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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 109

「まあな…だが仕方ねえんじゃねえか?命令だしな…いや、もし“憎しみの連鎖は断ち切らなきゃならねえ”ってんで、こっちが一方的に報復を止めたとしても、ヤツラは略奪を止めはしねえと思うぜ。だってヤツラ遊牧だけじゃあ食っていけなくて生きるために略奪してんだからよ」
「じゃあ遊牧なんて止めちまえば良いのに…」
「それこそ無理だ。人間そう簡単には生き方は変えられねえもんなんだよ。俺達だって逆に農耕やめて明日から遊牧で生きて行けって言われても困るだろう?理屈じゃねえ。結局強制的に変えさせるか、駄目なら殺すしか無えんだよ。俺達の仕事はそれでも帰順しねえヤツラを殺して殺して殺しまくる事。それ以上でもそれ以下でもねえ。それで村が襲われるのは、悪いが俺達の知った事じゃねえ」
「ハァ…そんな物ですかねぇ…」
生きたまま焼き殺すという残虐な真似をしておいてなんだが、不思議と彼らにはスキティアへの憎しみは殆ど無い。
いや、むしろある種の親しみさえ感じていた。
自分が明日死ぬかも知れないという状況下では、敵への憎悪も、また死んだ味方への同情もさほど湧かないようだ。
それだけ、スキティアと隣接するここ北部地域は平和を謳歌するイルシャ王国の中で唯一紛争が絶えない激戦地なのである。
そして、王都イルシャ・マディーナではこの北方地域は地獄とも揶揄されていたのである。

「さてと、帰って温かい酒で一杯やるか!」
「良いですね〜中隊長!」
寒気を感じ、砦に戻って酒が飲みたいとつぶやく中隊長にタルテバも同調する。
実はタルテバ、ここに来てから酒の味を覚えたのであった。
そんなタルテバに中隊長は彼がここに来た頃を思い出しにやっと笑い出す。
「しかし、お前がここまで物になるなんて意外だったよ。最初はびくびく震えていた餓鬼だったのによ〜」
タルテバは苦笑するだけであったが、内心は笑ってなかった。
「ははは、そうでしたね〜(ケッ!こんな地獄じゃ、強くならないと生きられないからな!今に出世して、貴様等を顎で使ってやる!そして、ジェム!セイル!俺は何時か王都に返り咲いて、貴様たちにあっと言わせてやるからな!)」
自分を地獄へ追いやったジェムとセイルとドルフへの復讐を胸に抱きタルテバの憎しみは燃えていた(最もセイルに関しては逆恨みであるが、復讐が支えの彼には通じなかった)
そして、貧弱だった悪知恵が取り柄の彼が、生き延びて逞しくなったのはひとえにセイル達への復讐心と過酷なこの地のお陰であった。
しかし、屈折した矮小な性格と上昇志向は前より悪化していった最も周囲にはそれを隠していた。

鎮台府に戻ってみると、なにやら皆が慌ただしく走り回っていた。
「何があった?」
中隊長は一人の兵士をつかまえて尋ねる。
「あぁ〜、それが、その…何だか良く解らねえんですがね…」
「ばかやろう、訳も解らねえで騒ぎ回るヤツがあるか」
「いやぁ、俺ら下の者は事情がサッパリなんですが、どうも王都が大変らしいんでさぁ」
「なんだ?国王でも死んだか?」
中隊長の言葉に部下達はふざけて言う。
「そいつぁめでてぇ!」
「お祝いだ!」
「今夜は夜通し飲み明かしやしょうぜ!」
「オイオイお前ら…仮にも陛下に忠誠を誓ったイルシャ騎士だろう…」
「へへ…すいやせん♪」

その日の夜、鎮台府副総監(事実上のトップ)から全員に改めて正確な情報が伝えられた。

王都で政変。
ヤヴズ・バムならびにヤヴズ・ブムを首班とする新政権が発足。
東西南北の各鎮台府および王家直轄領および諸州は昨日までと同様、王家への変わらぬ忠誠と各々の所領の安堵に努めること。

内容から、この通信は新たに王都に成立した新政権とやらによって伝達された物らしい事は判った。
そして、王都で起きたクーデターに詰め所に戻った中隊長たちはと言うと。
「全く何かと思えば、王がすげ替えられただけのしょうもねえ話じゃねえかよ」
「俺達には王都の出来事なんざ〜無関係っすからね〜」
「可愛い坊やが来ると思ったのに残念だわ」
酒盛をしながら、王都で起きた政変を肴の一部にしていた
まあ、王都の出来事なんて彼等には遠く離れた外国の話にしかみえなかったのである。

「ああうめえ〜そういえば、タルテバの野郎が見かけねえな?」
酒を一気に飲み干した中隊長はタルテバの存在がいない事に気付く。
「酔い醒ましに行くって行ってたわよ」
「はっはっは!まだまだ、餓鬼だな!」
酔い醒ましに行ったタルテバを餓鬼だなと中隊長が笑ってる頃。

とうのタルテバ本人はというと。


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