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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 114

そこに、その男はいた。
「やぁ〜!イシュマエル・ドルフ君、久し振りだねぇ〜」
ヤヴズ・ジェムはにこやかな笑みを浮かべて立ち上がると、大袈裟に両手を広げてみせた。
それはまるで数年来の親友に再会したかの如き態度であり(ちなみにドルフとジェムは(セイルを陥れようとした企みがバレた時に助けてもらった事を除けば)特に友人でもなければ付き合いも無かった)その動作はやや芝居がかっていて嘘臭かった。
こいつ、こんな胡散臭いヤツだったっけ?…とドルフは思う。
彼が学生時代に抱いていたジェムのイメージと言えば、ちょっとキザっぽい所はウザいが、服の着こなしや言動などは洗練されていて、なんかモテそうなヤツ…といった感じだったが、今改めて見ると、それらは何だかショボく感じられた。
それはドルフが精神的に成長したためでもあるのかも知れないが…。
「…ああ、久し振りだな。ヤヴズ・ジェム」
「まったくだ。卒業以来だものねぇ。…君、少し変わったんじゃないかい?何か落ち着いたというか…」
「そう言うお前は何も変わってないな。うらやましいよ」
「ハッハッハッ!参ったね。…それはそうと今日来たのは別に君と学生時代の思い出話に華を咲かせようと思っての事じゃないんだ。君はまだ知らないと思うんだが、今王都は…」
「お前の従兄弟がやんちゃしちまった件なら既に聞いてるぞ」
「あれ…そうなの…?」
ジェムは意外といった顔で斜め後方に控えていたシャリーヤに耳打ちする。
「…情報早くないか?王家直轄領しか知らないはずだぞ…」
「…イシュマエル家は自費で自領に魔信を巡らせているそうですから…」
「…なるほど、それが国設の魔信網と繋がっていたという訳か…」
目の前でヒソヒソ話し始めた二人に、ドルフは咳払いして話を戻した。
「ゴホンッ…で?用向きを伺おうか」
「そうだったね。単刀直入に言おう。王都を取り戻すのに力を貸して欲しい」
「取り戻す?王都を制圧したのはお前の従兄弟達…つまりヤヴズ家の同族じゃないのか?」
「ちょっと訳あって彼らと僕とは立場が違うんだよ」
「訳とは…?」
「……」
ジェムは少し黙り、そして口を開いた。
「今年は涼しいねぇ…そろそろ夏だというのに…」
「話を逸らすなよ」
「君の所のように主産業が農業という州は大変だろう…」
「解った。話したくないんだな…まあ良い。…で、俺に何を求めている?」
ジェムはスッと真顔になり、ドルフを真っ直ぐ見て言った。
「イシュマエル家の力だ。経済力、軍事力…そして他州への影響力…」
「確かにイシュマエル家が王都に出来た新政権に反旗を翻したとなれば他の州も続々と味方に付くだろうな」
「その通り!どうか僕に力を貸してくれ!新政権が王都を占拠して何をしているか君は知っているかい?ヤツラは無実の人々を犯し、殺し、金品を略奪しているんだ。まるで盗賊さ!…ま、クーデター軍自体が元盗賊や犯罪者の寄せ集めなんだから当然か…どんな無法者の集団でも銃を持たせれば軍隊だもんなぁ…」
「なんだ、お前やけにクーデター軍に詳しいじゃないか」
「あぁ…まぁ、ちょっとね…しかしここは自然が豊かで良い所だ。やはり田舎は良い。都会に住んでると時たま無性に緑が恋しくなってね…やはり人間本来の…」
またジェムは濁した。
(どうもコイツは俺に何か隠してるな…)
ドルフはジェムを信用出来なかった。
そもそも学生時代から何か得体の知れないヤツだと思っていたが、今、少しは物事の分別が判るようになって改めてこの男と接してみて確信した。
(間違い無え…コイツ、絶対に関わらない方が良い類の人間だ…)
ドルフはハッキリ断る事にした。
もしこの男に深く関われば、きっと我が身一人のみならず、イシュマエル家全体に取り返しの付かない災厄をもたらす…そんな気がしたのだ。
理屈ではない。
第六感とでも言うべき物が全力で警鐘を鳴らしていた。
彼は言った。
「ジェム、申し訳ないが俺はお前の力にはなれん。悪く思わないでくれ」
「ド…ドルフ君!!?それは本気で言っているのかい!?冗談にしては笑えないよぉ!」
「悪いが俺は冗談が嫌いなんだ。それだけは昔から変わってねえつもりだぜ…」
「……」
ジェムは一瞬、憎悪に満ちた悪鬼のような顔でドルフを睨み付けた。
…が、次の瞬間、彼はまるでこの世の終わりのような悲壮感に満ちた表情になった。
そしてドルフの手を握り締めて訴えかけた。
「ドルフ君!!頼む!今僕達がこうしている間にも王都の人々はバムとブムによって恐怖と苦痛のどん底で泣いているんだ!どうか人々を救うために僕に力を貸してくれ!お願いだ!この通りだ!」
ジェムは何度も何度もドルフに頭を下げた。
その瞳からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちている。
「うぅ…し…しかし…俺の一存ではイシュマエル家の動向を決める事は出来なくてだなぁ…」
ドルフはジェムから目を反らしながら何とか言い訳した。
彼は涙とか情に訴えられると弱いのだ。
やはりまだ甘い。
ジェムはその隙を見逃さない。
形勢有利と見た彼は一気にたたみかけに入った。
「ドルフ君!想像してごらん!暴徒と貸したクーデター軍に取り囲まれる若き母と幼い娘!ママ…ママ…怖いよ…怖いよ…すすり泣きながら母親にすがりつく幼い娘!!迫り来る飢えた野獣共!!!さあ!!彼女達を救えるのは君だけだ!!!君は彼女達を見捨てる事が出来るかぁ!!!?」
「ハァ……ジェム、そんなに俺の協力を得たいなら情になんか訴えずに普通に頼めば良いじゃねえか…やましい所が無えんならな」
「…………何だと?」

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