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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 112

「まぁ、世の中には夢も希望も職も金も無いが時間だけは腐るほど持て余してて、おまけに鬱憤を募らせてる連中ってのが結構いるみたいだからな。そういう連中は何かかんか理由を付けて暴れたいんだろうよ」
「冗談じゃないっすよ。俺の同期、他の中隊も含めて10人はやられたんですから」
「そんなにか?それは笑えんな」
「そうでしょう?だから俺、連中が根城にしてる酒場を突き止めて乗り込んで、ひと暴れしてやったんすよ。そしたらボコ殴りにしたチンピラ共の中にイスカンダリアでも五指に入る大商人の息子が混じってて…しかもその商人ってのが現イスカンダリア総督のマリクシャーと親しく付き合ってる間柄で…」
「なるほど…そりゃあお前、運が無かったな」
「でも小隊長殿のお陰で3日の営倉入りで済みました。すいません、俺のためにあのヒョーロク玉(ハディード中隊長)に頭下げさせちまって…」
「気にするな。俺がお前を助けたのは、お前が自分のためでなく仲間のために闘ったからだ。あと仮にも上官をヒョーロク玉なんて言う物じゃない。どんな馬鹿でも阿呆でもな…。兵士が上官をナメ始めたら軍隊は組織として成り立たなくなる。そうなったらお終いだ」
サラーム小隊長からパサンは如何に軍隊で秩序が何で大事なのか、諭すように教える。
無能なお偉いさんやハディード中隊長たちを考えるとパサンは納得がいかない部分もあったが、
歴戦の猛者であり小隊内でも親父さんと慕われているサラームの重みのある言葉にパサンは素直に聞き入れる。
「中隊長殿、ありがとうございます…肝に銘じます………」
「頑張れよ。俺は残りの仕事を片付けて帰るからな」
「小隊長殿も、無理はしないでください」
「ああ、程々にするよ」
サラームは笑顔で静かに営倉を後にした。

去り行く小隊長の背中にパサンは軽く頭を下げると再び飯を食い始めた。

彼は級友アリーが指名手配された事すら未だ知らない。
王都とイスカンダリアはそれぐらい離れていた。

パサンが王都のクーデターについて知るのは、三日後、彼が営倉を出てからの事である…。



‐イルシャ王国中東部・イシュマエル家所領・ナハルシャット‐

イシュマエル・ドルフ…セイルの同級生であり同期一の問題児であった彼は、ある地方の州の太守となっていた。
イシュマエル家はイルシャ王国の各地に所領を有しており、その合計面積は“他に並ぶ家無し”と称される程…。
ドルフは騎士学校卒業後、その内の一州を譲り受けた。
与えられたナハルシャット州は農業主体の田舎で商工業は未発達、民度は低く、おまけに治安もあまり良くない…と、問題が山積みの土地だった。
ドルフの父イシュマエル・マシャラフは「州の統治を通じて、政治とは…そして人とは何かを知れ」と言って、この州にドルフを封じた。
実践教育だが、息子にポンと一州を与える辺り、物凄い話だ。

そして地位は人を変えるというが、意外にもドルフは学生時代の乱暴狼藉・傍若無人っぷりが嘘のように真剣に政務に取り組んだ。
学校の勉強より面白かったからかも知れない。
それに問題が山積みという事は、言い換えれば伸びしろが沢山あるとも言えた。

また、彼は机にへばり付いて書類とにらめっこ…といったようなタイプではなかった。
何事も極力、自ら現場へ足を運び、自分の目で見て確かめた。
若き太守のそういった姿勢は領民達にも受けが良かった。
ドルフの指導の下、様々な試みがなされた。
地場産業への投資、州軍の増強、領民達に清潔を心掛けさせて病気も減らした。
あの札付きのワルで手の付けられない暴れ者の馬鹿は民を慈しみ育む仁君へと成長を遂げていた。
まったく人とは変われば変わるものであった。

ただ、変わらない所ももちろんあった。

「坊ちゃま!一大事にございますぞ!」
「ハァ…アフサン、坊ちゃまは止めてくれといつも言っているだろう。他の者達に示しが付かん」
ドルフは苦笑しつつ溜め息混じりに言った。
このアフサンは彼が幼い頃に教育係を務めた老練な騎士であり、今や彼の知恵袋であり参謀役であった。
「失礼いたしました坊ちゃま。知らせが二つございます。一つ目は王都でクーデターが起こりました」
「そうか。それは大変だったな。お悔やみを申し上げよう。では二つ目の知らせを聞こう」
「はい、近ごろ我が領内を荒らし回っていた盗賊団のアジトをついに突き止めました!」
「なにぃ!!?ついに尻尾を掴んだか!よし!アフサン、俺の鎧を持て!全軍に出撃命令だ!ヤツラのアジトを叩くぞ!一人も逃がすなあぁぁ!!!」
「はっ!ただちに!」

…それから四半刻もしない内にドルフ率いる州軍は州城を発ち盗賊の根城に総攻撃を仕掛けた。
不意を突かれた盗賊団は一人残らず捕らえられた。
正に電光石火である。
この州軍はドルフが作り直し、そして育て上げた。
もちろんアフサンの助力に依る所が大きいが、それでも大したものである。

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