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剣の主
官能リレー小説 - ファンタジー系

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剣の主 108

「はっ!」
部下の報告によると、貴族はおろか王族にすら行方知れずの者が多数という状況…一衛士の安否など判るはずも無かった。
(今の私に出来るのは無事を祈る事ぐらい…あぁ…本当なら今すぐ職務を投げ出して王都へ行って君を探したい…セイル君!)
部下が出て行き一人になったサーラは、両肘を机に付き、頭を抱えて固く目を閉じた。
サーラは生まれて初めてと言っても過言ではない程に神々に祈った。
たった一度だけ、情を交わせた少年の無事を…。



‐イルシャ王国・北部国境地帯・北方鎮台府付近の荒野‐

「タルテバあぁ!!!そっち一人逃げたぞおぉ!!!」
「はいっ!!!中隊長おぉ!!!」
アザド・タルテバは逃げる一人の少年を全力疾走で追い掛けた。
彼らの部隊は“スキティア”と呼ばれる異民族の一集落を襲撃していた。
討伐であった。

スキティアはイルシャ王国の北方で放牧生活を営む遊牧民である。
彼らは馬の扱いに長け、その技量は正に人馬一体の如しである。
そして彼らは度々国境を越えてイルシャ王国内に侵入して北部の村々を襲い、食料や金品、そして女などを略奪し、男や老人は殺し、家々を焼いた。
これに対してイルシャ王国はスキティアの臣民化を試みていた。
すなわち、彼らに農業を教え、不安定な遊牧生活から安定した農耕生活への転向を促して略奪行為を止めさせ、さらに定住させる事で王国の統治体制に組み込んでしまおうと考えたのだ。
スキティア側は堪った物ではなかった。
先祖代々、数千年来に渡って続けて来た生き方を変えろと言われて、そう簡単に変えられる訳が無い。
それにイルシャ王国北部は、あまり農耕に適した風土ではなかった。
という訳でスキティアは遊牧も略奪も止めなかった。
つい先日も村が一つ襲われ、その報復にタルテバの居る部隊が駆り出されたのだった。

「ア…ッ!!」
少年が転倒した。
「おらあぁぁっ!!!!」
タルテバは少年に飛び付いた。
馬乗りになって取り押さえた。
少年の頭を掴んで顔を見る。
まだ十歳前後に見えた。
涙を湛えた瞳でキッとタルテバを睨み付け、少年は叫んだ。
「イルシャ人、ナゼ奪ウ!?ナゼ殺ス!?ナゼ今マデノヨウニ生キサセテクレナイ!!?」
「……」
タルテバはそれに対して何も答えず、冷めた目で黙って少年を見下ろしていた。
次の瞬間、彼は腰に差していた剣を抜いて少年の首筋に当てた。
「ウ…ッ!!!?」
「…なぜ奪う?なぜ殺す?…被害者ヅラしてんじゃねえよ…」

タルテバはスキティアに襲撃された後の村…正確に言うと“村の跡”に行った事が何度かあった。
急報を受けて駆け付けるが大抵間に合わなかった。
そこら中に虐殺された人々の死体が無惨に転がっていた。
ある幼い少女の体を抱き上げてみると、まだ温かかった。
腕の中でだんだんと失われていく温もりを今でも覚えているタルテバにとってみれば、今、目の前にいる少年の涙ながらの訴えも、どことなく見当違いで自分達本位な主張にしか聞こえなかった。
彼は特に躊躇う事も無く、突き立てた剣に力を込めた。

「中隊長、仕留めて来ました!」
タルテバは切断した少年の首を持って皆の所に戻って来た。
スキティア達は集落(と言ってもテントが立ち並んでいるだけ)の中央の一ヶ所に集められ、その周りをタルテバの仲間のイルシャ兵達がグルリと取り囲んでいる。
中隊長が言った。
「おう!タルテバ、良くやったぞ。一人でも逃がすと面倒だからな」
続いて仲間達も笑いながら口々に言う。
「あら〜ん♪可愛い男の子じゃないのぉ〜ん。生け捕りにしてくれれば殺る前に楽しめたのにぃ…タルテバちゃんのバカ〜ん!」
「ガハハハハ!殺られる前に姐サンに可愛がられたらガキも浮かばれねえや!」
「あら、それどーいう意味?」
「それにしてもお前の足の速さはホント大したもんだよ、タルテバ」
「へへ…昔から足の速さだけは誰にも負けませんでしたから」
タルテバは照れ笑いしながら少年の頭部をスキティア達の方に蹴っ飛ばした。
「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
少年の母親だろうか…一人の女が気でもふれたかのように泣き叫びながら飛び出して来て首に駆け寄った。
「うるせえ!」
一人の兵士が槍で女の胴を突き刺した。
それを見た他の兵士達は笑っているか、多くは特に何も感じていないようだった。
北方鎮台府の兵士達にとって死は特に感情を動かされる類の物ではなかった。
彼らは全員狂っていた。
兵士達はスキティア達の処遇を話し合う。
「中隊長、こいつらどうします?」
「年寄りと女子供ばっかりみたいですが…」
「ああ、男共はちょうど留守だったみたいだな。こっちの被害が少なくて済んだのは良かったが…」
「まぁ、報復はあるでしょうな」
「…だな。殺るのに時間喰ってたら男共が戻って来る。まとめて焼いちまおう」
二十人弱の集落だった。
いくつかのテントに無理やり詰め込んで火を放った。
テントに充分に火が回ったのだけ確認し、皆は馬で鎮台府へと戻った。
炎の中から響いて来るスキティア達の断末魔の悲鳴を背にして…。
なんとなく豚がツブされる時の鳴き声に似ているなぁ…とタルテバは思った。

「あ〜あ…これでまたどっかの村が襲われるな。中隊長、これじゃあイタチごっこなんじゃないですかねぇ?」
タルテバは馬を駆りながら隣を走る中隊長に尋ねる。

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