PiPi's World 投稿小説

剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

の最初へ
 10
 12
の最後へ

剣の主 12

「…なるほど、来週の追試に合格しなければ退学になってしまうのですか…」
アルトリアは真剣そのものといった表情で尋ねた。
「…で、それはそんなに大変な事なのですか?」
「あ…当たり前じゃないか!騎士学校を卒業すれば晴れて国から正騎士の称号を与えられて官職に付けて一生安泰だけど、退学になったらその道も閉ざされちゃうんだよ!?」
「はぁ…その歳で既に安定思考ですか…」
「良いじゃん!…だいたい僕が騎士になってクルアーンの家を継がなきゃ、先祖代々受け継いで来た騎士としての家名が絶えちゃうよ…」
「なるほど、それは確かに大変ですね…ちなみに、試験の内容は?」
「剣術…教官と三本勝負して二本取ったら合格だって…あぁ…」
そう言うとセイルは絶望に打ちひしがれつつテーブルに突っ伏した。
「…絶対無理だあぁぁ…」
「何と…!私の最も得意とする分野ではありませんか!解りました、セイル様!私にお任せください!」
「お…お任せくださいって…一体どうするの…?」
アルトリアは胸を張って答えた。
「私がセイル様を一週間で最強の剣士に鍛え上げて差し上げます!毎日授業が終わった後、特訓です!さっそく今日から始めましょう!」
「ちょ…ちょっと、アルトリアまってよ!!」
全は急げと言わんばかりにアルトリアはセイルの手を引っ張り、外に向かった。

「さあ!セイル様、私から一本取って見て下さい!」
学園の裏庭に着き、練習用の木剣を魔法で一本召喚させたアルトリアはセイルに片方の木剣を持たせ稽古を初める。
「アルトリア、君の木剣はどうするんだい?」
「私は大丈夫です。それよりも、セイル様の技量を知りたいので、切りかかって下さい」
「えぇ〜…いや、丸腰の相手に…しかも女の子に斬りかかるなんて出来ないよぉ…」
「セイル様…仕方ありません」
アルトリアは木剣をもう一本出してセイルに向かって構えた。
「これでよろしいですか?」
「うん、ありがとう…それじゃあ行くよ!?たあぁぁー―――っ!!」
セイルは木剣を大きく振りかぶってアルトリアに突っ込んでいった。
「……」
アルトリアは微動だにしない。
間合いに入った所でセイルは一気に木剣を振り下ろす。
「やぁ!!」
ブンッ
「……」
アルトリアは平然と避けた。
セイルの木剣が虚しく空を切る。
攻撃を避けたというより、まるで普通に一歩横へ移動しただけのような落ち着き払った動作だ。
「うっ…」
あたかも余裕を見せ付けられたようなその態度はセイルの心に火を付けた。
「やぁ!!はぁ!!せい!!たぁーっ!!!」
セイルは次々と攻撃を繰り出す。
だが、その全てをアルトリアは巧みにかわしていった。
木剣が打ち合う事すら無い。
それどころか…
「ふむ…振りが大きすぎますね…太刀筋を予め私に教えているようなものです…」
…避けながら冷静にセイルの剣技について指摘して来るのだ。

数分後…
「…分かりました、セイル様。もうよろしいです」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
セイルは全身汗だく、両手を付いて息が上がっている。
「け…結局一太刀も…打ち合う事すら出来なかった…」
そんな彼に対して平然とのたまうアルトリア。
「そうですね…セイル様の場合、剣技どうこう以前に心の問題があるようですね」
「こ…心…?」
「そうです。一応、剣術の基本的な動作は身に付いているようですが、正直あんまり強くない上に“心の弱さ”が枷(かせ)になって更に足を引っ張っているという“どうしようもない感”が全体からにじみ出ています…」
「はっきり言うなぁ…ただでさえ自信無いのに、もう心折れちゃいそうだよ」
「セイル様は先ほど剣を持っていない私に切りかかる事をためらわれましたね。それこそがあなたが弱い最大の原因なのです。あなたは剣の腕が弱いという前に、人間としての“したたかさ”が足りないのです。だから弱いのです。そんなんでは社会に出た時に苦労しますよ」
「大きなお世話だよ!…あとそんなに弱い弱いって何度も強調して言わなくてもいいよ。それは自分でも解ってるからさ…」
「自覚がおありでしたら改善へ向けて努力すべきではありませんか?」
「そんな事言っても生まれ持った性格だもの…どうしようもないよ」
「人間に“生まれ持った性格”などありません!あなたがセイル様である事以外は、あなた自身が無意識の内にでも選んで来た結果なのですよ?」
「い…言ってる意味が良く解らないんだけど…」
「要は“気の持ちよう”と言いたかったのです。あなたが変わりたいと望めば、あなたは変われます」
「簡単に言うなよぉ…」
セイルはいぶかしげな眼差しでアルトリアを見て、それから「ハァ…」と溜め息を一つ吐いて言った。
「…僕はさ、きっと性格的に騎士に向いてないんだと思う…。自分でも解ってるんだ。何て言うか“人を傷付ける事が出来ない”っていうのかなぁ…。練習試合の時なんかも、どうしても木剣で相手の身体を打つ事が出来なくて負けちゃったり、ドルフやタルテバにボコられたりしてても、どうしても反撃出来ないんだ…。反撃して更にやられるのが嫌なんじゃないんだよ?例え嫌な奴でも“傷付けちゃいけない”っていう思いが働いて…まるで僕の心に“リミッター(制御装置)”が付いてるみたいな…そんな感じで…」

SNSでこの小説を紹介

ファンタジー系の他のリレー小説

こちらから小説を探す