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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 110

「セイル!セイル!ジェム!ジェム!(クソ!クソ!王都にいたら出世のチャンスだったに!)
酔い醒ましと称して一人外に出たタルテバは自分を左遷させたセイルやジェムの名前を叫びながら、目の前の大木を殴り付けていた。
更にタルテバの表情と目は何処か暗く病んでいた。


そして、タルテバは夜空に輝く星々を今にも叫びそうな勢いで睨み付け自分の不幸な身の上を愚痴り初める。
(チキショーチキショー忌々しい星空だ。俺を見下しやがって!何で、俺は負け組なんだよ!)
しかし、自分の非を棚上げした逆怨みにし過ぎなかった。
そのまま、彼は密かに持ち出していた酒瓶をらっぱ飲みしながら、一晩を過ごした。




‐イルシャ王国西海岸・港湾都市アル=イスカンダリア‐

イルシャ王国の西側玄関口と呼ばれる港町イスカンダリア(正式名アル=イスカンダリア)は王家の直轄都市であり、その統治は“イスカンダリア総督府”に一任されていた。
そのトップであるイスカンダリア総督は、鎮台府の将軍とは異なり、中央から派遣されて来た高官が務める事になっていた。
総督は数年間の任期を終えると王都へ戻され、中央政界に大臣級の椅子が用意されている。
つまりイスカンダリア総督の座は“登龍門”であり、言うなれば貴族のお坊ちゃまに現場経験(の真似事)を積ませるための“箔付け”であった。
お飾りの地位だから、どんなボンクラが就いても街の統治が滞り無く進むよう、バッチリ官僚制度が整えられている(もっともこれは他の王家直轄地においても、王都の宮廷においても同様である。イルシャ王国の政治は高度に発達した官僚制度に支えられているのだ)。

現総督マリクシャー・ハッサースもまた“お飾り総督”の名に恥じぬ男であった。
名門貴族の出身で、スプーンより重い物は持った事が無い。
色白でぽっちゃりしており、一見すると温厚そうな小男だ。
だがその実、気分屋で気が短く、自分の気に入らない部下を徹底的に遠ざけてイエスマンだけを側に置き、面白くない事があると無理難題を言っては周囲の者達を困らせるという小児的な性格の持ち主であった。
残虐でないのが救いだが…。
政治には関心が無く、いずれ帰るべき中央での政治資金にと、今はせっせと賄賂を貯える事の方に執心している。

「フンッ…この二年間の任期は実に長かった。だがもう少しの辛抱だ…」
総督府の執務室の椅子に座り、マリクシャーは一人、憎々しげに窓の外を眺めながら呟いた。
青い空、海、雲、街、イルシャ王国最大規模を誇る港湾設備、そこに出入りする、あるいは碇泊している大小の船舶…それはとても美しい光景だった。
だが彼にとってはすっかり見飽きた忌々しい事この上ない景色であった。
「あと少しでこの磯臭い街ともオサラバ出来る。あぁ…そしてもうすぐあの美しき都イルシャ=マディーナへ帰れるのだ…!」
彼は目を閉じて懐かしき王都の情景を想い浮かべようとしたが、ウミネコの鳴き声に邪魔されて不愉快な気分になった。
そこへ、真っ青を通り越して土気色の顔をした部下が何の前触れも無く飛び込んで来て叫んだ。
「そそそ…総督閣下ぁ!!!」
「何事だハーシィ!?ノックぐらいせんか馬鹿者!!」
ハーシィと呼ばれた男はマリクシャーの側近だった。
「はぁ…はぁ…大変でございます!王都で革命が起こりましたぁ!!」
「か…革命ぃ!!?」
「首謀者は反逆罪で処刑されたあのヤヴズ・ワム前宰相の息子、双子のバムとブム兄弟です!!」
「バムとブム!!?」
「そして…東西南北の各鎮台府および王家直轄領および諸州は昨日までと同様、王家への変わらぬ忠誠と各々の所領の安堵に努めること…だそうです!!」
「変わらぬ忠誠!!?所領の安堵!!?」
「以上でした」
「以上!!?……という事は、つまり、どういう事だ!!?」
「…と申しますと?」
「私は王都へ帰れるのかと聞いておるのだ!!!私のイスカンダリア総督の任期はもうすぐ終わるのだぞ!!?中央に私の帰るべき場所は用意されているのか!!?」
「はあ…残念ながらただ今申し上げた事以外の情報は入っておりませんので、なんとも言えません…」

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