強い語調で挙兵を決意した理由を訴えた。
本当は脅されているからだ…とは言えない。
ジェムのためではない…それは半分は自らに言い聞かせているようでもあった。

アクバルはヤヴズ家という名を聞いただけで拒否反応を起こし、聞く耳を持たない。

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